エリザベス
そしてあっという間に1か月が経ち、お茶会の日となった。
私は目立つことがないよう鶯色のシンプルなドレスに身を包み、馬車に乗ってデュテローム家へと向かった。ユリウスがいないためか、両親もメリー達もとても心配していたが、参加して大人しくしておくだけ。そんな心配しなくてもいいのにって思う。
デュテローム家に到着すると、案内係の人がお茶会会場まで案内してくれる。案内される道に並ぶ剪定された庭木は、どの木も一寸の狂いもなく恐ろしいほどに揃っている。それだけでどれほどお金をかけているのかがわかる。
それよりもこの案内係の方。容姿の整ったいわゆるイケおじと呼ばれそうな雰囲気で、しばらくイケメンを見ていない私の目を少し癒してくれる。こちらを見て優しくニコリと笑ってくれるイケおじ。
ああ、イケおじもいいなぁ。そんなことを考えているとお茶会を開いている庭に着いてしまった。久しぶりの至福の時間をもう少し堪能したかったものである。
案内された場所にはさまざまな花が咲き誇っていた。ダリアにコスモス、マリーゴールド、スプレーマム…白にピンクにオレンジに…とても美しく壮観で華やかだった。
その中で一際美しく輝く女の子。
一目でわかる。彼女こそエリザベス・テン・デュテロームだ。
はちみつを溶かしたような金色の巻き髪に少しだけきつく見える双眸は美しく金色に輝いている。睫毛はその影が白い肌に落ちていそうなほど長い。肌はきめ細かく整っており、傷なんて負ったことがないだろう。立っているだけで気品を感じさせるその姿に見惚れてしまう。頭の先から爪の先まで磨かれ、眩いばかりの美しく可愛いお嬢様。
イケメンも好きだけど…美人もいいなぁ…。そんなことを考えていると、エリザベス様と目が合った。
あっ。挨拶に行かなければ。見惚れている場合ではない。
だが、こちらから行くまでもなく、彼女がそれはもう愛らしい笑顔を携えてやってきた。その姿にさすがに後ずさりしてしまう。いや、実際にはしてないよ?けれど内心はめちゃくちゃ焦っていた。
だって私のことなんて知らないはず…。
「こんにちは。」
あら、お声も美しい。それにしても位が高い方から先に挨拶されるのは身が縮む思いだ。冷たい汗が背中を伝う。
「ご挨拶申し上げます。お初にお目にかかります。ソフィリア・アル・デンパールと申します。以後お見知りおきくださいませ。」
「まぁ。そうだったわ。初めましてなのよね?私はよく話を聞いているからついもう友人だと錯覚していましたわ。」
ふさふさの何の毛でできているかわからない扇で口元を隠し、ふふふと笑っている。
え?ん?何かいろいろ物騒な話が聞こえたきがしたが…いや、ん?
「私はエリザベス・テン・デュテロームよ。出席の返事をいただいてから、今日がとっても楽しみだったの。よろしくね。」
え?ちょっとまって?なんで?まるで私が来るのを楽しみにしていたかのような言葉に疑問符が並ぶ。
「エリザベス様。少し質問よろしいでしょうか?」
「あら、私のことはエリーと呼んでください!」
「え…エリー様…。」
いいのかな…?後で罰せられたりしない…?
「様はいらないわよ。敬語もなしでかまわないわよ。私が許可するのだから。」
「で、ですが、そういうわけにはいきません。せめて様だけは…。」
と混乱気味に話すと、
「わかったわ。仕方ないわね?でもそのうち様なんてとってしまいましょうね?」とニコリと美人が笑う。
「…。」
いや、あの?このお嬢様は誰ですか?傲慢で我儘で?自己中?いや、確かにちょっと強引ではあるが…。
「それで?何が聞きたいの?」
首を軽く傾げるその姿がなんとも美しくも可愛らしい。少しきつめの美しいお顔にその可愛らしい仕草。キュンとしない人なんていないだろう。
小悪魔ですか?小悪魔ですね?美しい小悪魔に違いありません!
