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第4話 メフィストフェレスの登場


涼しい。なんだろう、外の涼しさとは違う。粉っぽさ。大学?


そう、大学の地下のような冷たい湿気。歩く度にスッスッと靴と地面がこすれる音が鳴る。


なるが、響かない。響かないということは、壁が無い。どれだけ広い空間なんだろうか。



後ろを振り向いても、真っ暗。もう戻れない。


やみくもに歩いても、どうしようもない。地面に触ってみる。


サラサラとザラザラの間。冷たい。いや俺はこれを触ったことがある。なんだ?


絶対に知っている。が、思い出せない。石?石の壁?コンクリートのような質感。


一度腰を下ろし、座って空を見上げる。


空も黒い。真っ黒だ。もう目を瞑っているのか開いているのかもわからない。


悪魔が居る場所というのはこういうものかもしれない。闇の世界。


カッ シャッ


音だ。音が聞こえる。


耳を澄ませ、音の方向へ歩く。


カッカッカッカッ シャッ シャッ シャッ 


恐ろしい。闇は想像させる。想像は恐怖を作り出す。


悪魔、謎の音。暗闇。めちゃくちゃ恐ろしい。不安が胸からせりあがってくる。


音を頼りに歩いていくと、音が止まった。


こっちに気づいたのか?


静寂。本当の静寂。聞こえるのは自分の胸の鼓動。呼吸音。衣擦れの男。


しかし、確実に、何かがそこにいる。


逃げるわけにもいかない。一歩前に進む。


「誰だ。」


女の声。力強い、よく通る熱い声。


「うあっ」


突然あたりが真昼のように明るくなる。


眩しくて思わず目を瞑る。


「ぐえっ」


喉に強い衝撃。殴られた?いや、掴まれた。掴まれている。噛まれた?両側から何かで挟まれている。


明かりに慣れてモノが見えるようになると、それは女が手で俺の首を掴んでいたことが分かった。


「どこから入った。」


「・・・」


答えようとしても、首を掴まれ持ち上げているのだから、一言も出ない。


苦しい。死ぬ。死んでしまう。が、とんでもない力でビクともしない。


「・・・!!!」


手で声が出せないジェスチャーをする。お前が首を掴んでるからだ。と伝えようとする。


意識が遠のいていく。スーッと冷たい水を首に流されたような感覚。


「ああ、これじゃ喋れないか。」


手を放す。


止まっていた血流が一気に頭に流れ込む。呼吸も再開する。


命の危機に全感覚が全開になり、アドレナリンが放出され、異常な興奮状態に陥る。


「なんだお前は。どうやって入った。答えろ。殺すぞ。」


答えるどころではない。呼吸を整えるだけで精いっぱいで声などでない。


「はーっ、はーっ、レキエスから・・・」


何とか一言絞り出す。


「ああ?レキエスが何だ。それじゃわからんぞ。」


この・・・お前が首を絞めたからだろう。


「レキエスに、どんな病気も治せる悪魔に会わせると。」


それを聞いたこの女は、腕組をし、何かを思案し、答える。


「ふむ、では、お前はオレに何を齎す?」


またか。悪魔はみんなこうなのか。いや、そうだろうな。


呼吸が戻り、辺りを見る余裕が出来る。


まず目に入ったのは床だ。


深い緑色の地面が無限に広がっている。


そして白い文字でびっしりと埋め尽くされている。


これは黒板だ。学校においてあるアレだ。


壁が無い。黒板の天井と床だけの空間。


なんだここは。何をしているんだ。全く理解不能の文字、数式?化学式?らくがき?


「アンタが何を欲するか、俺にはわからない。アンタの事を教えてほしい。それで、何を差し出すか、考える。」


女の姿をした悪魔はそれに対し、答える。


「ふむ、良いだろう。オレの名はメフィストフェレス。ここで計算をしている悪魔だ。」


メフィストフェレス。そう名乗った悪魔は、ところどころ跳ねた長い金髪、


レキエスの病的な白い肌ではなく、健康的な白い肌。そして白のタンクトップに、ジーパン。そして裸足。


なんというか、ちぐはぐな姿だ。人間の恰好をマネしているだけのような。そういう奇妙さがある。


「ここは何だ?この計算は何だ?」


学者なのか?知識、計算、頭を回転させる。何を欲している?


「ここはオレの研究室さ。これは、この世の真理を突き止め、命の実を創造するための計算だ。」


いつの間にか椅子を用意し、メフィストフェレスは足を組んで座っている。


木の椅子。学校にありそうな、簡素な作りの背もたれも無い椅子。


命の実とはなんだ?そう聞こうとする前に、


メフィストフェレスが私に質問を投げかける。


「私が自己紹介したんだからお前もすべきだと思うが?」


「私の名はアーサー・マーズ。漁師・・・だった。ニシンを獲っていたが、今は休業中だ。」


「病気を治してほしいと言っていたが、お前は健康だろう。」


「私の娘が病気だ。三年ほど前から、原因不明、見たことも聞いたことも無い症状。


医者も学者も匙を投げた。本にも誰にも書いてない。」


それを聞いて、メフィストフェレスは冷静に答える。


「未知の病気というモノは、別に珍しい事じゃない、今まで存在していたが認知されていなかった病、


新発見された病、変異によって誕生する新たな病、新たな化学物質による新たな病、


世界中で数人しかいない奇病、難病。そういうたぐいのモノだってある。」


確かに、確かにそうだ。しかし、娘の病気はそうじゃない。そういう説明できるものじゃない。


私はメフィストフェレスの目を見て、ゆっくりと話す。


「その病気は・・・」


説明しようとすると、メフィストフェレスが手を前に出し、私の言葉を止める。


「いや、なら、悪魔に頼ったりしない。ふむ。父親が、悪魔に頼るという選択肢を現実に考える状況、


それは病が超自然的な・・・」


私を見るを止め、ぶつぶつとひとりごとを始めた。


顎に手を当て、右斜め舌をじっと見て、口をもごもご動かしている。考え事をしている仕草。


「よし。良いだろう。面白い。面白いぞ。父親が悪魔に頼るほど不可解な病。現象。知りたい。


私は知りたい。知りたいぞ。アーサーよ、お前の娘を見てやろう。


立ち上がり、一瞬で服を変化させる。赤朱鷺色の三角帽子、ローブ、膨らんだスカート、ぶかぶかの皮手袋。


これは・・・


「魔女だったのか。」


もう見たまんま、そのまんまの魔女そのものだった。


「違う。次それ言ったら殺すからな。」


メフィストフェレスは冷たく言い放つ。


全く冗談ではない空気で。何があったんだ。なんなんだ。


私が黙っていると、メフィストフェレスは箒を取り出した。魔女だ。完全に魔女だ。しかし黙っておく。怖い。


「おい、病院の場所はどこだ。」


「スウェーデン、ストックホルムの・・・」


私が住所を伝えると、メフィストフェレスは箒を掛け声とともにくるくる回す。


「あ、そーれそれ」


穴が出現した。空間に大きな穴が。


「じゃあ行くぞ。入れ。」


また真っ黒な空間に入るのか。と思いながら、是が非も無く、私は飛び込んだ。


ぬるい温泉に全員で入ったような、ぬんめりとした不快な感触。


ずぶずぶと横に沈んでいくような奇妙さ。


しかし、物事が、少しずつ良い方向に転んでいる。と希望をもって進んだ。


希望。希望というと、あの寓話を思い出す。パンドラの箱。


そう。パンドラの箱だ。



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