『だから、駄目だと言ったのに』3
***
病院に優海さんは現れなかった。
優海さんじゃない幽霊が二人いる、と結城さんは言ったけど、私は全く視えなかったし、なんの気配も感じられなかった。
未だに霊感ゼロ状態。それで優海さんを発見できるのか、疑問しかない。
「クレーマーしかいなかったですね……」
あと、白衣萌え女子が多数。
幽霊を探す霊感は無くとも、同じ性癖を持つ同士を察知するレーダーはある――大丈夫か? 私……。
「クレーマーで思い出した! あの人悪魔だって言ってましたよね。消化器科で検査って……もしかして胃カメラ……」
「する理由ないでしょう。あれはパフォーマンスですよ」
「わざわざ?」
「低級の悪魔達は、ああやって人間の気を引き存在をアピールすることで、やっと人間界に留まっていられる。人間に認識されなければ、人の姿を保てず地獄に追い返されるからです」
「低級……」
結城さんいわく、魔法陣で召喚されるのは、人間と契約を交わすことを許された上級悪魔で、彼らはそれがあるから難なく人間界で姿を保てるそうだ。
――へぇ……悪魔にはそういう裏事情があるのか。
「弱いやつほどよく吠える、言葉そのままですよ。花音さんもご注意を。正当法で魂を食えない奴らは、何をするか分かりません」
苦虫を噛み潰したような顔で結城さんは言った。
帰り道、朝とは打って変わり、空はどんよりと曇っていた。
東の方角に黒い雨雲が見える。夜は雨かな? 今日はちゃんと、バッグに折りたたみ傘が入ってるから安心――。
「あ~っ!」
「え! ウソ、ちょ~久しぶりじゃん!」
突然、横で黄色い声が上がり、二人の女子校生が手を合わせはしゃぎ始めた。
しかも、書店のドアを半分塞ぐような場所で。
出入りする客が迷惑だと顔を顰めていくのに、本人達は気付かず盛り上がっている。
よくある光景といえば、そうなんだけど……
「悪魔事情を知っちゃうと、なんかみんな怪しく思えてきますね。『うーん……』て人が多いのも何ていうか……」
「彼女達がホンモノの悪魔なら、この世はとうに地獄ですよ。まぁ、そうなる前に消しますが」
(ひえっ……こわい!)
結城さんの重低音ボイスが、斜め上から響いてくる。
低級悪魔は即滅せよ! と、大鎌を持ち出してきそうな位の迫力だ。
――自分の職場を荒らす奴等は許さない。
結城さんはそう言ったけど、私には「人間界を荒らすのが許せない」に聞こえた。
結城さんを見上げる。「ん?」と返ってくる微笑み。
「どうしました?」
「いや……なん」
「あ~ッ! ちょっと~デートぉ!?」
「っ!?」
なんでもなくない!
真後ろからの甲高い声に、思いっきり遮られた。
さっきの女子高生よりハイテンションだ。でもこのテンション……私は知っている――。
「騒音は迷惑です。光稀」
振り向けば、相変わらずの美人がウフフと満面の笑顔で立っていた。
グリーンのドットワンピースに黒いハイヒール。ゆるく束ねた髪。ベレー帽。
シンプルなファッションなのに華やかに見えるのは、ミツキさんの麗しいお顔があってこそ。
結城さんと並ぶと、パリコレモデル二人がお忍びで(忍べてないけど)遊びに来てるみたいだ。
間に挟まれるの辛い。
「花音ちゃん、今日は大学行かなかったの?」
「不思議な事に、全部休講になりまして」
「アラ……。過保護および独占欲発動? ダメよ、紡。学生生活まで邪魔しちゃあ」
「……二人して誤解しているみたいですが、私じゃないですよ」
「エッ! 違うの?」
違うんだ!?
私はてっきり結城さんの力だと……。だって、こんなコト出来るの結城さんくらいしかいなくない?
「じゃあ……零の仕業なのかしら」
ミツキさんが言うと、結城さんの顔があからさまに歪んだ。
「でしょうね。花音さんに谷口優海の捜索をさせたいようですし」
「タニグチユミ?」
「幽霊の女性です。迷子の男の子のお母さんで、バス事故の被害者。零さんも二人を知ってるから、力になりたいのかも……」
「零が? なんで?」
「……なんでって……」
やれやれと肩を竦める結城さんはミツキさんの肩を叩き、「そういうことです」と呟いた。
そして二人は同時に私を見る。
何ですか! その気の毒そうな顔は!
「優しい子ねぇ。それで? 首尾はどうなの?」
「花音さんの顔を見れば一目瞭然」
「あらあら……残念……。ね、私もそのハナシ加わりたい! もっと詳しく!」
「嫌ですよ。光稀が居ると面倒臭い。余計なものまで引っ張って来そうで、嫌な予感しかしません」
しっしっ、と、追い払う手振りをする結城さんに、ミツキさんはプクッと頬を膨らませた。
腰に手を当て「もう!」と迫力なく怒っている様は、どこか漫画に出てくるキャラっぽい。
(もしかしてミツキさん……人間のフリをする為の情報を漫画から仕入れてるのか?)
「ちょっと~。人を災い扱いしないでくれる? 役に立ってる時もあるじゃない。前だって私が協力してあげたから、見つかったんでしょうよ!」
「……。それとこれとは別です」
「ケチ! 紡のけーち、石頭! 今度センセイに会ったら言いつけてやるッ」
「は? センセイを出してくるのは卑怯ですよ。いいです。そっちがその気なら、コチラにも奥の手がありますからね」
「はぁい、出ました。紡のハッタリ!」
「光稀相手にハッタリかました事なんて一度も無いです!」
「…………」
小学生かっ!
人の頭の上で揉め事が始まったと思えば、これって……。
「あのぅ……お二人とも」
死神と獏(のような物)も学校に通うの? という疑問は後で聞こう。
今はともかく、
「注目されつつあります……ので、場所を変えたいです」
――間に挟まれるの、結構大変なんです。




