その後2
炎のような赤い頭は、顔を上げてくださいと伝えても暫くそのままだった。
今日は、謝罪としてフォンラトス公爵とレオナール様が我が家へと訪れている。
親は親同士で話をし、子どもは子ども同士で話をしているわけだ。
私の隣に座っているユリウスはただ黙っている。
若干ピリピリとした空気は気のせいか…?もしかすると、以前のレオノール様の私への態度がまだ気になっているのかもしれない…?
いや、そんなわけないか。
今日のレオノール様の言動は、初めて会ったときのような不躾な感じではなく、その真っすぐな瞳と言動は心から謝罪しているということを感じとれる。だからこそその謝罪を受け取らないわけにはいけない。しかも、こんな男前が私に頭さげているんだよ?そりゃ許すでしょうよ!
「ふふ、本当に大丈夫ですよ。結局助かったわけですし。どうか、頭をあげてください。」
「…ありがとう。」
ゆっくりと頭を上げた彼は、眉を少し下げて申し訳なさそうな顔をしていた。
「そういえば、マリー様は元気ですか?あ、呼び方はマリー様でいいのでしょうか?」
「マリーもそのほうが喜ぶと思う。実は今日もソフィリア嬢に会いたいと言っていたんだが、許可を得てからの方がいいだろうということで、家で留守番しているんだ。」
「まぁ、そうなのですね。私もマリー様に会いたいとお伝え願えますか?」
「ああ、もちろんだ。マリーも喜ぶ。それで…その…ソフィリア嬢に言いたいことがあってだな…。」
何か言いにくいことでもあるのだろうか。レオノール様の目が右往左往してるように見える。それとも私が何か粗相をしてしまった?
「な、なんでしょう?」
若干怖い。
「1つは、以前ソフィリア嬢へとった俺の態度を謝罪したいと思っていた。」
へ?
もしかして、あのパーティーの時の?
「あの後、ルーウェンにも怒られた。パーティーの主催があのような態度をとっては示しがつかないと。特に4公爵家は他の貴族に対して平等に接しなければならないのだ。俺にはそれができていなかった。その場はルーウェンが君に膝をつくことでバランスをとったと聞いた。あの時はちょっと、いろいろあってイライラしていたんだ。…いや、そうじゃないな。俺は君をあの時見下していたと思う。馬鹿みたいに驕っていたのだ。嫌な思いをさせてしまってすまなかった。」
ナルホド…。なぜルーウェン様が私にあの時膝をついて挨拶したのかわからなかったが、そういう裏事情があたのか。4公爵家も大変だなぁ。
でも、わざわざそんなことを謝ってもらう必要はない。覚悟の上で参加していたのだから。
「いいえ、大丈夫です。私は、慣れていますから。」
そういうと、眉間に皺を寄せてまるで困った子を見るような眼でこちらをみた。
「いや、慣れてはいけない。慣れる必要はないんだ。」
その言葉にユリウスも隣で頷いている。
さっきまで纏っていたピリピリした雰囲気はいつの間にか無くなっていた。
「もし今度、そのような態度をとられた時は俺に言うがいい。」
「…ありがとうございます。」
一応お礼を言っておく。
だが、もし私がレオノール様に言いつけたことがばれたら、絶対に倍以上になって返ってくる未来が見え見えなのである。
「それから、もう1つ…。」
まだ何かあるの…?
「何でしょう…?」
怖い。
「いや、不躾ではあると承知の上だが、その…何か欲しいものはないか…?」
思ってもみなかったことに虚を突かれた。
「ほ、ほしいもの…ですか…?」
「ああ。なんでも構わない。いわゆる迷惑料ってやつだと思ってもらっていい…。お金で解決するのもどうかとも思うのだが、もちろん金銭でもいいし他の何かででもいい。俺ができることならなんでもしよう。謝罪と感謝の気持ちだけではこの恩は返しきれないからな。…本当に何でもいい。」
そんなことを急に言われても全く思いつかない。特に今必要な物とか特別ほしい物ってないんだよね。
「う―――ん。すぐには思いつきません。すみません。」
「わかった。急だったからな。ゆっくり考えてくれ。そしてもし何か思いつくようだったらいつでも連絡してくれ。では長居しては申し訳ないから、そろそろ失礼させていただくよ。」
「はい、お話聞かせてくださってありがとうございました。」
「いや、とんでもない。ただの身内の恥ずかしい話だからな…。こちらこそ本当に感謝している。ありがとう。では。」
と笑顔で帰っていった。
その笑顔はカラッと晴れた太陽のような眩しさだった。
なんかこう、少年だった子が青年に変わっていった瞬間を見た気がする。
いや、年齢的にそれはないか。けれど確実に大人の階段は1つ登っただろう。変化を受け入れ、考えを改めることができている。対応が大人になったし、屈託のない笑顔だけど、大人の色気が出てきたというか…。私の語彙力では説明は難しいわね。
ただただ、男前に拍車がかかったことだけは確かだということだ。
だけどレオノール様の妹であるマリー様は生きている。
これで彼の死亡フラグにはきっとヒビが入ったでしょう。よしよし。




