到着
具体的な案を思いつくこともなく、フォンラトス家の屋敷に着いてしまった。
ガーデンパーティーが開かれている庭まで案内してもらうと、そこには大勢の人がいた。さすが4公爵家の1つである。
令嬢の一人がユリウスに気づいたようだ。
「きゃあ!ユリウス様よ!」
するとそれに乗っかるように次々とご令嬢の黄色い声が聞こえてくる。
「まぁ、今日の御召し物…とっても輝かしい銀色の髪に映えていますわね…。」「素敵!」「なんて可愛らしい…いえ、かっこいいのでしょう。」
頬をピンク色に染めているご令嬢達の多いこと。
まぁ、そりゃそうだろう。だってうちの弟かっこ良いんですもの!ふふん!
と何の自慢にもならないことを想っていると、その後ろの方から私の陰口が聞こえてきた。
「ねぇ、あの同じ色のドレスを着ている子はだれ?」「ちょっと…あの目に着けてるものは何?…クスクス」「笑っちゃいけないわよ?アレはユリウス様のお姉さまよ…ぷっ」「え!?アレがユリウス様のお姉さまなの!?ずっと引籠りの?」「私なら一生引き籠っているわね。アレじゃあ…ねぇ?」
予想通りすぎて何も感じない。まぁ眼鏡も容姿もアレだし?ユリウスとは似ても似つかないからね。
ただ私見る侮蔑の色を含んだ視線が若干面倒くさい。だが、そんなことはどうでもいいのだ。
私はにっこり笑ってユリウスを促す。
「ユリウス、レオノール様への挨拶をさっさと終わらせましょう。」
「姉さま!」
あの者達を放っておくのですか!?とでも言いたげな表情だ。だが、正直どうでもいい。はやくレオノール様に挨拶をして、妹さんに会いたいのだ。
「何言われてもいいのよ。覚悟の上だもの。さぁ、さっさと行きましょう。」
それに、正直ここで言い返しても何の得にもならないのである。身分が上か下かもわからないしね。ややこしくなるのは面倒くさいのである。
「…。」
いかにも納得がいかないって顔をしながら、ユリウスはレオノール様のいる所へと案内してくれた。
レオノール様はパーティー会場の中心にいて、招待客から次々と挨拶を受けていた。燃えさかる炎のような髪色は、遠目から見ても目を引く美しさだった。癖っけのあるその髪からは愛嬌すらも感じる。やや釣目がちだが、そこに輝くオレンジの瞳は彼の意思の強さを表しているようだ。ニカっと大きな口をあけて笑い、快活に話すその姿はその場の雰囲気を明るくしているのがよくわかる。
それにしても挨拶待ちか。まだ時間がかかりそうだ。妹さんはいないのかな?とキョロキョロと周りを見渡す。レオノール様の妹なら、きっと髪色も赤いものに近いはずだろうとあたりをつけて探してみるが、それらしき人物が見当たらない。
暫くすると、ぐずぐずと順番待ちをしていたユリウスが目に入ったのか、レオナール様の方からお声がかかったようだ。
「お、ユリウス久しぶりだな!」
「レオノール様、お久しぶりです。レオノール様の方からお声をかけていただきありがとうございます。」
「はは!そんなの関係ないよ。それになかなか挨拶に来れないのじゃないかと思ってね!ん?…一緒にいるのは誰だい?」
「紹介させていただきます。こちらは私の姉でございます。…姉さま?」
肘でつんつんされる。は!いけない!
