表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

第2話 酒を飲もう


「まぁ、中に入りなよ。」


レキエスに案内される。


おかしい。


外の小屋は、人一人が入って生活できるギリの大きさ。テーブルが一つあればいい方。


だが、妙に広い。テーブルが三つある。まるで喫茶店のような、


カウンターまである。思わず一度外に出て外観を確認する。そしてもう一度中に入る。


明らかにおかしい。どうなってる?


唖然とする私に、レキエスは一杯の水を差しだす。


私はカウンターの椅子に座り、水を手に取る。


・・・これを飲んで良いのか、悪魔の出すモノを。


恐怖はあるが、悪魔の機嫌を損ねてはダメだ。意を決して飲む。


「おお・・・」


美味い。ただの水とは思えない爽やかさがある。


これが悪魔の出す水か、と思ったら水入れにレモンの輪切りが入っていた。


「ここに来れば、どんな病気も治す薬があると聞いた。本当にあるのか?」


俺は単刀直入に聞く。時間が無い。いや、時間が無いのかどうかすらもわからない。


「はぁ?なんだいそれは。言ったろう、私は酒の悪魔。酒を造るのが好きなだけさ。


確かに、薬効のある酒もあるがね。だがそんな何でも病気を治すなんてことは出来ないさ。」


「・・・」


だよな。と思った。そんなうまい話があるわけない。現実なんてこんなもんだ。と思った。


水を一口飲み、一度頭を落ち着ける。今俺は明らかに興奮してる。血が昇ってる。


カウンターの奥には酒の瓶が並んでいた。


「その酒、瓶も自分で作ってるのか?ラベルも?」


「ああ、私は作るのが好きでね、人間の作るモノをマネしているんだ。」


そこにはいくつか瓶だけ、ラベルも中身も無いものがあった。


「何かの飲むかい?」


やっぱり怖い。得体の知らないモノを飲まされるかもしれない恐怖がある。が、好奇心もある。飲んでみたい。


「なら、外に葡萄があったから、ワインはあるか?白の、甘いヤツがいい。酸味が強くないモノ。」


レキエスはカウンターの裏口を出て、透明な瓶に入った白ワインを持ってきた。


それをコーヒーカップにどぼどぼと注ぎ、俺の前に置いた。


酒を造るのが好きとは言っていたが、それ以外に興味は無いのか、なにかちぐはぐさを受ける。


一口飲むと、確かに美味い。甘くて、度数もそんなにきつく無い。さっくり飲める。


「自分で醸造したのか?」


「ああ、ワインもウイスキーもブランデーも日本酒も作っているよ。作るのはその年に一つだけどね」


にしてはものすごい数の種類がある。


何年ここにいるのだろうか。


見た目は少女だ。身長160センチほど、年は17歳ぐらい?


だが、俺が産まれる前よりも、ずっと長く生きている。きっと。


「つまみはないのか。」


「・・・?」


キョトンとした顔をするレキエス。


「酒を飲むときは、何か食事をしながらの方が楽しいんだが、」


流石に歩き回って疲れた。腹も減った。率直に何か食べたかった。


「葡萄があるよ。未成熟だがね。」


やはりなにかズレている。悪魔ゆえの感覚のズレなのだろうか。


私は自分が持ってきた荷物の中から、トナカイ肉の燻製、ライチョウのソーセージ、コケモモのソース、

ヴェステルボッテン・チーズ(贅沢だ!)、トゥンブロード(小麦粉を鹿角塩(Hjorthornssalt)で膨らませて、クルスカベル(kruskavel波型のローラー)で切れ込みを入れて焼いた薄焼きのパン。タコスを包むパンや薄いナンのようなもの。)を取り出し、カウンターの上に並べた。


それを、レキエスは、何か面白そうに、興味深く見ている。


ルビー色に半透明なトナカイ肉の燻製を、ナイフで鮭の尻尾のように薄く削り取っていく。


それを口に入れる。しょっぱい。塩!そして熟成されうま味に変わったタンパク質の動物の旨味。そして塩味。


眉を顰めるほど、口の中が塩に埋め尽くされた塩梅で、悪魔制作自家製ワインを口に含む。


塩味で甘さが引き立ち、動物性の旨味とワインの果物の甘みが交じり合い、玄妙なコクとなって喉の奥に強く残る。


「こいつぁ美味い。」


思わず言葉が漏れる。


娘が病でこんなことをしてる場合ではないのだが、実際、飯を食わなければ何も出来ん。


俺が飯を食えず病んでは娘も治せん。


しかし、美味いと思える食事をしたのは久しぶりだ。


美味い。チーズも試す。ヴェステルボッテンは塩味は強くない。肉が熟成されるときに出す甘い芳香のような、香ばしい風味。複雑な旨味だが、口の中に長くとどまるものでは無い。

シャリシャリと結晶が面白い触感を産み出している。そして苦み。苦みがあることで味全体を引き締めてより奥深く、飽きさせない力ある味になっている。

そこにワインのフルーティーな甘みが加わる。


美味い。美味すぎる。娘が成人したら絶対にこれを食わそう。喰わしてやろう。と思った。


「あんたのワイン。美味いね。本当に美味い。」


レキエスを称賛する。本当に美味いワインだ。


「へぇ、私にも試させてもらおうか。」


レキエスがカウンター越しに腕を伸ばし、トナカイ肉の切れ端を食べ、コーヒーカップを取り、その食べ合わせを試す。


もにゅもにゅとゆっくり味わうレキエス。


コーヒーカップに残ったワインを一口で飲み干し、一息つく。


「はあ、面白いね。へぇ。はあー。ほぉー。」


驚いているのか、感動しているのか、微妙によくわからない。


「酒を造るのに、その飲み方には興味が無いのか?」


「ふむ、無かった。なかったね。今これが面白いモノだと知った。」


なんというちぐはぐさだ。何年か何十年か何百年かわからないが、


その間ずっと酒をどう飲むか、に興味が無いとは。奇妙な感覚なのか、


それとも数百年生きる存在は、それが普通の感覚なのか。


「そうだ、病気を治せる・・・かもしれない悪魔を一人・・・悪魔を一人二人と数えるのかは知らないが、そういうやつを知っている。」


・・・何?


「教えてくれ。」


そうか、そういう考え方もあったのか。悪魔が居るなら、そういう悪魔も居るだろう。

もっと早く思いつくべきだった。


「教えてやってもいいが、何をくれる?」


やはりコイツは悪魔だった。タダで教えてくれるはずがなかったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