招待
「やぁ。どっちが勝っているのかな?」
熱中して見ていたこともあり、後ろに人がいることに全く気が付かなかった。
誰だ!?気配がなかったぞ!?と後ろを振り返ると、そこには金髪碧眼の恐ろしくお顔の整った美男子が立っていた。
え…金髪碧眼の美男子って…あの方しかいないのでは…?と思い、エリー様の方を見ると頭を下げている。
私も慌てて同じように頭を下げる。
間違いない。この美男子は、フェルナンド・アン・ソニタリア、この国の第1王子殿下だ。これは空気に徹しよう。そうしよう。
「楽にしろ。」
「ありがとうございます。殿下、お久しぶりですわね。」
「ああ。最近は公務が忙しくてな。今日は久々に観に来られたのだ。」
「そうなのですね。」
「で、そちらは?」
あ、気づかれておられましたか。どうやら空気に徹するのは無理のようだ。
「拝謁の悦びに与れたこと至極光栄に存じます。お初にお目にかかります。デンパール伯爵家が長女、ソフィリア・アル・デンパールと申します。以後お見知りおきを。」
「ああ、其方が。」
其方が…?え、もしかして私王子様にも名前を知られているのかしら…?いや、まさかね?
「私はフェルナンドだ。」
ええ、ご存じです。こんなに近くでご尊顔を拝見できるとは思ってもいなかったので、余りのことに狼狽えております。
ですが、チラリとみるだけでもわかるその肌はなんてきめ細かいのでしょう。それなのに白すぎず、健康的で高身長。手も足もスラっと長い。エリー様よりも濃い金色の髪はまるで黄金の輝きのようで。そしてそのご尊顔!太陽に照らされた海のような碧色の瞳を縁取る睫毛の長さはエリー様の引けを取らない。高い鼻梁に形の良い唇。なんて完成された美でしょう。
これでまだ同じ年だって!?嘘でしょう!?これから大人になるにつれて色気が出てくると思うと…素晴らしい。神様、こんなに近くで見せていただいてありがとうございます。はぁはぁ。
「で?どちらが優勢なのだ?」
「そうですわね。やはりレオノール様でしょうか。今回は剣技のみですので。」
「ああ、そうだったか。…楽しそうでいいな。」
そう言いながら彼ら2人を見る眩しそうな王子様の羨ましそうな瞳がとても印象的だった。
そしてこの素晴らしいご尊顔を見ている人がもう一人。それはエリー様だ。一瞬ではあったが、エリー様の瞳には熱が籠っているように感じた。ほんのりと上気した頬と、少し吊り上がった目が柔らかくなり彼を愛おしそうに見る優しい微笑みが私の心臓をドキドキさせる。
私がドキドキしても仕方がないのだけど。なるほど、エリー様の想い人は王子様か。なるほど。
…なるほど?え?そうなの?そういう設定あったっけ?悪役令嬢であるエリザベスは王妃の座が欲しいが為にフェルナンドの妃になりたかったはずだったような…?
やはり少しずつ物語が変わってきてしまっているのかしら?それとも見間違い?
そんなことを考えていると、勝負は終わっていた。
「そこまで!勝者、レオノール様!」
しまった!ちゃんと見ていなかった!見逃してしまうとは何事だ!でもこっちはこっちでいいものが見えたから…うーん、相殺!
勝者が決まると、一気に大きな歓声が上がる。両者を讃える声と拍手が彼らを労う。そこで誇らしそうに笑うレオナール様の眩しい夏の太陽のような笑顔は健在だった。それと対比してルーウェン様は無表情だ。だけど、やや悔しそうには見える。少しだけ口角が引き締まっている気がする。それもまた気のせいかもしれないけど。
「やはりレオノールか。さすがだな。」
「そうですわね。剣技で彼に勝てる者はそうそういないでしょう。」
「そうだな。だが魔術を加えればまた状況も変わるだろう。…私もまた一戦交えたいものだ。」
「ふふ。懐かしいですわね。昔はよくここで訓練をご一緒したものです。」
「ああ。次は私も参加すると団長に伝えてこようかな。」
冗談ぽくそう言って、座っていた椅子から立ち上がると、何かを思い出したかのようにこちらを見た。
え!?見られている!?ぶわっと冷や汗が出る。王子が立ち上がったのでこちらも立ち上がらなければならない。とりあえずまた頭を下げとこう。
「デンパール嬢。」
!?
