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31章 最終戦争

 宮殿地下に存在する空間は三つ。

 一つは転生システムを守る地下シェルター、もう一つは楓を幽閉している地下牢、そして最後の一つは全国衛隊の中心地となる総司令部だった。


「実に悲劇的だな。護るべき新人類が仇となり壊滅するとは」


 その総司令部で、橘樹衛はドス黒いブラックコーヒーを飲みながら地上の様子をモニター越しに眺めている。


 彼の目の前で、総司令部の最高司令官が被害状況を確認していた。

 空間ディスプレイに浮かぶ映像は全て戦闘機から観測されたもので、爆弾によって焼け朽ちる地上の様子がありありと映されている。


「爆撃作戦完了、被害は甚大です。……柊水城を保有する拠点含む数ヵ所は直撃を避けましたが、これで宜しかったでしょうか?」


「良い、褒めて遣わそう。新人類に怪我をさせるわけにはいかないが、彼のいる箇所だけ静観すれば疑われて発信機の存在が露呈しかねない。これで良いのだ」


 爆撃により立ち込めた黒煙を見て、衛は満足気な様子を見せていた。


「さて、昏き洞穴に潜むドブ鼠がどう惑うか……ここからが見ものだな」


 ……国家側は柊水城の肉体に発信機を埋め込むことにより、この戦争のイニシアチブを掌握していた。


 一度は捕らえた水城を容易く奪還させたのは、明星側の玉砕突撃を抑制する為だけではない。

 彼を明星の拠点へ戻すことが狙いだったのだ。


 彼の所在は発信機が常に教えてくれる、明星のアジトを無自覚に知らせていく。

 そして国家は無作為警邏を行い、国衛隊による捜索を行った。

 明星側としては再び水城を奪われるわけにはいかないのだから、国衛隊と鉢合わせないために拠点を移動する他ない。


 それが繰り返されるたびに、拠点の場所は次々と判明していく。

 今や国家は明星所有の拠点をほとんど把握していた。


 そして拠点さえ分かれば衛星動画を用いて、周辺を監視することで相手の動向が読めてくる。

 工作員の動きを読めば、明星がいつ国家に対して鈴蘭楓奪還を図るかが分かってくるのだ。


 諜報の結果、今日が彼らの決戦日であることを知った国家は、先手を打って爆撃による先制攻撃を行うことができた。

 直前に仕掛けられれば立て直す時間はない、明星は半壊状態で今日一日足掻き続けるしかないのだ……。


「高い金をかけただけの働きはしてくれたな。柊水城」


 ……そう、この作戦を実行するには、水城が明星と行動を共にしなければ意味がない。

 彼が今まで通りの日常生活を欲すれば脆くも霧散する。

 彼は皇紅葉の転生先、駄々を捏ねれば明星側は承諾せざるを得ないだろう。


 だから、国家は水城の周辺を調べ、彼が一番大事にしていたクラスメートたちに大量の違法薬物を渡していた。

 彼らを確実に死へと誘い、水城の居場所を明星以外無くすために。


 そして卒業式の日に警備を緩め、明星に水城を奪還させる。

 彼が幽閉されていた部屋に時計を設置して卒業式当日だと知らせ、彼が仲間の死を眼前で見るように仕向けたのだ。

 ……仲間たちが死んだということを、疑いようもなくはっきりと知らしめるために。


 クラスメートを失った彼が頼れる人間は、明星の構成員である誠二と、国家に囚われた楓だけ。

 故に、楓を奪還するために明星と行動を共にすることは予見できていた。


「釈迦の掌で踊る死兆星共よ。君たちは猫を殺す窮鼠と成れるかな……?」。


 国家の放った初手は深く、抉り込むように明星に痛手を与えていた……。




『被害状況は? 実働部隊への損害はどれくらいになる……!?』


 爆撃が一旦収まったタイミングを見計らい、アルビレオたち宮殿強襲班は装備を整えて地下通路への突入準備を進めていた。


『全体の三~四割が壊滅と言ったところだな! そのほとんどが宮殿への侵攻を担当する第二十三班以降だ! 不幸中の幸いか、発電所担当の第一班と基地への足止め担当の第二十二班は一足早く作戦行動に出ているから無傷だが……宮殿襲撃班が削られたのは痛いぞ!』


『やられたな。宮殿襲撃班に被害が出るのは避けたかったんだけどなあ……』


 アルビレオが忸怩たる口調でそう唾棄する。


 今回の爆撃によって、明星と国衛隊の正面衝突は結果の見えた闘いとなった。

 明星はどう足掻いても国家には勝てない、勝ちの見えない負け戦でしかなかった。


 ……だが、それは正面衝突で雌雄を決した場合の話だ。


 戦況を覆す策は存在する、だからこそ明星は国家に戦争を挑んでいるのだ。


 しかし爆撃によって確実な勝利は、不確定な勝利へと降格した。

 ……ここからは蓋を開いてみなければ分からない未来、誰も勝敗の結末ができない正真正銘の戦争。


『……構わないさ。始めよう! 第一班にカウントコールを!』


「……」


 地下道突入への準備を進めるアルビレオを、水城は何の準備をすることもなく眺めていた。


 もう彼の準備は済んでいる。

 宮殿に突入するための重装備ではない、環境システム破壊を止めるための機動性を重視した軽装備だ。


「……アルビレオ、今第二十二班は一足早く作戦行動に出ていると言っていたな」


 水城がそう問うと、アルビレオは準備を止めることなく言葉を返す。


「そうだね、もう彼らは環境システム破壊に乗り出している。……君も早く追わないと間に合わなくなるよ。ギリギリだとしても間に合うのが主人公ってもんだろ、遅刻なんかしたら格好付かないよ」


「……ああ。そうだな」


「君の護衛とは後で合流できるよう手配しておこう。……さあ行っておいで若人、第二十二班によろしくね」


 それが、二人の交わす最後の言葉となった。


 水城はアルビレオの部屋から出て、拠点の廊下を駆けていく。

 向かう先は東京タワー、環境システムが佇む遥かな高みだ。


「……」


 残されたアルビレオは一呼吸置いてから、机の引き出しより旧式の携帯電話を取り出した。


 バングルと基地局を共有していないせいで、今や電波の送受信すら行えないガラクタだ。

 だがそれこそが彼らの連携を繋ぐ鍵となるものになる。


 アルビレオは携帯電話を握り締めながら、全隊員に向けて通達した。


『交戦の時間だ。……第一班、作戦行動開始!』


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