目の前の麗しいお顔がクスクスと笑っている。
え?なんか笑ってる?だけどその笑顔眼福です。
むふふ。って、おっといけない。最近眼福時間がなかったからついついね?
「えっと、私のことご存じなのですか?」
「ええ、もちろん!」
も…もちろん?
「それは…」
なぜか?と聞こうとしたら、私の後ろから急に甲高い声がした。
「まぁ、エリザベス様!そんなところにおいでにならないで、こちらで一緒にお話しいたしましょう!」
「そうですわ!わたくし達、エリザベス様とお話しするのを楽しみに参ったのです。」
「そうですわ。そんなのとお話ししてないでこちらへどうそ。皆さまもお待ちしておりますわ。」
エリザベス嬢は笑顔を崩さずチラっと私の方を見た。
このお茶会の主役である彼女の会話を遮るその行為が失礼に当たると思うのだけど…。
はぁ。
心の中で溜息をつき、笑顔を顔面にのせる。
「わたくしは大丈夫です。またあとで機会があれはお話ししてくださいませ。」
なぜ私のことを知っているのかとても気になるし。
「わかったわ。また後でね。」
と言って、彼女たちとともにご令嬢の集団の中へ消えていった。
ふぅ、と息を吐くと、おいしそうなお菓子がテーブルの上に並べられているのが目に入った。キラキラと机の上が輝いているようだ。嬉々としてそのテーブルに近づいていく。ソフィリア自身は気づいてないかもしれないが、ソフィリアの眼鏡…いや瞳も同じように輝いていることをエリザベスは遠くから見ていた。
暇だし大人しくお菓子を食べていることにしよう。そうしよう。
クッキーを一口食べる。ほろほろと口の中で溶けていくような触感の中に、ナッツの香ばしい香りと食感。さすが4公爵家のお茶会。クッキー1枚さえも大変美味である。手が止まらないわ。
それにしてもさっきの3人。もぐもぐ。悪役令嬢とよばれるエリザベスの後ろをいつも金魚の糞のようにくっついていたモブたちでは?もぐもぐ。
モブその1は、いつもヒロインに何かとつっかかっていた。ヒロインは貧乏な男爵家の娘の設定だった。持ち物は飾り気がなく、お昼も手作りのお弁当を持参していた。その姿を見ては、貧乏くさいとヒロインに直接言っていた。もぐもぐ。
確か…『エリザベス様がお前の姿を見て貧乏くさいと嘆いている。目に映したくないから、いますぐここからでていきなさい。』『エリザベス様が、お前がここにいると臭うと言ってらっしゃる。みなさい。ハンカチで鼻を押さえてらっしゃるでしょう?今すぐここから立ち退きなさい。』みたいな…。もぐもぐ。
モブ2は教科書を隠したり足を引っかけようとしたり、体にぶつかってきたくせに被害者ぶって大げさに痛がってみたり。もぐもぐ。
モブ3は…あれ?モブ3は何してたんだっけ?まぁいいか。もぐもぐ。
そういえば、ヒロインを操作していた時に悪役令嬢であるエリー様本人から直接声を掛けられたことってほとんどないんだよね。
「男性をみだりに触れてはいけません。貴族の令嬢として行動を慎みなさい。」とか「廊下は走ってはなりません。女性としての品が損なわれますわよ。」とか。今思えばただの注意…?それに話しかけてきたときは確かに周りに取巻きはいなかった。
むむむ?
ゲームをやっている時は悪役令嬢だという認識がついてしまっていたから、なんて厭味ったらしい人なんだと思っていたけど…。今思えば普通のことを言われていただけ…?
むむむ?
あれ?どうだったかな?
必死に思い出そうと一人で考えていると、声を掛けられた。




