第7話 四大天使とメフィストフェレス
真っ赤な卵に切れ込みが産まれ、そこからぎょろっとした目が出来た。
メフィストに、あれは何だと聞こうと視線を移すと、なにか胸の前で指で文字を書いていた。
空中に描かれた文字は、フワフワと浮いて卵の周りに漂っていく。
ビシッと卵の周りに、線が走る。網で籠を作る。
「何をするつもりだ。」
メフィストに聞くが、答えない。
ぶつぶつと呪文を唱えている。
カッ
突然爆発的な閃光が走る。
「うああっ、なッ!?」
籠は消え、あとは卵だけが残っていた。そして煙がいくつもの渦巻きに、
くるくると卵の周りに吸い込まれていく。
おそらく、メフィストは卵を攻撃したのだ。
そして、それは失敗に終わった。
「おい、何をしている、あれは俺の娘・・・」
言い終わる前にメフィストは俺の手を掴み、突然周りが元の世界、現実の森に変わった。
穴を作り、移動したのだろう。
「何が起きてる!?何をしているんだお前は?俺の娘はどうなった!?」
メフィストは汗をダラダラ流しながら、恐る恐る答える。
「アレは・・・邪神の卵だ。お前も見ただろう、光が、煙が、くるくる渦巻いていたのを。」
「邪神?」
「オレも見るのは始めてだ。文字通り邪悪なる神。過去に地球に来襲し、大災厄を起こした。
人間世界を汚染し、堕落させ、天使と悪魔と神とで何千年も戦争をした。
生物は大絶滅し、地球は凍結し、人類は発狂と発症を繰り返した。らしい。
その時オレはまだ生まれてないから、伝聞でしか知らんがな。」
「なんで・・・それがなんで俺の娘と関係があるんだ。」
「わからない。邪神の血を受け継ぐものだったのか、血を植え付けられたのか、わからん。」
俺の頭は無茶苦茶だった。娘が、邪神?それがなぜ卵に?なんでうちの娘が?
本当に、発狂しそうだった。どうしてこんな。何か悪いことをしたのか。俺は、俺の先祖は。
しかし、その苦悩もすべて吹っ飛ばすほどの恐怖が、目の前に現れた。
あの赤い卵だ。卵が空に現れた。それも、とんでもない大きさで。
もはや何メートルとか、何キロとか、全くわからない。
空の半分が埋め尽くされている。空に、真っ赤な卵が突き刺さっている。
そして、ギョロっと、黄色い目が開く。卵の殻がひび割れている。
謎の奇病、悪魔、異次元、驚くものを見過ぎてもう何も動じないと思っていた。
そんな俺の浅はかな考えをすべて吹っ飛ばすほどの狂った光景。
「くそっ・・・対流空間から普通に出てきやがる。どうなってやがるんだ。」
空に突き刺さっている卵は、ぎょろぎょろと目を動かし、辺りを見ている。
「アレは、どうするんだ。どうなるんだ。」
メフィストに聞く。もう聞くことしか俺にはできない。
空がピカッと光る。と思って1秒後、激しい衝撃に襲われ、俺は空中に吹っ飛んだ。
3メートルは飛んだはずだ。なんだ。何が起きた。と思った次の瞬間には顔面に地面が迫ってくる。
ぶつかる!と思ったが、地面は止まった。俺は空中にフワフワと停止している。
「すまない。久しぶりの降臨なのでね。」
そう言った男は、蒼いスーツ、真っ白な肌。白人とか美白とかじゃない。白磁のような真っ白な肌。
真っ黒な長い髪。そしてトマトのように真っ赤な目。俺は思った。こいつも人間じゃないな。と。
そしてふわりと地面に下ろされる。何触られてないのに。不思議な力で。
「これは、不味いな。」
緑色のスーツのオレンジ色の長髪の男。
「いやぁ~、ありゃマジでやべぇな。」
黄色いスーツのドレッドヘアの男。
「・・・最悪。」
紫のスーツの短髪の女。
「お前らは・・・」
メフィストが驚愕している。なにか、強い悪魔なのだろうか。
「喋ってる時間は無い。行くぞ。」
緑のスーツの男がそう言うと、四人は光となって消えた。
「メフィスト、あれは何なんだ。誰なんだ。」
メフィストは答える。
「四大天使。ガブリエル。ウリエル。ミカエル。ラファエル。」
天使。いや、悪魔が居るなら天使もいるだろう。しかし、四大天使とは、とても偉いのではないか?
