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隣人は甘く囁く~透明な魂と祈りのうた~  作者: 奏 みくみ
『だから、駄目だと言ったのに』
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『だから、駄目だと言ったのに』6


 ***


 帰り道はミツキさんと二人だった。


 結城さんはカフェに戻り、双子の様子を見てくるそうだ。


 ナユタ店長のインパクトで忘れそうになるけど、結城さんは店のオーナー。閉店後は売り上げ金の精査など色々仕事があるのだろう。



 ミツキさんの香水の香りが湿った夜風に混じる。


 彼女の容姿と流し目は蠱惑的で、幾人もの男性が振り返った。マンションに着くまで、始終そんな感じだった。


 彼らは知らない。この美人がさっきまでファミレスで一人大食い選手権をしていたことを……。


「ミツキさん、今日結城さん家に泊まるんですか?」

「ええ。紡んところ、部屋余ってるじゃない? 玄関の横の部屋に寝袋置いといて、時々使うの」

「寝袋」

「家賃払うから貸してって、ずーっと言ってるんだけど、全然首を立てに振らなくてねぇ……あの男」


 あのモデルルームみたいな部屋の一室で、モデル風美女が寝袋で睡眠とは……すごい絵面だ。


「やっぱり、いくら優しい花音ちゃんでも、自分のオトコの部屋にワタシが泊まるのは嫌かしら?」

「思いませんよ。まぁ、初対面の時にそれやられたら、発狂してたかもだけど」

「花音ちゃんに問い詰められる紡かぁ。面白そう!」

「ぜんっぜん面白くない……」


 お喋りしながら歩いているとあっという間だ。


 バスを利用するのと違い駅から家まで歩くと結構ある道のりが、短く感じる――。


 「じゃあ、おやすみなさい」と挨拶をして、部屋に入ろうとしたその時だった。ミツキさんが「ねぇ」と私を呼び止めた。


「ひとつ言い忘れちゃった」

「なんですか?」

「もしそのブレスレットが反応した時なんだけど。花音ちゃんには気をつけてもらいたいの」


 人差し指で頬をかくミツキさんは、私から目を逸した。


「あなたを守る為に双子は石に喚ばれる。でも、縁が繋がったとはいえ花音ちゃんは双子のマスターじゃないのよ。使役することは多分出来ない」

「はぁ……」

「ナユタはともかく、セツナには気をつけてちょうだい。あの子はヒトと相性が良くないから」

「そういえば、似たことをナユタ君が言ってたような……。セツナちゃんは人間嫌い」


 そうね、とミツキさんが言う。


「ソレって、紡が駆け付けるまでの時間稼ぎ用のアイテムなのよ。あなたはとにかく自分の身を守ることを第一に考えてね」

「……」


 そこまでしなきゃならない時が、来るかもしれないのか……。


 ――良い縁があれば、当然悪い縁もある。


 理解しきれていない世界に足を踏み入れたことによって自分に何が起きるか、どんな影響を受けるか、私はもう少し真剣に考えなければいけないのかも。


「わかりました、ミツキさん」

「うん。お願いよ」


 私は頷いた。



 ***



【おっはよー!】

【いい夢見た? 俺の夢見ちゃったり?】

【でもやっぱ夢よりも現実だよなぁ】

【俺、今日も例の店いくから花音ちゃんも来る? またケーキ奢ったげるぞ~!】


「…………」


 朝からウザい……。


 目覚まし時計が鳴るより早く、ラインの連続着信音で目がさめた。


 しょぼしょぼする目で文字を読む。


 電話がかかってくるよりマシだけど、どうしてこんな小刻みに送ってくるんだ零さん。


 内容もどうでもいいし。喫茶店行かないし。


【この間の時間なら、他の客いないからゆっくり出来るだろ?】


 だから行かないし!


 枕に顔をうずめて「あと三十分は寝れたのにー!」と叫んだ。王様の耳はロバの耳状態。でもこれ、意外とストレス解消にいい。


 そこに、ポン、ポン、とまたラインの着信音が続いた。


【谷口優海の追加情報を送るの忘れてたました】

【たました→忘れてました】

【ご査収ください】


 なぜ急に誤字訂正まで入れて業務的になった……。


 その後に送られて来たのは、リンク先のアドレスが数件。


 大丈夫かな。これクリックしたら詐欺に遭わないよね?


 怒涛のライン攻撃はそこで終わった。


 早起きは三文の徳というけど、このマイナススタートでそれを実感出来るのだろうか……。


 寝癖だらけの頭を掻きつつ、ベッドからもそもそと這い出た。


 あと少しで、布団から出るのが辛い季節がやってくる――。


 

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