向上心
さて。おはようございます。誘拐未遂(?)事件から数日が経ちました。いい天気です。晴天でございます。風がとても気持ちがいいです。私は今、鼻歌が出てきそうなほどルンルン気分です。
なぜこんなにルンルンしているかと言うと、私は今日久しぶりに庭へ出るのです。
そう。実はあれから庭に出ることすらも暫く禁止されていたの。心配させたことは事実だから受け入れるしかなかった。でも今日漸く許可が出たってわけ。
で。ルンルンしてどこに行くのかって?
それはもちろん行先はユリウスのところ。これから私は癒されに行くのです。
ふふふん。
いつもの場所へ到着すると、ユリウスは真剣な表情で剣術の稽古を行っていた。
やはり汗をかくイケメン。最高です。
でもなんだか前より表情が曇っているような…。必死というか焦っているというか。そんな感じが見てとれる。
いったいどうしたのだろうか。
休憩のためこちらにやってきたユリウスに声をかけてみる。
「ユリウス。」
「ああ、姉さま。来ていたのですか。」
「うん。今日も頑張っているのね。」
「うん…早く、強くならないと…。」
そう呟くユリウスの瞳はやはり焦りのようなものが浮かんでいるように見える。
「早く?」
「…だって、今の僕じゃ姉さまを守れないですから。」
下を向きながら先ほどより小さく呟かれた言葉をソフィリアは聞き逃さなかった。
な、なな、なんて可愛いことを言うのかしら!
『姉さまを守れない…姉さまを守れない…』
何度も頭の中で反芻するこの言葉にニヤニヤした表情が隠せるわけもなく。
さぞかし淑女らしくない顔つきになっていたのだろう。
ゴホン!という後ろからの咳払いに我に返った私はすぐに顔を整えた。
メリー、グッジョブ!と心の中で思いながら、なぜ急にユリウスが焦っているのかを考えてみる。
もしかしてあの時…誘拐事件の時、私を残して兵士を呼びに行かせたことをまだ根に持っていたりする?それとも、あの時自分の手でマーガレット様を救えなかったことを気にしている?
でもどちらにせよ、そんなに急に強くなることはできないのは本人もわかっているはず。焦りは禁物よ。
「だからって無理矢理頑張っても、急に強くなるなんて無理よ。ユリウスもそれは理解しているでしょう?身体を壊してしまっては元も子もないんだから、ちゃんと自分に合った訓練をしなさい。急がば回れよ!」
「急がば回れ?」
「えとね、自分の目的を早く達成するには、危険な近道より遠くても安全で確実な方法をとったほうが、結果的に早く目的を達成できるのよっていう先人の教えよ!つまり近道なんてないってこと。」
「そっか…うん。たしかに…そうかもしれません。」
一応納得はしているのか、そう返事をしているもののユリウスの顔が晴れていないのは一目瞭然だ。
どうしたら笑顔になってくれるだろうか。イケメンの憂い顔ももちろんいいのだけれど、やはり笑顔の方がいいのである。
剣術の先生を基礎だけでなくて、もっと高度な技術を教えてくれる先生に代えてもらう?いや、それはこの家の経済的に無理だろう。それなら…。
「剣術の本格的な稽古をもっとしたいなら、フォンラトス家に頼んでみる?」
「え!?何をおっしゃっているのですか?フォンラトス家の騎士を僕の先生として来ていただくのは地位的にも経済的にも無理がありますよ。」
「まぁ、そうなんだけど。こちらに来てもらうのは無理でもユリウスが習いに行けば問題ないんじゃない?ほら、迷惑料…だったかしら?迷惑料の代わりに一緒に教えてもらったら?騎士一家なんだからみんな稽古しているでしょう?一緒に稽古をつけてもらえたら、強くなれる秘密を見つけられるかもしれないじゃない。もしかすると、ユリウスに合った剣術の訓練を見出してくれるかも。」
