創造主
古本屋で買ったある古書を読んで以来、私の部屋の隅に、少年が居座るようになった。人間と由来が違うことだけはわかる。彼は、真っ黒な姿で、目を見開き、じっとこちらを見つめて座っている。
「彼の身に起きたことの全ての責任を取れ」というような壮絶に理不尽な圧力を感じた。
古文書で、ある人物が最期を遂げたことを知り、頭から離れなかった。そうしたら彼が見えるようになってしまった。
私は世界をつくる方法を祖母から教わった。白紙の束を美しい布表紙で装丁した本に、世界を書き創造し、その世界を運用する方法を知った。彼なら、私の紡いだ世界で生活できるはずだ。
私は、彼を安心させるために、鍵付きの部屋を書いた。部屋の中に長テーブルとクッションを置き、テーブルの上に菓子折りと温かいお茶を置いた。窓をつけ、部屋から雲海が一望できるようにした。猫を置いた。部屋の鍵はテーブルの上に置いた。
部屋で過ごす少年にしか、この鍵は扱えない。誰も勝手に入ってこれない。部屋のルールを説明すると、少年の緊張感が少し緩み、安心したようだった。菓子折りと茶葉は部屋の戸棚に入っている。この部屋には、窓際が外に張り出した空間「広縁」があり、ここに、竹網の椅子と小机を置いた。ペンと紙束も置いた。
私は彼をここに入れた。するとしばらくして、カチリと、鍵をかける音が聞こえた。彼はこの部屋に一人閉じこもった。しばらくすると、部屋の郵便受けから、一枚の紙が出てきた。
「他の世界に行ってみたい」と書いてあった。
だから、私はこの部屋に出入り口を作った。出入り口にも鍵をつけた。外の世界を構成する要素は、ランダム生成されるとし、扉を開けた瞬間要素生成が実行されるようにした。いくつかタブーを設けた。一つ目は、絶対的な運命を設定しないこと。例えば「貴方には特別な使命がある」など。二つ目は、自傷・危険行為を儀式化しないこと。現時点では、この二つをタブーとし、試運転していく中で、バグを見つけ次第、対策していくことにした。この部屋を飛び立つ時、この小部屋に戻れるよう鍵を持ち歩いていいし、捨ててもいいことにした。
私は、今回の要望に対する回答として、修正箇所を記載し、郵便受けに入れた。彼は満足したようだ。外の世界には蓋をし、私が覗き込めないようにした。これで彼の私的空間は確保された。
私は、物語の書き手としてまだまだのようだ。
祖母のようになりたい。