「はじめまして。ご挨拶申し上げます。ユリウスの姉、ソフィリア・アル・デンパールと申します。以後お見知りおきを。」
と一応淑女の礼をする。
すると返ってきたレオノール様の態度は予想外のものだった。
「ふ――ん。」
じろじろと検分するように見られた後、ふっと鼻で笑われた気がしたのだ。
私は勝手に、レオノール様は見た目で人を判断しない人間だと思っていた。ゲームの中では包容力があり、いつも明るく誰に対しても優しい性格だった。特に女性や子どもなど、自分より弱いもの達にはより一層優しく接していたという記憶があったからだ。
だけどそれは違っていたようだ。私は自分勝手なイメージをレオノール様に重ねていたことをとても後悔した。
彼の目は、さっきまでのキラキラとした表情とは違って不躾な目で私を見ているのは一目瞭然だった。これが本当にユリウスの姉か?視線だけではあるが、そういわれているのも同然のようだった。
周りのご令嬢・ご令息達からも同じような目で見られ、クスクスと笑われている。
まぁそれは覚悟してきたし別にいいのだけど。だけど、やはり少しいたたまれない気がする。明らかにユリウスのご機嫌が悪くなっているような気もするし…。
ここはとりあえず…逃げるが勝ち!?いや、どこへ!?
するとパーティー会場の入り口の付近で、再び黄色い声援があがる。
今度はハルムート様がやってきたようだ。肩の辺りまである水色のストレートの髪が、彼の柔らかい物腰の雰囲気を醸し出している。甘いマスクの彼は小さな頃から甘いマスクだったようだ。少し垂れた目で微笑むその姿は、とても人懐っこそうにも感じるし、なんとも言えない色気がある。
ただ、私にはわかる。彼は、人懐っこそうに見えてそうではないのだと。その笑顔は、本当には笑っていないということを知っている。
だが、遠くから見る分には本当にかっこいいのである。
それにしても、周りの視線があちらに行ったのは助かった。
ほっとしているとユリウスが小さな声で「大丈夫…?帰りますか?」って。
いや、今きたばっかりよ!?
クスっと笑って、「大丈夫。」と答えると、やはり納得のいっていない表情をしながらも「わかりました。」と頷いてくれた。
レオノール様とともに令嬢たちはハルムート様の方へと移動していった。
親鳥と刷り込まれた雛鳥みたいだと思いながら、一息つく。いや、実際には一息つく暇なく、目の前に輝かしいオーラを放った人物が現れたのだが。
輝かしいオーラを放つ人物は限られている。そう、ルーウェン様だ。
はぁああああぁぁ眩しいわ!!なんて神々しいのか!我が家に来るときの少しラフな格好も最高にかっこよかったが、なにそのテイルコートは!その姿は反則なのでは!?と思うほど彼に似合っている。
上質だと一目見てわかる漆黒のテイルコートは金色の刺繍で縁取られていて、引き締まった体幹をより美しく魅せている。さらに、上質な漆黒のテイルコートに負けないほど美しい漆黒の髪はさらりと揺れ、輝きを放っているように見えた。
だけどルーウェン様は何も寄せ付けない雰囲気を纏い、こちらの方へスタスタと歩いてきた。全てを見据えているかのような深紅の瞳がこちらを見据え、ドキリと私の心臓が跳ねる。
現実離れしているその姿にソフィリアは見惚れていた。
それにしても…
足なっが!腕なっが!
近づいてきたルーウェン様は、私の前に着くとすっと片足をつく。私の前で跪いたのだ。
ななななな、何事!?
明らかに動揺している私と、無表情のまま跪いているルーウェン様。
何が起こったのかわからず、心の中はざわざわとしている。ユリウスの方をみると、ユリウスは笑顔のまま固まっていた。どうやらユリウスも想定外のことだったようだ。
「ソフィリア嬢。お元気そうで何よりです。」
「え、ええ。ダンウォール様も。」
一体何が起こってるというの。この光景は何?
幸い、今はハルムート様たちにご令嬢たちの関心が向かっているからいいが、そうでなければもの凄い数の非難の視線が降り注いだだろう。今も数人のご令息からの視線が痛い。
「あの、どうかお立ちになってください。」
そう言って私が手を差し出すと、ルーウェン様の綺麗な手が重なった。
はぁ。やはり指の先までも美しい。
と思う同時に、気になるものが目に入った。
彼の手首に目をやると、そこには紅い薔薇のカフスボタンが輝いていたのだ。
え?この薔薇のカフスボタン…。あの夢でみたカフスボタンでは…?深紅の薔薇で形もそっくりだ。
いや、でも…。え…?そんなまさか!?




