夢
そんなこんなでガーデンパーティー前日となった。
着ていくドレスの準備もできたし、あとは心の準備だ。
明日は、失敗は許されない。どうにかして妹さんの情報を得て、レオノール様に妹さんを守ってもらうように進言するのだ。それとなく危険なことが起こるかもしれないよ、とレオノール様とできれば妹さんにも注意喚起をしたい。それで何かが変わるのかは分からないけれど。だけど言わないよりはましなはず。注意が少しでも多く妹さんに向けばいい。
そんなことを想っているとノックの音が聞こえた。
「お嬢様、失礼いたします。贈り物が届いております。」
贈り物…?私に…?贈り物をいただくような間柄の人はほとんどいない。ほとんどと言うか、強いて言うのであれば家族ぐらいだろうか。
「入って。」
入ってきたメリーの手には両手に納まるほどの箱が載っていた。その箱には可愛らしいリボンでラッピングが施されている。
いったい誰からだろう。恐る恐るそのプレゼントを受け取り、リボンを解く。箱を開けると小さなメッセージカードが入っていた。
そのメッセージカードを手に取り名前を確認すると、そこにはなんとルーウェン様の名前が書いてあったのだ。短いメッセージと共に。
『新たな一歩を踏み出したソフィリア嬢に 友人として ルーウェン』
え…?ルーウェン様?
思いもよらない相手からのプレゼントにソフィリアは困惑した。
白く薄い紙に包まれた物を丁寧に開けると、そこには真っ白な薔薇のブローチが入っていた。
とても美しい。思わず見惚れてしまうほどだ。陶器のようなガラスのようなものでできた薔薇の花びらは繊細で、幾重にも重なっている。そして、薔薇の中心には小さな赤い宝石…ルビーだろうか…が鎮座していた。大きすぎず派手じゃない。美しく可愛い薔薇のブローチだった。
何故このような高価そうなものを私に送ってくれたのだろう?という疑問を感じずにはいられない。けれど嬉しかった。初めて家族以外の人から、しかも最押しイケメンからの贈り物だ。驚いたが、ただ単純に嬉しかった。
明日直接お礼を言わなくては。
少し明日が楽しみになった。
私の着ていく予定のドレスにも映えるだろう。
このブローチを見たメリーも同じことを考えていたみたいだ。
パーティーを少しワクワクしながら寝るなんて生まれて初めてだ。レオノール様の妹さんのことを考えるとワクワクなんて言っていられないけれど。
それでも今までとは何かが違っていた。
その日夢を見た。
私は今ゲームをしている。
ああ、これは鷹城綾の時の記憶だ。
ゲーム画面をのぞき込む。目の前にはレオノールを中心にルーウェンとハルムートとユリウスがいた。ほとんどの攻略対象が揃っているではないか。何て眼福なのだろう。皆可愛いしかっこいい。歳はちょうど今くらいかも。
それからその周りには黄色い声をあげているご令嬢がたくさんいる。これは…パーティーかな?視点的にはレオノールっぽいから、たぶんこれはレオノールの隠しイベントの時のムービーね。
ああ、そうだ!思い出した!妹さんが誘拐されたのはパーティーだったわ!
これは妹さんが誘拐された日のレオノール視点の記憶のムービーだ。今これは彼の悲しい過去を見ているんだわ。
でも誘拐されたのがパーティーの時だとわかっても、その日付がわからないと話にならない。それに、レオノール視点だと何もわからない。どこで攫われたのか、どうやって攫われたのかとか。レオノールが見ていたらよかったのに…。
それにしてもレオノールの純白のテイルコートは燃えるような赤い髪をより美しく見せているし、ユリウスの瑠璃色のテイルコートは彼の美しい銀髪をより映えさせている。ハルムートはが着ている浅紫色のテイルコートは、まだ13歳なのにそう思えないような色気を醸し出している。
それにしてもルーウェンの漆黒のテイルコートに金色の細かな刺繍がよく似合っていること。何者も受け付けないようなその雰囲気にドキドキしてしまう。
とにかく4人ともオーラが半端ない。思わず感嘆の溜息がでてしまうほどだ。さすが傾国の美男子である。
ふとルーウェンが右手で髪を掻き上げる。
いい匂いがしてきそうだなぁ。と思わずくんくん匂いを嗅いでみるも、画面越しに匂いがしてくるはずもなく。なにをやってるんだろうと恥ずかしくなりながら画面を見つめていると、彼の手元にあるカフスボタンが目に入った。
あれ、このカフスボタン…プレゼントに貰ったブローチの薔薇の造りに似ている気がする。でも私は白い薔薇に対してルーウェン様のカフスボタンは小さな紅い薔薇。ただ、薔薇の中心には赤い宝石が鎮座していて、幾重にも重なる繊細な薔薇の花びらの造りや質感の感じが似ている気がする。