「は、はい。」
名前を…呼ばれた!!
「今度、王城で私の誕生の祝いの席があるのだが。よかったら参加しないか?」
ナ…ナンデスト!?行きたいような、行きたくないような…。
「エリーも来るだろう?」
「ええ、もちろんですわ。」
けれど、殿下からの誘いを断るなんてできるわけもなく…。答えなんか『はい』か『イエス』である。
もちろん「喜んで参列させていただきたく。」と答えるしかない。
「ああ、楽しみにしている。それでは。」
と言って去っていった。騎士団長の所へと赴いたのだろうか?
私たちはそんな彼に深く頭を下げ、お見送りした。
・・・・・・・・?
なぜこのようなことに…?
王子様の誕生日会にいくだとお!?楽しみより恐ろしさのほうが勝つのは言うまでもない。王城なんて闇と魔物の巣窟だ。魑魅魍魎の世界だ。
さぞかし私の顔色が悪かったのだろう。エリー様がやや苦笑いで慰めてくれる。
「ソフィ、大丈夫よ。殿下の誕生日はまだ小規模なほうだから、そんなに怯える必要はないわ。」
「そ、そうなのですか…?」
「そうね、上位貴族とその繋がりのある貴族。それからフェルナンド殿下を支持している貴族と友好国の臣下が数名ぐらいかしら?」
まって。それって全然小規模じゃないじゃない?
これはやばい。確実に親へ相談案件である。だけど、断ることはどう考えてもできなかったし。
うーん。まぁ考えても仕方ない。またあのご尊顔を近くで見る機会を与えられたのだ。それを楽しみに参加しようではないか。
「ちなみに生誕祭はいつ開催されるのでしょうか?」
「たしかちょうど1か月後だったと思うわ。すぐに招待状が届くはずよ。」
1か月後…。それってもうすぐじゃん!
「エリー様、私帰っていろいろ相談しないといけないみたいです。」
「そうね。マリーもそろそろ帰ってくるんじゃないかしら?」
噂をすればなんとやら。マリーちゃんは申し訳なさそうな顔をしながら帰ってきた。
「ごめんなさい、エリー様、ソフィお姉さま。」
「どうしたのですか?」
「いえ、お客様をほったらかしにしていたことに気づいて…。」
「ふふ。全然かまわないわよ。私たちの間の中じゃない?ねえ、ソフィ?」
「ええ、その通りです。それで、ユリウスは大丈夫そうでしたか?」
と聞くと、頬を赤く染めるマリーちゃん。
なんて可愛いのかしら。
「はい。すぐ治療を行ったので大丈夫なようです。」
「そう!よかったわ。マリーちゃん、今日は本当にありがとうございました。ユリウスの成長を見ることができてとても嬉しかったです。」
「え!?あ…あの…。」
「ふふ。それで、本当に申し訳ないのですが少し用事が出来てしまって帰らなければいけなくなりました。私はこれで失礼させてもらおうと思うのですが…。」
「あら、そうですの?この後お茶を用意していたのですが…。仕方ありません。またいつでもお会いできますしね。では今日はこれで解散にいたしましょうか。」
「そうね。ソフィ、困ったことがあればいつでも聞いてね。」
「エリー様、ありがとうございます。マリーちゃんも今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです。」
「こちらこそありがとうございました。とっても楽しかったです。ぜひまた来てください!」
「もちろんです!」
「ええ、楽しみにしているわ。」
そして馬車まで見送りに来てくれた2人と別れ、自宅へと帰った。
まさかこんなところで王子様と会うことになるとは思わなかった上に、誕生日会への招待だ。両親に伝えると、やはり顔を真っ青にしていたが、両親でも断れるわけがないのだ。必ずユリウスと共に行動すること!という条件のもと、参加が本格的に決定したのであった。




