『だから、駄目だと言ったのに』5
「そうだ、光稀。頼んでいた物はどうなってます?」
「あっと……忘れてた。これを届けようとしてたんだっけ」
ミツキさんは、ショルダーバッグから革製の小さな巾着袋を取り出した。
そこからシルバーのブレスレットが出てくる。
「ハイ、花音ちゃん」
「私に?」
「ええ」
とても細いチェーンは強く引っ張ったら簡単に千切れそうで、持つだけで緊張した。
ついている石は……なんだろう? 天然石?
「シーグラスよ」
「ああ! 浜辺で取れるガラスの」
「見た目は華奢だけど“強度”は保証するわ。ワタシが知ってる職人の中で一番の腕利きから仕入れたの」
頬杖をつくミツキさんが目を細める。
「シーグラスの石言葉、知ってる? 奇跡・出会い・絆・生命力――素敵でしょ? 花音ちゃんにピッタリ」
「ほう……。流石ですね。こういう仕事だけはセンスが良い」
「だけは、って何よ。失礼ねぇ」
私が今まで見てきたシーグラスは、緑や青色で平べったい形のものだった。
でもこれはオレンジ色で、まん丸な形をしている。
球体に加工したのか質問したら、自然のままだと教えてくれた。ここまで綺麗な球体はかなり希少らしい。
「そんな珍しいものを、いただいちゃっていいのか……」
「貰ってくれないと、ワタシは紡にボッコボコにされるから! 受け取って! お願いッ!」
両手を合わせ拝まれてしまった……。
「光稀のせいで花音さんが危険な目に遭った時には、めった刺しにしてあげますね」
「ちょ……!? こっっわ!」
「も、貰います! ありがとうございます! 結城さんは爽やかな笑顔で怖いこと言わないでっ!」
冗談ですよ、と結城さんは笑って、私の左腕にブレスレットを付けてくれた。
ミツキさんのもの言いたげな目に気付くと、もう一度「だから冗談です」と肩を竦める。
「文句言われる前に言っておくけど、いくら強度高めといっても、コレはお守り程度の力しか無いんだからね」
「えぇ。それで十分ですよ。ありがとうございます」
(お守りか……。シーグラスの効果って何だろう? あとで調べてみようっと)
小指の爪より少し小さなオレンジ色は、くもりガラスの様な風合いなので、宝石みたいにキラキラ輝いたりはしない。
けれど、不思議とシルバーに負けないくらいのきらめきを感じた。
石と相性が合っていると輝きが強くなると聞いた事がある。私達もそうなのかな、そうだと嬉しいと思った。
「ところで。何でこれを私に?」
「最近物騒なので、これくらいは身に着けておかないと。それで双子と繋がれますしね」
「へ?」
「花音ちゃんこの間、あの子達に天然石のアクセサリーをプレゼントしてたでしょ? あれね、かなりレアケースなの」
「ただ雑貨屋で買った物をあげただけなのに?」
「ナユタとセツナは他者から施しを受けることを嫌う種族でしてね。特に石――パワーストーンは、彼らにとっては従属契約に関係してくる重要なものなのです。自分達から手を伸ばすなんて聞いた事がない」
「はぁ……」
――また別世界の複雑そうな話が出てきた……。
(本当に、ついていけるかな?……私)
その時、急に近くのテーブルから笑い声があがった。
私達の話を聞いて反応したかのようなタイミングで、思わずそっちへ視線を向けてしまったくらいだ。
通路を挟んで隣のテーブルだからそれはないだろうけど、いつ、どこで、何が、聞いているか分からない。だって、今の私の周りには、人間より“隣人”が多いんだもの――。
「双子は紡の眷属だから、花音ちゃんとは契約というよりも、縁の繋がりが深くなったってところかしらねぇ」
ミツキさんはグラスを振り、氷をカラカラと鳴らした。
爽やかな音が響く。
ナユタ君にはじめて会った時に聞いた鈴の音と、カフェのドアに付いている二つの鈴、静かな店と綺麗な中庭が頭に浮かんだ。
繋がり深まっていく縁か……。これから先、私の世界はどこまで広がっていくんだろう。
「花音さん?」
一人でほくほくしていたら、結城さんに顔を覗かれた。私と違い、なんだか不安そうにしている。
「貴女は零に協力すると言っていましたが、もし、零や私より先に谷口優海を見つけた場合、一人で行動はしないでくださいね?」
「二人に連絡を?」
「私に! です」
「でも、その間に見失っちゃうかもしれない……」
「早く見つかるに越したことはありませんが、焦って追う必要はないので。嗚呼……でも貴女は私の話を聞いてくれない時がありますからねぇ……」
頭を抱える結城さんに、私は「そうでしたっけ?」と誤魔化すしかなかった。多分、零さん絡みのことを言ってるんだろうな……。
「だ~か~ら~その時の為にお守りを作ったんじゃないの。案ずるより産むが易しっていうでしょ。あまりピリピリしない!」
気分転換に私と花音ちゃんのアップルティーを取ってきなさい! と、ミツキさんに言われた結城さんは、
「理由つけて人を使わないでください」
そう返しながらも席を立つ。
ドリンクバーに立つ長身が目を引くところは、田所さんの時と一緒だった。
アップルティーはポットに茶葉を入れお湯を注ぐ手間がある。それを二つ。
「ミツキさん……面倒くさかったんでしょ。私を巻き込まないでくださいよ」
「飲みたくなかった? アップルティー」
「飲みたいですけど」
「じゃあ私の勝ち」
「勝ち……」
ミツキさんはしたり顔でメニューに手を伸ばした。
まだ食べるの!? 見てるページ、ポテトやおつまみ揚げ物系ですが、本気ですか!
(大食いチャレンジでテレビ出れるよ……)
私は気を付けないとすぐ体重が増えてしまうので、ミツキさんの体質が羨ましい。
がっつりステーキのページに胸やけをしつつ、ご機嫌そうな彼女に笑った。