「そ、そんなことに使ってもいいのですか…!?」
「そんなこと?強くなりたいのでしょう?お父様やお母様にも私が考えたものにしなさいと言われているのよ。」
それに私もその…強くなった姿みたいです。絶対かっこいいに決まってる。
それになにより、それであなたの笑顔が見れるなら。
はぁはぁ。完全に煩悩ですな。
これはいわゆる先行投資。ほら、お互いに利があるしね?うんうん。
「よし、そうと決まれば手紙出しておくわね。」
あっけにとられているユリウスをその場に置いて、両親の許可を得た後にすぐに私はレオノール様に手紙をだした。するとすぐに返事が返ってきた。
思っていたより早く、内容は二つ返事だった。
よかった。
そしてどんどんと話は進んでいったのである。
「よかったわね、ユリウス。」
「はい、姉さまありがとうございます。」
「…でもまさか泊まり込みで行くだなんて…。」
それじゃあ私の癒しがなくなるじゃないの。
「…レオノール様が、どうせならフォンラトス家の騎士の訓練と一緒にしないかって言ってくださって。訓練は朝早くから始まるからここからだと毎日通うのは大変だろうって、騎士専用の下宿も一部屋用意してくださったのです。せっかくだから学べることは学んでこようかと思っています。」
そこまで決めているのなら何も言えない。彼の人生であるのだし。
すぐに会えなくなるのは、とても…とても寂しいけれど。
けれど、言い出しっぺは私だ。そう、これは先行投資。笑顔で送り出さなければ。
「そう。応援しかできないけど頑張ってね。たまには顔見せてくれるんでしょう?」
「そうですね。ああ、姉さまが顔見に来てくれてもいいのですよ?」
「そんなこと言うと毎日邪魔しに行っちゃうかもしれないわよ。」
と拗ねたように言うと、ユリウスは少し困ったように
「さすがに邪魔はしないでください!?」と言った。
それって邪魔しなければ毎日行っていいってこと?って聞きたかったけど、さすがにそうではないことはわかっている。
そしてまた2人で顔を見合わせてクスクスと笑った。
国外に行くわけでも一生会えなくなるわけでもない。むしろいつでも会いに行ける距離である。それはわかってはいるんだけど、やはり毎日会えなくなるのはやはり寂しい。
なんてことを考えていると、「姉さま。」と真剣な声で呼ばれドキッとした。
余りにも真剣な声色に、「ど、どうしたの?」と恐る恐る返事すと、さらに真剣な眼差しでユリウスがこちらを見ていて、さらにドキっとする。
「僕がいない間、危険なことだけは絶対にしないでくださいね。」
何を言われるかと思ったら、なるほどね。
ユリウスは心配症だなぁ。本当にかわいいんだから。
ユリウスはとても真剣な表情だったけど、それがなんだかとても可愛く思えてきてついクスっと笑ってしまった。
おっと、いけない。私はすぐに顔を整えて笑顔で返事をする。
「わかってるわよ。」
「…本当にわかってるのでしょうか…。はぁ。」
何を考えたのかわざとらしく大きな溜息をつきながら、そんな荷物で大丈夫なの?というぐらいの少ない荷物で馬車に乗り込んだ。
そして、フォンラトス家へと行ってしまった。
「寂しくなるなぁ。」
と呟くと、「お嬢様の日課でしたものね。」と返ってくる。
声の主はメリーだ。
そう、ユリウス剣術の稽古を近くで眺めながら癒されるのは私にとって唯一無二の至福の時間だったのだ。
これからどうしようかなって考えていると、そういえばレオノール様のことは書き出したが、残り2人のことはまだだったことを思い出した。
寂しがってばかりいられない。私は私のやるべきことをやろう。
メリーを下がらせた後、ゲームの内容を綴っていたノートを鍵付きの棚の中から取り出した。
さて。この前の続きから…っと。




