『だから、駄目だと言ったのに』4
早めの夕食を! と、ミツキさんに強引に誘われて、私達は由井まちまで移動した。
ビックリしたのは場所。
結城さんとミツキさんが揃っていれば、自分じゃ浮きそうな雰囲気の店に連れて行かれると想像していたのに、「ココで」と着いた店が、朋絵と田所さんと来たファミレスだったからだ。
「結城さん達もファミレス来るんだ……」
「当たり前よ~。ドリンクバーがあるから長居出来るもの! 女の子は、お喋り始めると止まらないでしょ?」
「女の子という歳ではない」
メニューを広げるミツキさんの前で、結城さんがげんなりとしていた。――そうか。結城さんも時々付き合わされたりするんだ……。
(二人は仲良しだしね。一緒に食事したり、飲みに行く時もあるよね)
でもなんか、モヤモヤする。
ファミレスで良かった。お洒落なお店だったら、この気持ちはもっと強くなってたと思う。
「花音さん? 光稀とファミレスなんて滅多にないですからね? 来る時は双子も一緒ですし」
「親子に間違われたことは一度も無いから、安心なさい」
「光稀!」
「ははは……。確かに四人だったら間違われそうですよね……」
つい、頬が引きつってしまった――。
前に来た時と同じく、ドリンクバーの周りには学生や子供が集まっている。
コップを持って右往左往するナユタ君と、困惑しているセツナちゃんの姿が浮かぶ様だ。それを優しく見守る両親――じゃなかった、結城さんとミツキさん。
『助けてあげたら?』
『これも社会勉強です』
『あっ。セツナ泣きそう!?』
『違います。あれはイライラし始めている顔』
『そうなの!?』
あれ。妄想したら嫉妬を通り越して、逆にちょっと微笑ましく? なってきた……かも?
私の考えている事は筒抜けなようで、ミツキさんが「まぁまぁ、花音ちゃん。聞いてちょうだい」と笑った。
「私達は人間の中に紛れるのがスキなだけなのよ。だって、ヒトって面白いじゃない? 考えてる事よく分からないし」
「ミツキさんの考えている事も、大概分からないですよ」
「ふふっ……じゃあお互い様。だから惹かれるのかしらねぇ。昔も、今も――」
ファミレスをぐるりと見渡すミツキさんの目が、ほんの少しだけ寂しげになる。
今ここにいる人を見ているというより、昔を思い出して、その記憶の中にいる誰かを見つめている感じがした。
ミツキさんには、このファミレスに限らず、一緒にお茶を飲んだり遊んだりした“ヒト”が居たのかもしれない。そしておそらく、その相手はもう彼女の側にいないのだ。
人間が人外の前から消える、それがどういう事であるか、説明は要らない。聞くのは憚かられた――。
「……」
「花音さん……」
隣にいる結城さんが私の視線に気付いた。
すると、困った様に微笑む顔が目の前に近付いてきて。
(なっ! ちょっと待って、こんな所で!?)
思わず仰け反る。
……と、結城さんの端正な横顔はそのまま私の前を通り過ぎた。
「前、失礼しますね」
「え」
ピン、ポーン
スタッフを呼ぶチャイムが店内に響く。
「光稀は、どうせまた和風おろしハンバーグなんでしょう?」
「あ、駄目! 今日はクーポン持ってるからミックスグリルなの!」
「…………」
「花音さんは決まってますよね?」
「……カルボナーラ、Aセットにします……」
「では、私も同じものを」
頬を染めながらハンディを操作する、高校生くらいの女の子。
「……」
私は、その子よりも赤面している自信がある。
うわぁ……。そっか、ボタンね。つい邪な考えを……。
(穴があったら入りたい――)
そんな訳で、注文時は恥ずかしさのあまり二人任せで、何も聞いていなかった。
料理が揃い仰天。
ミックスグリルの和風セット、シーザーサラダ(二~三人分)、ほうれん草のバターソテー、デザートにパンケーキ。
これ全部、ミツキさんの注文である。
スレンダーな大食い女子は、これをペロリと平らげた。なにがどうなったら、その身体に収まるの? 私と同時に食べ終わるスピード、消化不良にならない?
一方の結城さんは期待を裏切らず、ホテルのレストランで食事をしているかの様な上品さだ。
でもすごい。ファミレス凄い。
ザワザワしている店内と人の流れで、このテーブルの世にも奇妙な物語状態が全く目立たない。何もかもが周りに溶け込んでる――!
(いや、この二人がすごいのか?)
病院内では巧みに自分の存在をアピールしていた結城さんも、今度は可能な限りで気配を抑えているようだった。
場の雰囲気で変えるのか、それともその時の気分なのか、私には理解不能だ。
分かったのは、常に自分が消えないように行動しなくてはならない低級悪魔とは随分と違うのだな、という事。
これが格の差というやつなのか……。




