ブローチ
それにしても今回は本当に危なかった気がする。
ユリウスやルーウェン様、フォンラトス家の騎士兵たちが助けてくれなければ…。
ふぅ。
それに…
ルーウェン様とユリウスにはこってり怒られたし。
怒っている顔もかっこかわいいのだけどさぁ。怖いんだよね。うん。怖かった。
それにしても最近ユリウスには怒られてばっかりな気がするし、無表情なルーウェン様はいつも以上に迫力と言うか、圧迫というか…。怒っているという雰囲気を隠しもしていなかった。
あの誘拐未遂?事件後の馬車の中。あの中だけ凍えるような寒さだった。今思い出しても凍えそうなほどに。
ユリウスからは、危ないことをするなと約束したのにと怒られ。
ルーウェン様からは、貴族としての危機管理がなっていないと怒られ。
2人から(主にユリウスから)懇々と馬車の中で説教をいただきました。
正直2人の言っている通りだから反論ができない。謝って許してもらえるようなことではないけれど、素直に謝っておこうと思う。
「ありがとう。それからごめんなさい。」
「姉さま、本当にそう思ってます?」
「お、思ってるわよ。」
し、失礼ね?
「…本当に、本当に危ないところだったんですよ。…ダンウォール様がいなければ本当に死んでいたかもしれません。」
「そうね…本当に感謝しているわ。」
あの茜色に染まるナイフと男のニタニタ顔。
思い出すと今でも手が震える。
よく生きてるなと、自分でも思うのだ。
何処に連れ去れたのか見当がつかなかったはずなのに、よく間に合ったなと。
「そういえば、どうやってあの場所がわかったの?」
「あなたに贈ったそのブローチだ。」
え…?このブローチ?
ソフィリアはブローチを外し手の上にのせる。
「そのブローチは私が作ったものだ。」
「え!?ルーウェン様手作りだったの!?」
「…正確には少し違う。が、完成させたのは私だ。」
「すごい!器用ですね。」
こんなもの作れるんだ!すごい。何でもできるのね。さすがだわ。あれ、私ったらルーウェン様手作りの物を貰ってたの!?すごい!これは家宝にしなければ!?
さぞかし私はキラキラとした目でブローチを見ていたことだろう。
はぁ…と横からユリウスの溜息が聞こえた。
その溜息で意識がこちらへと帰ってきたのは内緒だ。いけないいけない。
「そ、それで?このブローチに何か仕掛けがあるのですか?」
「そのブローチには私の魔力を込めてある。」
「はぁ。」
「物に魔力を込めるには、相当な技術と魔力量が必要なのですよ。姉さま。」
「へぇ。」
さっきから気の抜けた返事になっているが、すごい世界だなと感心しているわけです。
「姉さま。わかっていませんね?」
「そ、そんなことないわよ?」
まぁ実際はわかってないけれど。
そんなに大きな溜息をつかなくてもいいじゃない。
「自分の魔力を込めた物は、魔力が切れない限りそれがどこにあるのかがわかるのですよ。」
「そう。ソフィリア嬢の用意していた糸が切れたところから、私の魔力を追跡してあの小屋に辿り着いたのだ。」
「へぇ。」
すごいことができるのねぇ。
さっきから感心してばかりである。
すると、思いがけない言葉が降ってきた。
「…見つけるのが遅くなって申し訳なかった。」
「え!?いえいえいえ!とんでもありません。私こそ助けていただいて本当に感謝しております。ダンウォール様たちがいなければ、今こうして生きていませんから。」
ルーウェン様は窓の外を向いており、顔はよく見えない。
まさかルーウェン様に謝られるとは思ってもみなかった。
どうしようと思っていると、急にルーウェン様と視線がかち合った。
「で?」
「え?」
「ソフィリア嬢は何であんな糸を持っていたの?」
こちらを向いたルーウェン様は、無表情に変化はないが面白がるような視線と声色で聞いてきた。
まさかそんなことを聞かれるとは思ってもみなかった私は、思いきり虚を突かれた。
「え…?」
狼狽えている私とは逆に、こちらに向ける面白がるような視線は変わらない。
「た、たまたまです。」
「たまたま?」
えーと、どうしよう。なんて言い訳をすればいいのか。
頭をフル回転させる。だけどそんな都合のいいことを何も思いつくはずもなく。
「はい、たまたま…なのです。ほら、私って周りから嫌われているでしょう?だから何かあったときのためにソーイングセット…針と糸を持ち歩いていたのです。もしかしたらドレスが破れたり…とかするかもしれないじゃないですか?」
何も思いつかなかったが為に苦しすぎる言い訳になってしまった。眼が泳いでいるのが自分でもわかる。
が、これ以外に何も言えない。そもそもブローチにそんな機能があると知っていたら持っていかなかったのに!
「ふーん?」
ルーウェン様は全くと言っていいほど納得してなさそうな表情だ。
まぁそりゃそうだろう。どこの令嬢が自身で針と糸を持っていくというのだ。そもそも刺繍はしても、服を繕ったりすることはしない。
だが、ルーウェン様は何も聞き返してこない。
何も聞き返してこないので、私もこれ以上何も言うことはない。
気づくと、ルーウェン様の冷たい圧迫オーラがいつの間にか消えていた。
(また)ユリウス視点を書いていたら、予想していた量の3倍ぐらいになってしまいました。なので現在投稿すべきかどうか迷っております…。