とても強いのではないのか?
「それらが出てくるってことは、それほどのことなのか。」
「ああ。世界が滅ぶかどうか。の瀬戸際だ。」
世界。世界て。
そう思っていると、卵の周囲に四つの光が現れる。
ものすごい遠くにいるはずなのに、その姿が見えるということは。とてつもなく大きいのだろう。
100m?200m?そんな大きさを扱ったことが無いから、正確にはわからない。
それらは機械のように見えた。機械の人型の巨人。
それぞれが、特徴を持った攻撃を卵に行い始めた。
剣、糸、火、歌。
一つ一つの攻撃が卵に当たるたびに、とんでもない衝撃波が発生してる。はずだが、
こっちには何の影響も出ていない。卵の下には街がある。海もある。しかし、波風一つ立っていない。
騒ぎになっている様子も無い。見えていないのだろうか。
俺はそれをメフィストに尋ねる。メフィストの答えはこうだ。
「あれは、次元をずらしている。この世界に影響が出ないようにな。お前が見えるのは、
お前が事件の中心にいるからだ。」
何というスケールの大きさなんだ、次元まで出てきた。もう俺の脳は実感を停止している。
全く実感が無い。フワフワと、夢を見ているような、現実感の無さ。
呆然として戦いを見ていると、四大天使が押されているように見えた。
攻撃し、卵の殻は破壊されるが、すぐに再生される。
そして卵は、白い棘を体から出し、それで攻撃する。その攻撃は四大天使には聞いているように見える。
「アレ、押されてないか?」
「人間に影響が出ないように戦うには、敵の攻撃、自らの攻撃を中和して、戦っている。
それは片手でバイオリンを演奏して、もう一方の手で逆位相の音を出し、無音にするようなものだ。
いくら四大天使でも邪神の卵相手にそれじゃ分が悪い。」
「まったく。だらしないのう。」
突然、知らない声が後ろから聞こえた。
うわっ、と後ろを振り向くと、そこには巨大な女が居た。
身長が3メートルはあるかと思われる。そして巨大な角。和服。日本の女貴族のような、着物だ。
そして、異様な雰囲気。なにか、辺りの気温が10度一気に下がったような、思わず身震いする。
「サタン様・・・!!」
メフィストが驚きながらその言葉を言ったとき、俺はまた驚いた。
サタン、いや俺でも知っている、悪魔で一番偉いヤツ。地獄の王様。
「わらわが天界にいた頃は、このような失態は起こさなかったのにのぅ・・・
まったく、これだから最近の天使は・・・ほれ、これで全力で戦えるであろう。」
サタンが指とピッと指し示すと、辺りの空気が変わった。うまく言えないが、
なにかが、変わった。
ガブリエル「全く・・・あの野郎・・・来るなら早く来いってんだ。」
ラファエル「文句あるならお前が戦えってんだ。」
ウリエル「最悪。」
ミカエル「邪神さえいなければ今すぐお前の首を切断したいよ。」
明らかに四大天使の動きが変わった。
攻撃の結果が全く違う。
邪神の体をゴリゴリと破壊していく。
「メフィスト、どうなったか説明してくれないか。」
「サタン様が、中和を肩代わりしている。だから四大天使はその力をすべて
破壊に向けることが出来るんだ。」
「それは・・・四大天使を一人で肩代わりって、すごくないか?」
「ああ。こんなことが出来るのはサタン様だけだろうな。」
ふと振り返ると、サタンはもう居なくなっていた。
「お前はここにいて良いのか。」
俺がメフィストに聞く。
「俺は人間だった。人間から自力で命の実を作り出し、悪魔になり、
魔王の位まで到達した唯一の存在だが、あの中に入ったら一秒で原始分解されて消滅するだろう。」
そんなに。そんなにすごい実力差があるのか。そして今起きてる状況は、そんなにも、
本当に世界の危機だというのか。
俺はただ、呆然と見守る事しかできなかった。




