妹2
…でっか!
案内された温室は想像の10倍は広そうだった。
さすが4公爵家の1つ。温室さえも無駄にでかい!
探すのは一苦労かもしれない。案内してくれたメイドに礼を言い、戻りは自分たちで大丈夫だと伝えると、頭を下げて会場へと戻っていった。
さて、探すしかない。
ゆっくり扉を開けると、その向こうからむわっと花の強い香りがいっきに吹き抜ける。温室の中には小さな小川が流れており、その周りにはたくさんの花が咲いている。まるで小さな森に来たような感じである。けれど整備された小道がついているから、迷うことはないだろう。
奥の方に入っていくにつれて段々と周りの草木は大きくなり、私たちの姿を隠してしまうような大きな葉っぱや木に囲まれる。まるでジャングルだ。道から外れると完全に迷ってしまうだろう。
ふと小さな広場のようになっている場所の前に着いた。そして開けた場所にある小さな池の前に女の子がいるのが見えた。
いた…!きっとあの子だ。
「ユリウス。こっちにきて。」
小さな声で伝えて私たちは小道から外れる。そして、こちらからは女の子が見えるが向こうからは見えにくいだろう位置へ移動した。
大きな葉や木々がいっぱいあってよかった。
「な…!」
シーーーー!私は人差し指を唇に当て、大きな声をださないよう訴える。
「マーガレット様に会いにきたんじゃないの?」
それを見たユリウスは意味が分からないという顔をしながらも小さな声で話す。
マーガレット様のお顔はここからでは横顔しかみえないが、かわいい雰囲気である。レオノール様と比べるとオレンジよりの色の薄い赤…浅緋色とでも例えようか、綺麗なウェーブのかかった髪を肩まで伸ばしている。それに、レオノール様とは違って落ち着いた雰囲気で物静かそうな感じだ。
彼女は何をするわけでもなく池をのぞき込んでいた。
「マーガレット様は何をしているのかしら…?」
「さぁ…?僕は今、姉さまが何をしているかの方が聞きたいですけどね?」
と大きな溜息が聞こえた。それでも私が黙ってマーガレット様を観察しているのを見て、理由を聞くのは諦めたようだ。
すまんな、弟よ。詳しくは言えないのだ。でももしここで誘拐が起きたなら。そのときはユリウスに手伝ってもらうしかない。
そんなことを考えていると、私のでもユリウスのでもマーガレット様のでもない足音が聞こえてきた。足音は2人分。嫌な音で心臓が跳ねる。息を呑んで音が聞こえてくる方を見る。
するとそこには侍従服を着た30~40代ぐらいだろうか、体格のいい男と細身の男がやってきた。二人とも身長が高く、頭に当たる枝や葉を嫌そうに払いながら小さな広場へと歩いてきていた。
なんだ、この屋敷の侍従か。と、ほっとしたのは束の間、彼女の表情を見て息が止まる。こちらから男たちの顔はみえない。けれど男の方へ向いた彼女の表情からは困惑と恐怖が感じとれた。
遠くて何を言っているのか聞こえない。だけど、明らかに彼女の様子がおかしい。それはユリウスも感じ取ったようだ。ユリウスが出ていかないように腕を抑える。もし彼らが誘拐犯なら、ここに私とユリウスがいることがばれてはいけない。それに彼らが誘拐犯であるという確証も欲しい。
最初はへこへこと頭を下げていた彼らだが、マーガレット様が言うことをきかなかったのか、明らかに動きが雑になってきていた。そして堪忍の尾が切れたのか、いきなりマッチョの方がマーガレット様の髪を掴み口元に布を当てる。
最初はバタバタと抵抗していた彼女もすぐに静かになった。たぶん眠らされてしまったのだ。これはもう誘拐犯で間違いない。
今にも飛び出していきそうなユリウスに伝える。
「すぐに警備兵を呼んできて。それから彼らの両親にも伝えて。今すぐに!」
「で、でも…!姉さまは!?」
「私は後をつけるわ。」
「だめだ!!」
シーーーーーーー!!
「誰だ!誰かいるのか!?」
やばい…!気づかれたかもしれない!
思わず呼吸を止め、急いで見つからないようにしゃがみ込む。
シーンとする温室の中は、まるで平和そのもののようにチチチチ…と鳥が鳴いている。
2人目を合わせる。耳元で心臓が不規則に暴れている。嫌な汗が背中を伝い、手も汗でべっとりだ。
「今日はパーティーがあるだそうだ。近くに子どもが来てるのかもしれない。早くずらかるぞ!」
2人はマーガレット様を袋に入れて担ぎ、立ち去ろうとしていた。
早くしないと!
「ユリウス。あなたの方が何倍も足が速いわ。お願い。一刻を争うの!」
ユリウスの表情はかなり不服そうであったが、緊急事態だ。ユリウスもそうしたほうがいいと考えているはず。
「わかりました…!だけど絶対危ないマネはしないでください!」
そういうと、足音を消して駆け出して行った。
ユリウス…頼んだわよ!