いや、でもまぁいくらでも似たようなものはあるよね。うん、きっと気にしすぎだな…。
そしてこのパーティーの終盤に、レオノール達は妹さんが誘拐されたという事実を知るのだ。レオノールはまさか屋敷でそのようなことが起きるなどありえないだろうという慢心があり、妹と一緒に行動していなかったことを後に心から後悔していた。
それにしてもなんて眼福なのか。
はぁ…。ふぅ…。
と、せっかくこの幸せを満喫しているのに、なぜか急に景色が変わった。
そう、目覚めたのだ。目が覚めてしまったのだ。
くうぅ。もうちょっと夢を見ていたかった!とは思うが、今日はパーティー当日。準備をしなければいけないのだ。湯あみをして軽く化粧をしてドレスに着替えて…。正直面倒くさい。侍女としてついていけばもっと楽だったのに…。とは思うが、あんなに嫌がられたんじゃしょうがない。
姉として参加するのは本当に嫌だけどね…。
「さ、お嬢様。出来上がりましたよ。」
恐る恐る、全身が映る鏡の前に立つ。
瑠璃色のドレス。派手すぎず、フリルを少なくボリュームをおさえて目立たないように。まぁあまり意味はないけれど。
因みにドレスの裾と首元にはレースがあって可愛さもある。これもあまり意味はないけれど。
なぜなら、どうせドレスがどれだけ目立たなくても可愛くても、この私と瓶底メ…魔道具のせいで全てが台無しになるのである。
あとは、肌はできるだけ見せないようにしている。傷は治ってはいるものの、傷跡は残っている部分もあるのだ。それを隠すようにレース仕様の手袋もはき準備完了。私のくすんだ銀というよりは灰色の髪はハーフアップに整えてくれた。サイドは複雑に結い上げられている。
相変わらずメリーの技術は素晴らしい。
「ありがとう。」
「その魔道具…つけていかれるのですか?」
「ええ。だってお顔を見れないのは失礼でしょう?」
せっかく眼福できる機会があるのだ。しっかり見てこないといけない。
「…さようですか。ユリウス様がお待ちです。玄関へまいりましょう。」
「わかったわ。」
いかにも残念という表情を一瞬のぞかせたが、すぐにいつものメリーに戻った。
再び鏡を見る。
もうこの魔道具の呼び名は瓶底メガネでいいわよね?
それにしてもこのドレスと瓶底メガネの不協和音がすごい。誰の目からみても合っていないことはまるわかりだ。けれど、イケメンのご尊顔をちゃんと拝みたいじゃない?そう、背に腹は代えられないのだ。
はぁ…と溜息をつきながらユリウスの待つ玄関へと向かう。そこには心配そうな顔をした両親と正装したユリウスが立っていた。
「ソフィ、本当に行くんだね。何かあったらすぐ帰ってきていいからね!」と父。
「ソフィ…。私たちはあなたのみかたよ…!」と母。
私は笑って頷く。もう笑うしかなかった。若干苦笑いも含まれているのはきのせいではない。
「ありがとう、お父様お母様。」
それにしても、二人ともどれだけ心配性なんですか。
大丈夫。私は何言われてもいいの。きっと動じることはない。ただ…ユリウスが…。ユリウスに何か言われると思うと…。ちらりとユリウスの方を見る。
私のドレスと同じ瑠璃色のテイルコートを着ている。私とは違う鮮やかな銀色の髪がキラキラと輝いて…あぁ…かっこいいわぁ。至福だわぁ。眼福だわぁ。正装をすると普段見ているより大人っぽく感じるわね。うん。最高。最高すぎる。こんな間近でみることができるなんて…やはり瓶底メガネは必要だわ。うんうん。
と心の中で頷いていると、「ではいきましょう、姉さま。」と手が差し出された。どうやら私のエスコート役をしてくれるようだ。
わぁ、大人になっているんだなぁってしみじみ思う。なんだか孫の成長を見るおばちゃんになった気分だ。前にもそんなことを感じたような気が…?きのせいかな。
さて、フォンラトス家までは馬車で30分以上かかる。ユリウスの対面に座り息を吐く。私の胸にはルーウェン様にいただいたブローチが輝いている。現在私は、怖さと高揚感でふわふわしている真っ最中だ。
「姉さま。昨日も言いましたが、必ず僕の傍にいてください。いいですね?」
「ふふ。わかっているわよ。私を守ってくれるのでしょう?」
というと、ぷいっと顔を逸らされた。ユリウスの耳は若干赤く染まっているのが見える。
照れちゃって!かわいいんだからぁ!うふふ。
とはいっても、妹さんのことを調査するにはずっと一緒には行動はできないだろう。どうにかして一人になる時間を作るか…もしくは上手く2人で行動して偶然を装って妹さんに接触して情報を得るか…。
一応妹さん本人にも気を付けるように言っておいたほうがいいものね。
どうするかを考えている間も、馬車はフォンラトス家へと確実に向かっていった。




