エリザベス2
「お久しぶりです。ソフィリア様。」
ゴホッ、ゴッホゴホ。
吃驚してクッキーが変なところに…!ゴホゴホ。
「だ、大丈夫ですか…!?」
可愛らしいこの声は…。
声の方へと振り向くと浅緋色の髪をふわふわと揺らした女の子が心配そうに慌てた様子でこちらを見ていた。マリーちゃんだ。
私は差し出されたジュースを飲み干して一息つく。
ふぅ。
「ありがとうございます。そしてお久しぶりです。マリー様…でいいのでしょうか?」
「はい。レオ兄様から聞いていると思いますが、養子に入って今の名前はマリアンヌになったのですが、私のことはマリーって呼んでいただけると嬉しいです。あと、そのような言葉使いも敬称も必要ありません!」
ま、またそんな無茶を。そもそも地位が上の人を呼び捨てになんて恐ろしくてできないよ…。
それよりも、以前に会った時よりだいぶ明るくなっている印象だ。
うーん、と迷っていると、
「お願いします。」とキラキラとした上目遣いでお願いされては断ることができない。
「わかりました。ではマリーちゃんとお呼びしてもよろしいですか?」
「はい!もちろんです!」
「ふふ。それにしても会えてうれしいです。」
「はい!私も会いたかったです。けれど、レオ兄様が外に出るのをなかなか許してくれなくて。」
「あらそうなのですか?実は私もなんですよ。」
そう言って2人でクスクスと笑う。
「けれど、今日ソフィリア様が参加するとお聞きして、両親と兄を説得して参ったのです…!それで、あ、あの…。」
「?」
「ソフィリア様、あの、お願いがあるのですが…。」
ちらっと上目使いでこちらを見る仕草が可愛らしすぎて、何でも言うことを聞いてあげたくなる。
「私にできる範囲であれば何でもおっしゃってください。」
「あ、あの…それでは、その…ソフィリア様のことお姉さまとお呼びしてはいけませんか?嫌でしょうか…?」
「え!?」
え…!?
こんな可愛い子にお姉さまと…!?
う゛。そのようなキラキラとした瞳で見つめられると断れないよ…。そして、そんなの嫌なわけないじゃない?
「嫌では勿論ないのですけれども…。どうしてかお聞きしてもよろしいですか?」
「本当ですか!?実は…ソフィリア様のようなお姉さまが欲しかったのです。あの時とても頼もしく、私は心から尊敬致しました。それに、フォンラトス家には男兄弟しかいませんから。だからずっとお姉さまの存在を憧れていたのです。…ソフィお姉さま。」
とまたそのキラキラとした上目使いで私を見る。
ああ…ここにも…ここにも天使がいたわ…。白い小さな羽が見えるようだわ…。
そんな幻想を見ていると、後ろの方から声が掛かった。
「あら、楽しそうね。」
エリー様だ。
「エリー様、こんにちは。」
マリーちゃんの綺麗なカーテシーをみると、よく教育されているのがわかる。
「マリー、私も混ぜてほしいわ。」
あれ?さっきのモブたちはいいのだろうか?とさっきのご令嬢の集団を見ると、モブ3人組がこちらを睨んでいる。恐ろしや。
だが、何もすることはできないだろう。なんせエリザベス様はこのお茶会で一番位が高いし、マリーちゃんは4公爵家の娘だから2番目。さっきのように下手に会話に口出すことはできないだろう。
「エ、エリー様、あちらは…大丈夫なのですか?」
「ええ、正直ああいう方たちは苦手なの。公爵家としての立場があるから足蹴にはできないのだけど…。」
むむむ?やっぱり、思っていた悪役令嬢のイメージと違う…。
もしかしてマリーちゃんが生きていることで何かが変わったの…?かもしれない?
「エリー様とマリーちゃんはお知り合いなのですか?」
「ええ、4公爵家の集まりで昔から顔を会わせているのよ。それに…昔はよくフォントラス家に行っていたのよね。ふふ。」
と言ったエリー様の顔は今まで以上に優しく麗しい微笑みが携えられていて。ほんのりと上気がかったピンク色のほっぺが愛らしい。
これはいわゆる、恋する乙女ってやつの顔ではなかろうか…。それにしても美しい。恋って美しい人をさらに美しくさせるのね。…ほぉ。つい魅入ってしまうのはしかたない。うん。
つまり昔からフォントラス家に行っていて、そこに好きな人がいるってことは…もしかしてレオノール様?そういえば手紙でルーウェン様も昔から通っているってきいた。もしかしてルーウェン様…?
ズキリ。
少し胸の奥に鈍い痛みが走った気がした。
食べすぎかしら…?だってここのお菓子どれも美味しすぎるんだもの。
それにしてもエリー様の想い人が誰なのか気になるが、怖くて聞くことなんてできない。マリーちゃんを見てもニコニコしているだけだし。もしかしたら私の勘違いかもしれない。
「そうだ!ソフィ姉さまも、私の屋敷にぜひ遊びにいらしてください!」
「ええ、ぜひ行きたいわ。」
というか、このお茶会が無事に終わったらユリウスに会いに行く予定だしね!
「ソフィ姉さま!?マリーだけずるいわ。ソフィリア、私もソフィって呼んでいいかしら?」
何故か急に真剣な表情で言うエリー様。
お伺いを立てなくても、なんとでも呼んでいただいて構わないのだけど。
「え…?ええ、もちろんです。」
そういうと、最高の笑顔が返ってきた。天上のお方ですか?周りで咲き誇っているどの花よりも華やかに美しく微笑むそのご尊顔は本当に小悪魔…いや、天使…いや、女神…だと思いました。
そんなこんなで無事お茶会は終了した。
お茶会の終わりの方で、モブ1に「お前みたいな不細工なやつがどうやってエリザベス様に取り入ったのよ!」と耳元で囁かれたり、モブ2に足を引っかけられそうになったりしたけど。そんなの無視無視。
とにかく無事終わったのだ。これでユリウスに会いに行ける!
早速無事お茶会が終了したことを両親に伝えると、改めて外出を認めてくれた。
さてさて、フォンラトス家へいく予定をたてよう!でも、いきなりの訪問は失礼にあたる。どうしようか…と思っていると、次の日にマリーちゃんから手紙が届いた。ナイスタイミングである。
内容はエリー様と3人でお話ししましょうということだった。小さなお茶会である。もちろん大歓迎だ。少しの間、遠くからでもいいからチラッと一目でもユリウスに会いたいなぁなんてことを手紙に書き足し、返信をすることにした。
そして5日後、フォンラトス家へと向かうこととなった。




