涙
ゴクリと喉が鳴る。口の中はカラカラに渇いていて、飲み込むものはないけれど。
「ユリウスは…
ユリウスは、私を…恨んだりしてないの?」
「はぁ!?何を言っているのです?」
ユリウスはまるで訳が分からないという表情だ。
「なぜ僕が姉さまを恨まなければならないのです!?」
「その…今までいろいろユリウスに…その…」
嫌がらせしてきたじゃない?って言おうとしたら、最期まで言う前にまた言葉を被せられた。
しかも今まで聞いたこともない低い声で。
「そんなことで僕が姉さまを恨むとでも?寝言は寝て言ってください。」
「…。」
そっかぁ。恨まれていなかったんだ。よかったぁ…よかったぁ!
ソフィリア、よかったねぇ!間に合ったかもしれないよ!
よかったねぇぇぇー!
「ちょ、ちょっと!姉さま!離れてくださいよ!」
私はほっとした勢いでついユリウスに抱き着いてしまった。でも、何を言っても離れない。
だって嬉しかったんだもおおぉぉん!恨まれてなかったよぉぉぉ。神様ありがとうぅぅぅぅ!ううううう!
ぐすぐす。涙が止まらぬ。これはうれし涙であるからいいのだ。
何がいいの?とかいう空気の読めない質問は受け付けません。
ちょっとユリウスの服に涙やらなにやらがいろいろ付いちゃっているけど、許してもらおう。
「ちょっと!もう…。ダンウォール様すみません。」
あ、そういえばルーウェン様がいたんだった。
すっかり忘れてたうえに、この失態を見られてしまった。
これは…恥ずかしい。だけどやっちゃったものは仕方ない。これで呆れられるなら、それはそれでいいだろう。
ユリウスははぁと大きな溜息を吐きながら、私の背中をポンポンと軽く撫でてくれる。
優しい子に育ったなぁ。なんておばあちゃんみたいなことを考えていると、ああ…また涙が…。
「いやいや、微笑ましいよ。君たちは仲がいいね。」
と言って、ルーウェン様は呆れた感じも出さずに綺麗な青色のハンカチを渡してくれた。
「ありがどうございまず…。」
私はハンカチを受け取り、瓶底メガ…魔道具を外して涙を拭く。鼻水も拭きたいが、さすがにこの高級なハンカチをこれ以上汚すわけにはいかない。
止めようとすればすればするほど流れてくるこの涙は何なんだろう。でもうれし涙からいいよね。2人の視線が少し痛いけれど…。
「ずみばぜん…。」
それにしてもこんなに泣いたのはいつぶりだろうか。だけどなんだかスッキリした気分だ。
ふぅと一旦一息入れる。落ち着くために入れなおしてくれた紅茶を飲んだ。メリーのあの『淑女はどこに行った?』と言わんばかりの冷ややかなあの視線に少し涙が引っ込んだきがします。ありがとう。
でも、私としては泣く予定はなかったのだ。想定外だった。うん。
ちらりと2人を見る。
正直更に気まずくなってしまった感はある。とりあえず謝っておこう。
「お見苦しいところをお見せいたしました。すみません。」
「いえいえ。大丈夫ですか?」
「はい、もう大丈夫です。」
「それで?パーティーには参加するのですか?」
私はちらっとユリウスを見た。
「ちゃんと姉として出ていただけるのであれば出席の返事をします。」
「…わかりました。」
姉として参加するのは正直気が引けるけれど。背に腹は代えられぬ。妹さんの命を守るのは私にしかできないのだ。たぶん。
「そんなに会いたいのですか…?」
「え?」
ぼそっとルーウェン様が呟いた言葉は、何を言っていたのか聞こえなかった。大事な事なら言ってくれるだろうし、きっとたいしたことではないのだろうと思う。
「では私は、そろそろいい時間ですので失礼いたします。」
もうそんな時間が経ったのか。でも今日はユリウスの想いも聞くことができたし良かった。途中からお客様のことを忘れていたのは内緒です。
「また来月末に。私も出席しますので、その時もよろしくお願いします。」
やはり綺麗な礼をするなぁと見入っていると、隣から咳払いが聞こえてきた。
は!またやってしまったわ。私はすぐに立ち上がって、
「はい、また来月。よろしくお願いいたします。」
と淑女の礼をした。
「で?」
「で?とは?」
「なんでいきなりパーティーに参加する気になったのですか?」
「うーんと…。」
どう説明したらいいものかと考えていると、答えを待てなかったのかユリウスが先に話始めた。
「最近ぼーっとしていたことと関係あるのですか?」
「そ、そうね?」
そんなにぼーっとしていたのかしら。
「パーティーに参加したら解決しそうなのですか?」
眉間に皺を寄せてこちらを見ているユリウス。そんな姿も可愛いのだけれど、なんて答えていいのかわからない。
「どうだろう。それはわからないわ。」
「…。何を考えているのかわからないけれど、言いたくないなら言わなくてもいいです。だけど絶対に危ないことをしないでください。あと、僕から絶対離れないでください。これだけは約束してほしいのです。了承していただけますか?」
私には前科があるから。と厳しい瞳でこちらを見ているユリウス。
いや、だからそんな姿も可愛いのだけれど。うふふ。
ルーウェン様の屋敷で勝手に家族から離れて魔力暴走に巻き込まれるということをやらかしてから、家族は割と過保護になっているきがする。
けれど前科がある分、渋々だが頷くしかなかった。
「わかったわ。ありがとう。さすが私の可愛い弟ね。」
といって頭を撫でると、ユリウスはぷいっとそっぽを向いてどっかに行ってしまった。
ああ!もう、かわいいんだから!
それから、パーティーに参加すると両親や侍女達に言うと、皆とても心配してくれた。だけどユリウスが、僕が守るからって言ってくれたの。
おねえちゃんキュン死にしそうになっちゃった。




