フォンラトス家2
一人右往左往している私の手を2人が握り、私たちは屋敷からでてどこかに向かっている。
何人かの使用人が後ろからついてきているが、いったいどこに行くのだろうか。
しばらく歩くと大きな建物が見えてきた。まるでコロッセウムのような建物だ。本当に広大な土地だなぁと感心していると、扉の前に一人の騎士が立っている。恭しく騎士の礼をすると、彼は「お待ちしておりました。」と言った。
なるほど。ここはどうやら騎士の訓練場らしい。私がユリウスに一目会いたいという願いをマリーちゃんは覚えておいてくれたのだ。
扉の前にいた騎士が「こちらにどうぞ。」と案内してくれる。歳は40代ぐらいだろうか。茶色いぼさぼさの髪を一つにまとめ、無精髭を生やしている。茶色い瞳と目が合ったが、とくに反応はなかった。
フォンラトス家に仕えている騎士だ。個人的な感情を表に出したりしないのだろう。整えればそれなりになりそうだが、もったいない。そんなことを考えていると、2階にある観客席に案内してくれた。
「ここなら見学していても安全でしょう。」
「わかりました。ありがとうございます。」
そう返事をすると、ニコリともせず礼をしてどこかへ行ってしまった。
「邪魔にならないのかしら?」
私がそう問うと、マリーちゃんは「大丈夫です。ここには魔法の壁があって、攻撃が届かないのは勿論ですが、こちらからは見えてもむこうからは見えない仕様になっているんです。」と平然と言った。
訓練場から客席を見えない仕様になっているのは、訓練に集中するためだとか。
すごい…。そんなすごい魔法があるなんて。とても便利な魔法だなぁ。
でもそんな魔法がかかっているようには全く見えないんだけど。
不思議に思い、周りを観察したり手をかざしたりしてみるが特に何も変化がない。魔法って本当にすごいんだなぁ。
けれども!それなら!
ユリウスをこっそりじゃなく、堂々とじっくり見ることができるわ。マリーちゃんには感謝しないと!
椅子に座って下を見渡す。そこにはたくさんの騎士が整列していた。1番前の真ん中にはレオノール様、そしてその3つ後ろにユリウスが。レオノール様の髪色はやはり鮮やかで目立っている。けれどそれにユリウスも負けてない。後ろ姿しか見えないが、あの煌めくような銀色の髪は絶対にユリウスだ。
遠くからだからくよくは見えないけれど、体つきが逞しくなっている気がする。
すると、先ほど案内してくれた騎士が壇上に登り話し始めた。どこから声を出しているのかわからないくらい大きく低い声は、とても聴きやすいが圧を感じる。
「彼は、ここの騎士団長なの。」
「え!?」
そんなすごい人に案内させていたんですか!なんてこった…と思っていると、
「それでは今から1対1の練習試合を始める!」という声が聞こえてきた。
練習試合…?
何が始まるんだろう?とマリーちゃんの方を見ると、まるで悪戯が成功したようにフフフと笑っている。
マリーちゃんも実は小悪魔系…?
「ふふ、実は今日は剣のみで騎士団同士の対戦をする日なのです。別の日には魔法も使うこともありますし、今日は1対1だけれどチーム戦をすることもあるのです。きっとユリウス様の成長を見ていただけると思ってこの日にしましたの。」
ユ…ユリウスは大丈夫なのかしら…。とドキドキしていると、マリーちゃんが「大丈夫です。怪我をしてしまうことはあっても、命をとることはさすがに致しませんから。」と。
いやいや、あのお顔や身体に傷をつけるなんて…!駄目でしょう…!
けれど、騎士とは主の命を守るために命を懸けることもある。そんな時に顔が~とかは言ってはいられないだろう。
ユリウスも必死に頑張っているはずだ。その成長をお姉さまは見たい!見に来たの。一番の目的は、顔を見て癒されに来たんだけど、ユリウスの成長も見に来たのよ!
そんなことを考えていると1回戦が始まった。
どうやらトーナメント方式らしい。訓練場の中にある4つの檀上でそれぞれ戦っている。
「どうすれば勝ちになるのでしょうか?」
「相手に参ったと言わせたら勝ちとなります。ほらあそこ見てください。」
背の低い騎士の剣先が背の高い騎士の喉元に向かっている。喉元に剣を突き付けられた背の高い騎士は、剣を置いて両手を上げている。これは背の低い騎士の勝ちだ。
ここからではよく見えないが、ちょっと刺さってない?気のせいかな…?気のせいよね?
ユリウスは大丈夫かしら…?と思っていると、ユリウスより先にレオノール様の試合が始まった。が、一瞬で終わってしまった。
圧倒的な力の差でレオノール様の勝ち。
「さすがフォンラトス家の長男ね。」
「レオ兄さまは今の所、お父様に次いで強いのです。」
レオノール様のお父様は確か王城の騎士団長だ。もちろんこの国でトップの実力があるだろう。つまりレオノール様はここでは一番強いということ?
天賦の才というのもあるのだろうけど、真面目に訓練を続けているんだろうなと感じる。
すると次はユリウスの試合が始まった。騎士の兜をつけているので顔はあまり見えないが、マリーちゃんが教えてくれる。
私の方が緊張しているのはないかというぐらい、すごくドキドキしてきた。
だがその緊張は一瞬で終わる。レオノール様同様、ユリウスも一瞬で勝ってしまったのだ。いったいいつの間にこんなに強くなったんだろう。
「さすがですわ…!」
「ユリウスはとても頑張っているようですね。」
「ええ。ここに来られた時は全く相手にならなかったようですが…、本当に努力しておりました。」
お?
そういうマリーちゃんの顔がほんのりと赤く染まっている気がする。にこやかに話すその表情もいつもより柔らかい。
マリーちゃんもしかして…?
でも、考えてみればヒロインに攻略されるよりもマリーちゃんに攻略されるほうが長生きできそうだし、お姉さま応援しちゃう!
もしこんなにかわいい子が妹になるとしたら最高じゃない?むふふふふ。
と妄想しているのに気付いたのか、マリーちゃんと目が合うと顔を更に赤く染めてぷいっと逸らされた。あらまぁ、ユリウスを見ているみたい。なんてかわいいのでしょう。
それにしても、ユリウスは本当に頑張っているのね。近くに行って褒めてやりたい。けれどそれはできない。ここにきていることを本人には伝えてないし、私も伝えないようマリーちゃんにお願いしているのだ。
なぜなら邪魔になるといけないから。それに顔が見えるだけで幸せだからいいのだ。
そしてここにきて正直に思ったことを話します。
ここにいる騎士達の顔面偏差値が高い。そしてその上にチラリと見える上腕二頭筋や三頭筋、そして腹筋たちの素晴らしいこと。眼福と言わずなんて言おうか。ここは天国ですか。そうですね。天国ですね。ほぅ。
完全にうっとりしていると、騎士団長の低くしっかりとした声ではっとした。
「第1試合最終戦始め!」




