こづかい帳
待ち合わせをしていたナカジマは、約束の時間になってもイソノが出てこないので彼の部屋を訪ねた。
「おっすイソノ。どした?」
「あーすまん、ナカジマ。おふくろからこづかい帳つけろって怒られてさ」
「それでいま慌てて書いてる……と」
「そう。レシート捨てたからいくらだったかさっぱりわからねー」
「どれどれ。ほほう、整っている」
「整ってねーよ。隙間だらけだろ」
「美しい帳簿だ」
「ただのこづかい帳だよ」
イソノは小学生のときにファミ〇キにドハマりし、どこのコンビニに行っても「ファミ〇キください!」と元気にレジで注文していた過去がある。
ドハマりしていた時期に貯金箱の中身を全部コンビニのホットスナックにつぎ込んだイソノは、母親から怒られてこづかい帳をつけることを強制されるようになった。お金の使い道を心配したことと、揚げ物の食べ過ぎから数か月で一気に体重が増え服が合わなくなったからだ。
「あ、そうだ。先週借りた200円いま返しとく」
「サンキューって、先週コンビニでいくら使ったっけ?」
「さあ? 俺は借りた分を返しただけ。数字は嘘をつかない」
「嘘以前の問題だろうが」
「まあまあ。ここで裏技を伝授してやろう」
「裏技なんかないだろ」
「なんと! こづかい全部電子マネーにぶち込みました! って書く」
「天才か」
「イソノの母さんがそれで納得するならいける」
「絶対に納得しない」
「それなら頑張って書くしかないな」
「そうだけどさぁ」
「そもそも、いつから書いてないんだ?」
「先月の……から」
「なんて?」
「先月のはじめのほうから」
「いま月末だぞ。ほぼ二か月じゃねーか」
「だから怒られてる」
「まだかかるなら今日はやめとく?」
「うう……行く! 帰って来てから続きやる!」
二人は今日から始まるとあるファーストフード店の限定商品を食べに行く約束をしていたのだ。
最近になって辛いものが食べられるようになったイソノが、激辛と噂の新商品を食べてみたいとここ数日ソワソワしていた。
「俺はいいけど。イートインにする? 持ち帰り?」
「食べてくる! 晩飯はバーガーにするっておふくろに言ってあるから大丈夫」
「オッケー俺もイートインにしよ。母さんにチャットするからちょっと待って」
「準備してるからゆっくりでいいよ」
「終わった」
「はえーよ。ちょっと待ってあと財布持てば行ける」
「今日はレシート捨てるなよ」
「今日はさすがに大丈夫だろ」
フラグを建てたイソノはすっかり忘れてトレー返却時にレシートを捨ててしまい、帰り道で大いに慌ててナカジマをあきれさせた。イソノの性格から推測し、念のためにスマホにメモしていたナカジマにより今日の支出は帰宅後、無事に記入された。
帰宅後に残りのこづかい帳の記入もなんとか終わらせ、イソノは母を怒らせることを無事回避した。
彼らは今日も仲がいい。




