独り歩き
ふと目が覚めた。川縁の近く、丈の高い草原に寝転んでいる。いつごろから寝転んでいたのか。肌に虫が這うが、外仕事をしているため、気にならない。
炭鉱の仕事はきつかったが、家族を養うため休むわけにいかない。
朝から晩まで仕事に打ち込んでいた。家族とは関わる時間もない。
こんなところで眠りこけるなど、どうかしている。夢か。今何時だ。
小さく、背後からカサカサと草をかき分ける音が聞こえた。
音がどんどん近づいてくる。身動きせず背後に意識を集中させる。
つと草をかき分ける音が止まった。背後を振り返ると、三人の坊さんが立っていた。金剛杖をもち、菅笠を被り、黒衣の上に輪袈裟を掛け、肩から頭陀袋と瓢箪の水筒を斜めに提げている。みな菅笠を目ぶかに被り、表情が見えない。
「いかがでしょう、あちらで、少し話しませんか?
酒に焼き魚もあります。」
「ええ」とだけ応え、立ち上がり、坊さんについていった。
しばらく進むと草原が終わり、開けた場所に出た。奥の方に、焚き火と、座るのにちょうどいい石が見える。焚き火の外周に枝に突き刺された魚が見える。焚き火を囲んで座る。坊さんたちは菅笠を被ったまま、金剛杖を脇に置き、懐から平皿を出し、ここに酒を注ぎ、私に渡した。酒の入った瓢箪型の水筒を三人で回し飲みをし、焼き魚の串に手をつけた。
随分とハイカラな坊さんだと思った。お遍路といえば、普通白衣だろうし、菅笠をつけたまま食事を取るのも妙だ。さてどう話し出したら良いものかと思案していたら、坊さんの方から話を振ってくれた。道中の苦難や出会いを、面白おかしく、しかし控えめな表現で、静かに語ってくれた。羨ましい、私はつい身の上を話した。私には家族がいて、彼らを養うために大工の仕事を続けている。皆さんのように旅ができたらいいでしょうなと語った。
貴方は旅に出たいのですか?と聞かれ、はいと応えた。それ以上に話は発展せず、坊さんは少し話し、笑い合い、静かに魚を食べていた。
気づくと真っ暗だった空が、赤みを帯び始めた。もう少しで日が昇る。ここらでお暇しましょうかと、坊さんたちは立ち上がった。焚き火の火を足で消し、灰や炭をかき混ぜ、赤く光る炭に酒をかけた。ひとりの坊さんから「もったいないのう。」と笑われ、「次の街で注ぎ足す。」と返し、坊さんたちは帰り支度を始めた。
そうして、「宴に付き合ってくれてありがとうございます。」と慇懃に礼を言われ、「こちらこそ、ご馳走様でした。」と返した。そうして、坊さんたちは立ち去っていった。その背中を眺めながら、一睡もしていないが仕事に支障が出るだろうかと心配になった。
ふともう一度坊さんの向かった先を振り返ると、坊さんたちの背後をついていく人影があった。使い古し縫い足した着物を着て、時々坊さんと短く会話をしながら、遠のいていく。あれは俺だ。坊さんたちの行く先に、俺の村がある。あいつは村に行き、俺の家族のために働くのか。それとも、家族を説得し、坊さんと共に旅をするのか。
どちらにせよ、あの村での俺の役割はなくなったように思える。
俺が負ってきたものを、これからはあいつが負う。
坊さんは、俺の願いを叶えたのか。
これからどこに行こうか。




