目覚めてから【ルーウェン視点】
あの時は何が起こったのか自分でも理解できていなかった。
気が付くと、僕はどこかで横たわっているようだった。身体は全く動かず、瞼さえも持ち上げることができない。だからここがどこかはわからなかった。だが、意識だけは現実の世界に戻ってきていた。
近くで誰かの話声が聞こえる。耳だけは正常に機能しているようだ。
父と執事と…医師だろうか、3人で話をしているのが聞こえた。
「まだ目覚めないのか?」
「なんせ魔力暴走で坊ちゃまの中にあった魔力がほとんど外へと出てしまったのです。今は魔力が枯渇状態ですので例え目覚めたとしても動くことができないでしょう。もう少し魔力が戻ってくるのを待つしかありません。もともと魔力が膨大だった坊ちゃまは、戻るにも時間が掛かると考えられます。」
魔力暴走…?魔力の枯渇状態…?
「そうか。目覚めてくれるならそれでいい。だが、それにしてもなぜあれだけの被害で済んだのか…。」
「そうなのです。坊ちゃまの魔力量ならあの庭園どころか敷地全体を…いやそれ以上の範囲を吹き飛ばしてもおかしくないぐらいですから。」
「ふむ。そうだろうな。あの魔力量の暴走であれだけの被害と言うのはあまりにも不思議だ。調べる必要がありそうだな。ところであの…」
そこで意識はまた暗闇へと潜っていく。
もし本当に魔力暴走を起こしたなら、母の葬儀はどうなったのだろうか?参列していた人々は…?そして何よりあの時一緒にいたソフィは…?
そう聞きたかったけれど、瞼さえ持ち上げれない状態では声を出せるはずもなく。
再び意識が戻ったのはそれから10日後のことだった。この時私は15日間寝たきりだったようだ。
目覚めた私を家族は優しく迎えてくれた。父も兄も妹も屋敷に仕えるもの達も。母の葬儀を滅茶苦茶にし、屋敷の一部をも壊してしまった私を許してくれたのだ。謝罪と…そして感謝しかなかった。
動きにくくなった体を魔力で補填して、私はすぐに動けるようになった。目覚めて真っ先に確認したのは被害状況だ。それからあの時一緒にいたソフィのこと。
被害は私が当時想像していたより甚大だが、周りが想像していたよりかなり小さかったと説明された。魔力暴走を起こしてしまった薔薇の庭園はすべて灰と化し、地面はまるで空から巨大な何かが降ってきたかのように土がめくれ上がっていたらしい。そして今はもう修繕されているが、屋敷の西の一部は壁が破壊され、窓は粉々に割れていたらしい。怪我をしたのは私とソフィだけで、他の葬儀に参列していた人達が巻き込まれることはなかったことが何より幸いだったと説明された。
だが私の魔力量なら、ダンウォール家の敷地どころかそれ以上の範囲を灰へと化していただろうと言われた。被害はもっと大きかったはずだと。下手したら皆死んでいたかもしれないと言われ、なぜこれだけの被害で収まっているのか不思議だと説明された。あの時は自分の魔力量を正確に測れていなかったため腑に落ちなかったが、今思えば、なぜあれだけの被害で済んだのかが本当に謎である。
もしかすると、今この場に誰もいなかったかもしれない…家族も家臣も皆私が殺していたかもしれないと思うと、恐怖でしかなかった。
それからソフィは…まだ目覚めていなかった。
完全に私のせいだった。
あれから半年が経った。
ソフィの目覚めの知らせを待っていたが、全く目覚める気配はなかった。
公爵家から魔力に詳しい医師を派遣し、病状を確認していると言っていたが変化はないらしい。毎月父に同行し見舞としてソフィの屋敷に足を運んでいるが、僕はソフィには会わせてもらえなかった。私が原因なのだから仕方がないだろう。
いつ目覚めるのだろうか…。本当に目覚めるのだろうか…。どうか目覚めてほしい。
それからさらに半年が経ったある日、ソフィが目覚めたという連絡が来た。
私はすぐに支度をしてソフィの屋敷に赴こうとしたが、父に止められた。ソフィは目覚めたばかりで記憶が混乱しているらしい。そしてどうやら、彼女は魔力障害による視界不良『魔視症』になっているとのことだった。
そう。私の魔力暴走に巻き込まれたことが原因で、ソフィは視力をほとんど失ってしまっていたのだ。
呆然となった。身体の力が抜けていくような感覚に襲われた。
私は彼女の視力を奪ってしまったという事実をすぐに受け入れられなかった。
魔力障害による視界不良『魔視症』は、この世界で極稀に生じる病気である。だがそれは、自分の魔力が目で滞ってしまっているために起こる魔力の病気とされており、ソフィの場合とは違っていた。
私は派遣している医師に詳しく話を聞くことにした。だが、話を聞けば聞くほど私がしてしまった罪を受け入れるしかなかった。
詳しい原理はわからないそうだが、ソフィの瞳には私の魔力が異物として入り込み、視界を濁しているのだとか。私の魔力が無くなれば再び視界も良くなるだろうと言われているが…自然に魔力が無くなるのを待つには果てしない時間が掛かりそうだということだ。つまり、生きている間に治るかどうかわからない。
更に詳しく話を聞こうとするも、不可解なことがありすぎてよくわからないことが多いと言われた。
そして、「なにより不思議なのはあの魔力暴走に巻き込まれて生きているということだ」と医師から聞かされた時には、全身の血が凍ってしまったかと思うほど深い衝撃を受けた。
魔力暴走の中心に居たのだ。消滅してもおかしくなかったと。
確かにその通りだった。
今思い出すだけでも背筋が凍る。
私がソフィを殺していたかもしれないという事実に、カタカタと握っている手が震えた。
もう二度と魔力暴走を起こしたくない。起こしてはいけない。
やはり、父や兄に教えられた通り、魔力のコントロールが十分に身に着くまでは感情をコントロールする練習をしなくてはと思う。
今までは感情を抑えなくても魔力のコントロールはできているつもりだった。周りにも上手くできていると褒めてもらっていたぐらいだ。だが、それでは駄目だということがわかった。
もう二度と魔力が自分の中で揺れることがないよう、私は感情を失くしてしまったほうがいいのかもしれない。
だがそのことを父に相談すると、かなり怒られてしまった。感情を失くすという方法は返って悪手だと懇々と説明された。
そしてそれから私は、父から直接魔力と感情をコントロールする方法を学ぶようになったのだった。




