第9話 声
「・・・娘の声がする。」
それを聞くと、メフィストは辺りを見回して答える。
「聴こえんぞ。」
「いや、聞こえる。」
「強いストレスによる幻聴だ。」
「いや、俺には聞こえる。幻聴じゃない。」
メフィストも、疑いつつも、興味を持つ。
「何を言っている?」
「パパ、と呼んでいる。俺の娘はパパとは呼ばないはずだが、」
「怪しくねぇか。」
返答に困る。確かに娘の声だが、怪しいかと言われてみれば、怪しい。
しかし、もし、これが、本当に娘の声ならば。
「・・・俺を、あの卵の中に連れて行ってくれないか、娘が俺を読んでいる。」
呆れた表情でメフィストが答える。
「あのなぁ、さっきも言ったが、あんなところに行ったら0.000000000001秒で原子崩壊してクオーツレベルで消滅するっつーの。
それに、邪神の卵の中に入ったら、どうなるかなんてわかったもんじゃねぇ。
娘が今でも生きてるなんてこともあり得ねぇ。」
十中八九そうだろう。俺もそう思う。だが、
「お前は、あの中が、どうなってるか、知らないだろう。」
そう言うと、メフィストは、内臓を掴みだされたかのような苦い顔をする。
どうやら、メフィストの弱点を突いたようだ。
メフィストは知らないことが許せない悪魔なのだろう。知識欲の悪魔。
歯を食いしばり、汗をかきながらメフィストは答える
「んぎぎぎ・・・知らん・・・」
「知りたいだろう。」
「親ってのは怖いね。悪魔を脅迫するのか?」
「知識欲の権化なんだろう?」
「・・・」
考え込むメフィスト。
メフィストはこう考える。確かに知りたい。
邪神の卵の中。そんな情報はこの世にはない。知りたい。観測したい。
しかし、確実に死ぬ。あんなところに行くぐらいなら地獄の最下層氷結地獄に行ったほうがマシだ。
でも、んぎぎぎ・・・
頭を抱え悩むメフィストの横に、再びサタンが現れる。音も無く、天使のように派手な搭乗ではなく、
ぬっ、と、気づいたら居た。
サタンはメフィストに命じる。
「ゆけ。万が一にも、この状況を打破するきっかけになるやもしれぬ。」
「あっ・・・あのですねぇ、あんなところいったら死んじゃいますよ。」
「くどい。ゆけ。」
「・・・・・」
メフィストはぱくぱくと口を動かすが、サタンに反論する言葉が出てこないらしい。
サタンは再び煙となって消えた。
頭を抱え地面にうずくまるメフィスト。
よほど悩ましいようだ。
「わかったよ。わかった。行く。行けばいいんでしょ。まったく・・・」
メフィストはスッと立ち上がり、地面に箒の柄で何かを書き始める。
丸。円。円の中に円。文字。マヤ文明の遺跡のような文様。
2~3Mの文様をささっと描き、箒の柄で地面を突く。
すると、火柱が上がった。その円陣から、ガスバーナーのように、
何メートルも高く吹き上がる。炎に触れてないが、その輻射熱で熱い。めちゃくちゃ熱い。
おもわず後ろへ下がる。
炎の柱は空で八本の放射状の直線に広がり、それが空中に巨大な文様を描く。
そして、それは一つの巨大な穴となり、そこから、何かが出てきた。
赤い金属と布の混じった、巨大な人型の機械。ピエロのような印象を受ける。
手には巨大な鎌。手足が動く度にバキバキと関節のこすれる音が響く。
この日、何度言ったかわからない単語を言う。
「なんだあれは。」
「オレの本質さ。さぁ、行くぞ。」
メフィストがそう言うと、機械の顔が、ぬっと近づき、
がばっと口が開いた。
あっ。
と思ったと同時に、俺とメフィストフェレスはそれに喰われた。




