調査
こうしちゃいられないわ。まず妹さんが生きているか確認しないと。
チリンチリン
呼鈴でメリーを呼ぶ。
「どうかなさいましたか?」
「あの、ちょっと聞きたいことがあるの。」
「何でございましょう。」
「フォンラトス家を知ってる?」
「もちろんでございます。知らない人はいないでしょう。4公爵家の一つですから。」
メリーはとても不可解なものを見るようにこちらを見ている。
「じゃあ、家族構成も知ってる?」
「はい。確か、旦那様と奥様、それからお子様が2人だったと思います。」
「今も変わってないよね?」
「…?」
意味が分からないという表情だ。そりゃそうだろう。
でも彼女の反応を見るに、誘拐事件が起こったとかそういうことはなさそうである。
つまりまだ間に合うということだ。
けれど問題が山積みだ。一番の問題はこのことをどうやって伝えるか…。
下手に伝えると私が誘拐しようとしているみたいになるかもしれないし、妹さんを狙っている人からすれば私は邪魔だろう。消されるかもしれない。
う――ん。どうしよう。
それからまた数日、何の案も浮かばないままの日々が過ぎていった。
せめていつぐらいに誘拐事件が起こったかを思い出さないと。
今日もユリウスの剣術の稽古を見ながら考える。
「姉さまどうしたのですか?」
「え!?何が?」
「何かいつもに増してボーっとしている気がするのですけど。」
「そう?そんなことないわよ?癒されながらちょっと考え事をしているだけ。」
ジトっとした目でこちらを見るユリウスにニコリと笑って返す。
ユリウスは少しずつ成長してきている。しなやかな筋肉が付いてきて、背も伸びているし男の人に成長してるのだなぁと思う。まぁ、まだまだ子どもだけど。
でも、このかわいさと美しさとカッコよさが混ぜ混ぜになった時期は今しかないのだからよく見ておかなければ!!
「大丈夫よ!今のあなたをしっかり目に焼き付けておくからね!?」
「いや、何が大丈夫なのですか!?もう。」
と言いながら大きく溜息を吐いてまた剣を振り始める。
どうやら休憩が終わったようだ。
ああ、そうだ。ユリウスにも聞かなければいけないことがあったんだわ…。また今度、二人きりになれた時にでも聞きましょう。
はぁ、憂鬱だわ。胃の辺りがもやもやする。私のことを恨んでいるとあの可愛らしい口から出てくると想像すると…はぁ。溜息しか出てこないわね。
ふとユリウスの方を見ると目が合った。が、すぐに逸らされてしまった。うう…やっぱ恨まれているのかしら…。
そんなこんなで事件のことも思い出せず、勿論であるがいい案も浮かばないまま日々は過ぎ、ルーウェン様がいらっしゃる日になっていた。
まさか本当に1か月後に来るとは思ってみなかった。
けれど今はそれよりレオノール様のことね。
思い出さないならいっそ本人のところに押しかけて注意してほしいと言うべきか。いや、それだとやっぱり怪しすぎるわよね。いつ起こるかもわからないのだし。うーーん。
「お姉さま?そろそろ戻ってきていただけませんかね?」
え!?あ!そうだった。今日はルーウェン様がいらっしゃるんだった。というか目の前に座っていらっしゃるのだったわ。申し訳ない。
今日は私とルーウェン様だけでなくユリウスも一緒にお茶をしている。どうしても今日はユリウスも同席したいと言うものだから仕方なくだ。
正直少し気まずいのでユリウスがいてくれるのは助かる。けれど、ユリウスがいるため誓約書の作成が今日はできないのだ。勿論ルーウェン様にもその旨は伝えている。
ただ、この両手に花状態。浮つくのは仕方ないと思うのよね。それに眼福過ぎて意識すると心臓がね?いつか本当に吐血しちゃうから。だから少し意識を逸らしたほうがいいのよ。なんて言い訳をしてみる。
「ユリウス、なにを言っているの?私はずっとここにいるわよ?」
「そういう意味ではありません。ルーウェン様が質問なさっているのですから、ちゃんと聞いていてください。」
あら?そうだったの?ごめんなさいね。
「それは失礼しました。」
私は頭を下げる。
「いえいえ、ソフィリア嬢。何か考え事ですか?何か心配事でも?」
「あー…。」
どうしよう。相談する?でも相談したところで、なんでそんなこと知ってるの?聞かれるとまずいし…。う――ん。
「もし何かあるのでしたらお力をお貸ししますよ。友人ではないですか。」
何その甘いお言葉は…。でもそう、私たちは友人…。巻き込むことはしたくないけど、情報を得るぐらいならいいかしら。
「友人…?」
と、呟いたユリウスの可愛い声は聞こえなかったことにして、勇気を出して聞いてみることにした。
「あの…。」
「はい。」
「レオノール・ジィ・フォンラトス様をご存じですか?」
「レオノール・ジィ・フォンラトスですか…?フォンラトス家の嫡子ですね。」
「そうです。」
「彼がどうかしましたか?」
「えーっと。」
何て説明すればいいのだろうか。
彼の妹が誘拐されるんです。助けてください?それじゃ確実に巻き込んでしまう。それにそんなこと信じてもらえないだろう。
彼の妹に会ってみたい?…何で?ってなるよね。全く関りがないのに。
どうしようどうしようと考えていると、彼の容姿を思い出した。これだ!と思い、話を進める。
「…とても綺麗な髪の色をしていると聞きましたわ。」
当たり障りのない話題だろう。なぜなら彼の髪色はフォンラトス家に代々継がれている色だからだ。それに、彼の髪色は歴代の中でも最も美しいと言われているのだ。私がその髪色に興味があっても別に問題はないだろう。
「そうですね。炎が燃えるような赤でとても綺麗ですよ。」
まぁそうですよねえ。直接会ったことはないけれど、ゲームの中でも目を引く綺麗な赤だったと思う。
「へぇ。それは素敵ですわね。それでいも…」
「もしかしてソフィリア嬢は彼みたいなのがお好みなのですか?」
え?え?質問の意図がわからない。私はどっちかっていうと彼自身ではなく妹さんのことが知りたいのだ。
で、妹の髪色はどうなのかしら?と自然と会話を妹の方へもっていこうとしただけだ。けれどそれはなぜか叶わず、ルーウェン様に遮られてしまった。
しかもいつもの冷静な声色ではなく、低く重い気がする。表情はいつもの無表情と変わらないが、若干目が座っているような気もするし…。
もしかして、レオナール様と仲が悪いのかしら?そんな設定あったっけ?
だけど少し怖くなって、返答がしどろもどろになってしまった。
「い、いえ、そういうわけでは…。ただ、まぁ、あの…少し、お会いしてはみたいですね。(特に妹さんに…)」
そう言った私の言葉と同時ぐらいに、どこかで変な音がした。
『バキッ』
え?何の音?周りを見渡してみるが特に変わりはない。いったい何の音だったのだろうか。ユリウスの方を見ても、ユリウスはニコニコと笑っているだけ。けれど若干顔色が悪そうにも見える。
「…わかりました。それでは私のパートナーとして、一緒にパーティーに参加しますか?」
「え…?パーティー…?パートナー…?」
何とも聞きなれない言葉に、ただ呟くだけになってしまっている。
「来月末にフォンラトス家でガーデンパーティーがあるのです。昼間は子供だけで、夕方より大人も交えて。夜は完全に大人だけのパーティーになるので、参加するのは夕方までとなりますが。もし参加したいのであればご一緒できますよ。」
え?何ですって?聞き間違い?ご一緒って言った?
もしかしてこの姿の私をパートナーとして連れていくというの?ご冗談でしょう?
そう思っていると、隣から天使の声が降ってきた。
「ああ、そういえば僕も招待を受けていた気がします。」
!!!!なんですって!?天からの渡り船とはこのことかもしれない!
「ユリウス、それは本当なの?!」
「は、はい。返事はまだ出してはいないですけど…。」
「出しなさい。今すぐに!もちろん出席で!」
「どうしたのですか?もしかして姉さまも参加するというの?…本気で行く気ですか?あんなにお茶会には行きたくないっておっしゃっていたのに?」
う…。行きたくない。行きたくないわよ。それは今でも変わってない。
でもレオナールの妹さんを助けたい。どうにかして誘拐される可能性があるという、その情報を伝えたいのだ。
背に腹は代えられないっていうじゃない?
チラリとユリウスを見ると、とても困惑しているのが見てとれる。目が左右にキョロキョロしているし、なにやら考えている様子でもある。
…ああ、そうか!ユリウスもこんな姿の姉を連れていくのは嫌なのね。そりゃそうよね。じゃあどうしよう。うーん。
ああ!それなら侍女の恰好をしていったらいいんじゃない?私もそのほうが楽だし。そうだ、それは名案だ!!
早速私の考えた案を提示してみる。
「そうよね。ユリウスもこんな姉と一緒にいくのは嫌よね?でも大丈夫。あなたの侍女としてついていくから!!」
自信満々にぐっと握った拳を胸に当てて私の考えを提示すると、ぐっと周りの温度が下がった…気がした。
きのせいよね?
けれどそれは全く気のせいではなかったらしい。
「はぁ?何を言っているのですか姉さまは!いくら姉さまでも言っていいことと悪いことがあります!」
う…。
ユリウスがこんなに声を出して怒っているのは初めて見るかもしれない。
でも…。
「でも…、だって…、あなたにこれ以上迷惑かけるわけにはいかないし…。なら侍女としてついていったほうが…」
全部言い切る前にユリウスが被せてくる。こんなユリウスを見るのは本当に初めてで、私が狼狽えてしまう。
「ダメです!これ以上ってなんですか!僕は姉さまを迷惑だと思ったことはありません!!」
!!!?
何ですって!?
迷惑だと思ったことが無い…!?それって私を恨んでいないってこと…?
これは…これは…私を恨んでいるかどうか聞くチャンスでは!?
ソフィリアは、ルーウェンが目の前にいることをすっかり忘れていた。




