フォンラトス家
そして今日は、フォンラトス家に伺う日。
久しぶりにユリウスに会えると思うと、わくわくして寝付けなかったのは言うまでもない。
だが大丈夫。私にはこの眼鏡があるからね!隈なんて見えないはずだ。
馬車に揺られながらそんなことを考えていると、フォンラトス家に着いた。玄関の前まで馬車で進むことができるのだが、門から玄関までの距離がすごい。そして屋敷が広い。さすが公爵家である。
屋敷の雰囲気は、騎士の家だからなのかわからないが、白と青を基調としていてシンプルだが洗練されている感じがした。玄関には鎧の像がいくつかあり、どの像にも剣が携えられている。それらはシャンデリアの光に反射してギラリと鈍い光を放っていて、今にも切りかかられそうで若干怖い。
そのような置物たちを横目に部屋に案内された。
部屋の中にはすでにエリー様とマリーちゃんが椅子に座っており出迎えてくれた。まさかの私が1番最後だという…。ちょっと気まずい思いをしながら、メイドが引いてくれた椅子に座る。
「遅くなり申し訳ありません。」
「あら、そんなことないわよ。私は少し用事があって、早く来ていただけなの。」
「そうなのですか。」
良かった。遅かったわけではないようだ。
案内された客間を見ると、壁には剣が2本交差させて飾られ、部屋の真ん中にテーブルと椅子が3つ。テーブルの上には剣とはにつかわない細かいレースのテーブルクロスの上に可愛らしい花とお菓子がたくさん置かれていた。温かい紅茶が運ばれてくる。フルーティーないい香りが鼻をくすぐり、高級な物であるとわかる。
時々お菓子をつまみ、そのおいしさに感動しながら他愛のない話をする。
エリー様が特に聞きたがったのは、誘拐された時の話だった。エリー様は私と違って表情が豊かだ。ゲームではそんなイメージはなかったけどなぁと思いながら事件のことを話す。
「…それで、瞼を開けると騎士の皆さまが男達を取り押さえておりました。」
「へええ!それで?その場所がわかったのが、そのブローチなのよね?」
きらきらとした金色の瞳が私の左胸にあるブローチを捕えている。
このブローチ…ルーウェン様からいただいたこの白い薔薇のブローチ。身に着けていてほしいとユリウスからも言われたから、いつも身に着けるようにしている。
「そうです。これはダンウォール様の魔力が込められているようで。その魔力を辿って居場所を探し出してくれたみたいです。」
視線を感じたほうを見ると、エリー様が眩しい。何その神々しい微笑みは。それにしても、エリー様の瞳が一層キラキラと輝いているのは気のせいだろうか…?
マリーちゃんもニヤニヤと笑っている気がする。
むむむ。
あ、そういえば、なぜ私のことを知っているほのか聞きたいのだった。結局あのお茶会では聞けなかったから。
「ところでエリー様。エリー様は私のことをどなたからお聞きになっていたのですか?」
「もぅ、なんでそんなによそよそしい言い方なの!?」
頬を膨らませているそのお顔も大変お可愛らしいです。
ぐへへ。
「まぁ、いいわ。実は私も騎士の訓練に参加していたのよ。」
「え!?」
え?騎士の訓練!?4公爵家のお嬢様が?よほど変な顔をしていたのか、エリー様はクスっと笑って説明してくれた。
「そう。でも騎士の訓練といってもユリウスやレオノール様のような大変な訓練ではないの。基礎的なものだけよ。自分の身は自分で守らないといけないからね。小さい頃からここで教えてもらっていたから、レオノール様やマリーとは知り合いだったってわけ。」
「なるほど。」
なるほど?でも私がマリーちゃんやレオノール様と知り合ったのはあのお茶会だったはず。頭は疑問だらけである。
「ふふ。本当にソフィは面白いわね。この騎士の訓練にはたまにルーウェンも参加していたのよ。といっても、ルーウェンは天才だからすぐになんでもマスターしてしまうのだけどね。」
またもや変な顔を晒してしまっていたのだろうか。面白いと言われてしまった。慌てて両手で頬を隠す。
それにしても、騎士の訓練にルーウェン様も参加していた、だなんて。驚きである。ルーウェン様とレオノール様は友人関係でフォンラトス家へ遊びに行っているのだろうと思っていたのだけど、違ったのね。イケメン同士仲がいいとか最高なのに…。むふふふ。
ソフィリアが勝手な妄想を膨らませているのは言うまでもない。
「いやいや、エリー様も相当ですよ。あの訓練に耐えられるだけで本当にすごいです。」
「そんなことないわ。でもとにかく!ルーウェン様があんなに表情筋を動かすのは珍しいのだもの。つい気になって本人にいっぱい聞いちゃった。」
と、2人が話す声はもうすでに遠くの方で、ソフィリアの耳には入っていない。
あれ、実はエリー様めちゃくちゃ強かったりする…?
まぁ、それは置いといて。
つまり、ルーウェン様から私の話を聞いていたってことよね?でも、あのルーウェン様が私なんかの話をするのかしら…?ああ、愚痴とかを話していたのかしらね?いつまでたっても顔を見せない引籠令嬢で困っている…とか?
わぁ、それなら最悪だ。印象も最悪だろう。
…でも、エリー様はとても好意的に見えるし…。もしかしてエリー様は、引籠令嬢が出てきて珍しがって相手をしてくれているのかしら?それとも、好意的に見えるのは見せかけで実はかなり嫌われているとか?
うーん。もしかしてルーウェン様のことやはりお好きで私が邪魔でしれっと消そうとしているとか…?でもそれならわざわざ私に好かれようとする必要があるかしら?
なぜなら彼女は4公爵家のお嬢様だ。鶴の一声で私なんか吹き消されてしまうだろう。
わからぬ。
わからないことを考えてもしかたない。ここはもう、ご尊顔でも眺めておこう。そう思ってエリー様を見ると、麗しい笑顔で私を見ていた。マリーちゃんも同様にニコニコとした笑顔で私を見ている。
何だろう…居心地が悪い。つい笑顔が引きつってしまう。
すると突然マリーちゃんが立ち上がった。
「じゃあ、行きましょうか!」
「え!?」
何事!?
行くってどこへ!?
「そうね。こんなふうに見学するのは初めてかもしれないわ。」
「たまには楽しいと思いますよ。」
「ええ!?」
突然のことについていけていないソフィリアはただあわあわしながら、美しく可愛らしい2人に手を握られて部屋を出ることになった。




