『だから、駄目だと言ったのに』7
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学食でバイトまでの時間を潰す間、零さんが送ってきた画像をチェックした。
雑誌の記事が二枚、それからツイッターのスクリーンショット。
文字を追い終えた時には、悲しみよりも怒りの感情が僅かに上回っていた。
十六歳の若さでシングルマザーになった彼女は、ご両親と一緒に優音君を頑張って育てていたらしい。
仕方がないのかもしれないが、未婚で、しかも現役女子高生の出産に対しての世間の目は厳しい。
優海さんは退学せざるを得なかった。
周りから好奇の目を向けられるのは辛かったと思う。記事には、周辺の人達ヘ取材した話がたくさん載っていた。
記事に不快感を覚えると、優海さんへの同情がわく。
これが読者の好奇心を煽りたい出版社の思惑なのかは分からない。
けれど、ここにある彼女へ対する意見が本当ならば、谷口一家が引っ越しまでした話は他人事とは思えないくらい腹が立った。
ツイッターのスクリーンショットも記事と同様だ。あまり気分のいいものじゃない。
(零さんがこの間怒ってたのって、これのこと言ってたのかな?)
何年も前の話を、こんな形で暴露されるなんて――。
私は零さんに
【記事見ました。なんかやるせない気持ちでいっぱいですね】
と、返信した。
飲んだコーヒーはいつもより苦く感じる。
ミルクを足した――。
✽✽✽
「ああ~、それ私も知ってるよ。“Starry Eyes”のボーカルさんでしょ?」
休憩時間にさり気なく話を振ると、朋絵はスマホをパパっと操作し、私と田所さんに向けた。
男性二人に挟まれ写っている優海さんは明るい笑顔で楽しそう。男性二人女性一人のバンドだというのは、この写真ではじめて知った。
「すたーりーあいず?」
「お母さんが買ってる週刊誌で読んだけど、なんかすごいよねぇ」
間抜けな声を出した田所さんをスルーし、朋絵がちょっと顔を歪める。
「なんかすごい?」
「うん。メジャーデビューする為に枕営業してたとか、どっかのプロデューサーと不倫してたとか……他にも色々」
「そ、そうなの!?」
「いくら有名になりたいからってさ、それはアウトでしょ! 最低じゃん!」
朋絵はテーブルをバンバン叩いて怒った。
「落ち着きなって~朋絵っち。週刊誌のネタなんて過大広告みたいなもんだろうよ。不倫だなんだって、いかにも女性週刊誌っぽいじゃん」
「そうだけど! ダメッ!」
カッと目を見開いた朋絵に田所さんが引く。
「お……おぅ……」と完全に迫力負け。
「自分の夢を持つのは大事だよ? 子供がいるから諦めなきゃいけないとも思わない。でもそれは、子供を放って置いてまで夢中になっていい理由にはならないよ」
「え? 放って置いた?」
「子供そっちのけで毎晩路上ライブしてたって書いてあった!」
「……毎晩……!?」
「美咲が丘の花時計前に人が集まってたの、アレがそうだったのか? 夜勤ある時よく出くわしたけど」
「そうそれ!」
「……」
ファンが増えて音楽活動に力が入るのは当然だ。それでメジャーデビューが決まったのも、彼女達の実力と努力の賜物だと思う。
だけどその裏で、誰か――優音君が、苦しい想いをしていた……。
さっき読んだ記事と朋絵が読んだ記事。少し雰囲気が違う。ターゲットにしている読者層に合わせ拾ってくるネタも変わるのか?
「俺は自分のせいで親が夢を諦めてたら複雑だなぁ」
「もちろん私だってそう思うよ。でも、自分がちっちゃい子供の立場で、お母さんが夜も家に居なくても平気かって言われたら違うもん」
「…………」
二人の話は、どちらかが間違っていると言い切る事は出来なかった。
花音はどう思う?
そう話を振られなくて良かった。
――私には分からない。
両親の魂を奪って自分がこの世にいると知ってしまったから。
私は、何を、どこまで、語っていいのだろう……。




