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傾国の美男子  作者: 空乃明
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ブローチ【ルーウェン視点】

誘拐事件より前のルーウェン視点の話です。

あれから彼女は私を『ダンウォール様』と呼ぶ。



あの時…

私が謝罪に訪れた時、そう呼ばれたことに思いのほか傷ついていることに自分でも驚いた。



そして彼女は、私が想像していた…予想していた反応とは全く違っていた。



魔力暴走に巻き込まれたこと。

傷を負わされたこと。

視力を奪われたこと。



どれも簡単に許せるものではないはずだ。嫌われていると思っていた。恨まれていると思っていた。



だが…彼女はいとも簡単に『許す』と口にした。



何故そんなことができる…?

驚きと戸惑いと、そして興味が湧くのは仕方のないことだと思った。








「ルーウェン様、今度は何をお作りになられているので?」

いつの間にやら勝手に私の作業部屋へと入ってきていたジャンは、興味深げに私の手元に視線をやっている。

ジャンは私の専属侍従であり、魔道具研究の仲間でもある。彼は平民出身だが、魔力持ちで頭脳も優秀だ。彼のおかげであれだけ早く『眼鏡』が完成したのは間違いない。



「はぁ。2人の時にその言葉使いは疲れるからやめろ。」

ジャンは幼い頃から一緒だ。周りに人が居れば仕方がないが、2人の時にその言葉遣いをされるとこちらが疲れる。


「はいはい。で?何を作ってんの?」

「見ればわかるだろ。」



私の手元には今、白い薔薇のブローチが置いてある。

ジャンは目を輝かせてそれを無遠慮に手にとった。そして勝手に検分し始めたのである。

せめて一言声をかけるべきだとは思うものの、昔から彼を知っている者からすれば何も言う気にはなれない。


ジャンは面白そうなものを目の前にすると灰茶色の瞳の輝きが増し、ニマニマと薄気味悪い笑顔を見せる。

そう、今まさにその状況である。目の前の彼を知らない人が見れば正直気味悪がるだろう。




「ふーーーん、どれどれ。…うわ、えっぐ。ナニコレ。超怖い。」

そう言って、ジャンは投げ捨てるように私に渡してきた。


「おい、壊れたらどうするんだ。」

「いやいや、ちょっとやそっとじゃ壊れないでしょ。ソレ。…自分用じゃないよな?」

「違う。」

「…じゃあ、誰用?」

「…ソフィだ。」

「…ソフィリア嬢?そのブローチを贈るの?」

「ああ、そうだ。」

「…振られたのに?」

やはり聞こえていたか。聞こえていたというよりは聞いていたに違いない。自作の魔道具で。

全く…主を何だと思っているのか。



「振られたわけではない。婚約は嫌だと言っていただけだ。」

「それ、振られてるじゃん。」

「違う。友人ならいいと言っていた。だから友人として贈るだけだ。」

「友人として…?そんな高価なものを?」

「別にそんなに高くないぞ?」

「いや、値段の話じゃなくて。それに付随させてある術式の話。それだけの術式が組み込まれた魔道具なんてどれだけ貴重な物か。そもそもそんなに術式を組み合わせて発動すんの?それに稼働させるには魔力も相当必要じゃない?ソフィリア嬢の魔力量で動かせるの?」

「ああ、稼働するかどうかは実験済みだ。それにブローチの方には私の魔力を込めてある。ソフィの魔力量は関係ない。」

「ナルホド。赤い方は試作品で白い方が本物ってわけね。」

机の端に置いてある2つの赤いカフスボタンを見て、ジャンはそう言った。


「そうだ。…なんだ?何か文句あるのか?」

「イイエ。アリマセン。」


そう言うジャンの顔は何か言いたそうだ。

何やら面白そうなおもちゃを目の前に出された時のようなニマニマとした表情をしている。


正直気味が悪い。


「なんだ。」

「いや、ソフィリア嬢ってなんか変わってるよなぁって思って。」


明らかに話題を逸らしている気がするが、まぁいいだろう。無言で続きを促す。


「だって、4公爵家が1つのダンウォール家次男からの婚約話を蹴るんだぜ?しかも、あの時のソフィリア嬢の表情。すごかったよな?」

「まぁ、そうだな。予想していたものとは違った。」


ルーウェンは思わず苦い顔になる。

その顔をジャンは嬉々として見ていた。



確かにあの時この世の終わりを見たかのような絶望の表情は、忘れることができない。


そもそも私がデンパール家に通っていた理由は2つ。

1つは勿論謝罪のため。2つ目は婚約を申し込むためである。私が目覚めてからソフィに会うまでの間、父と魔力コントロールの訓練をしながら話し合っていた。私はどのように責任をとればいいのかということを。父は自分で考えろと言ったが、やはり婚約を結ぶことが一番だろうと父に伝え、父もそれに同意していた。



私はもともと結婚には全く興味はなく、どうでもよかった。寧ろしたくないと考えていた。だが、貴族は特に家同士の結びつきを強く求める傾向がある。そのため『結婚をしない』そのようなことは叶わないと理解していた。

4公爵家であるダンウォール家との婚約話は数を数えきれないほどあった。その中から国や家に利がある相手が勝手に選ばれ、いずれ結婚させられるのだろうと考えていた。


今回は『自らの過ちの責任をとる』という理由はあるが、唯一自分で選択した婚約話だった。勿論責任は取らなければならないし、元々結婚相手は誰でもよかったのだからそれでよいと思っていた。


それに、私からの婚約の申し出はデンパール家にとっては有難いはずだとも考えていた。傷ついた彼女を娶ろうと考える人は少ないだろう。それに、ダンウォール家と縁を結べば、デンパール家は経済的な支援も得ることができるはずだ。つまりデンパール家にとってはかなり利のある話だったはず。

だからこそ、まさか断られるなんてことはないだろうと思っていた。



だが、実際は私の予想に反して断られてしまった。

正直、驚いた。



初めは、殺されかけた恐ろしい相手に嫁ぐのが嫌なのかと思ったが、彼女はそうではないと言い切った。



では何故なのだ?

やはり、私のことが怖いのだろうか。

私の顔は好みだと堂々と言うくせに。



私には理解できなかった。

彼女は頑なに婚約に対して否定的で、しかももう会わないとまで言い出した時は頭の中が真っ白になったことを覚えている。

それに…。



「それにさ、ソフィリア嬢は魔力量も少ないし魔術のことも詳しくなさそうなのに、なんで禁忌魔術を知ってたんだろうね?」

ジャンは勝手に話を続けている。

だがそれは、私も同じことを考えていた。



そう。

なぜソフィは禁忌魔術を知っていたのだろうか。


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