『貴女は透明』13
店内が閉鎖的で暗かった分、店を出ると妙な開放感を感じた。通りの明るさにホッとする。
北風は昼間より少し強く吹いていて、頬がすぐに冷えていく。今年は暖冬になるでしょう、という天気予報。本当にそうなの? と疑いたくなった。ショールを持ってくれば良かった――。
「あれ? ナユタ君は、セツナちゃんにお土産買わなくてよかったの?」
手ぶらで店を出て来たナユタ君は、キョロキョロと辺りを見渡している。
車が減り、代わりに人が増えてきた繁華街を観察している姿に、零さんだけじゃなく街もよく見てきなさい、と結城さんに言われているのかな?……と考えた。
私と目が合うと、「はい。また今度にします」とナユタ君が笑う。
「今ならまだ間に合いますよね? スーパーのセール。卵が残っているか心配ですけど」
「そうだ、セール!」
忘れてた!
「僕がいると四パック買えます」
「いや、四パックもいらないの。って、これさっきも言ったような――」
そこで、私は気が付いた。何か……変。
ナユタ君って、こういうコト言う子だったっけ?
違うよな。どちらかといえば「セールって何ですかっ!?」と無邪気に聞いてくる方だ。スーパーのセール自体、知らなそうだし――。
「もしかして。まさかとは思いますが。ナユタ君じゃなくて、中身結城さん……ってことは?」
「……ほう」
僅かに大きく丸くなったオッドアイと、彼の口調で確信した。
「本当にそうなんだ」
「花音さん、分かるようになってきたじゃあないですか。これなら幽霊も視えますね」
「いつから……。あ! 名探偵になった時からか」
「はい? 探偵?」
(急に雰囲気変わったなぁ、真似してるのかなぁって思ったけど――)
「あの。ここで突然、真実はいつも~的なコト言いませんよね? ひと~つ! って」
「……どうしたんですか? 急に」
ナユタ君――の姿の結城さんは、小首を傾げる。
「真実はいつも一つだけ、とは限らないと思いますが」
アニメは知らない様なのに、すごく出てきそうな言葉が返ってきた。
「零さんは気付かなかったんでしょうか」
「間抜けな男ですからねぇ。分かっている上であの態度なら、馬鹿でも少しは成長出来るものなのかと認めてやってもいいです」
「全くそんな気無さそうな顔してますよ……」
「つまりはそういう奴なのです。成長を知らない。このままでは、いずれ淘汰されるでしょう」
「淘汰……って」
「そういう世界ですから。役立たずは容赦なく消されていく。今の零は、崖っぷちで爪先立ち……といったところ」
人差し指を立て唇に当てると、結城さんは「内緒ですよ」とクスリと笑った。
笑顔でする話じゃないだけに、残酷さがより際立って。
見た目は可愛らしい少年なのに、瞳だけ異様に艶っぽく、ただならぬ雰囲気を醸し出している。
そのアンバランスな感じは、まるで蝋人形が笑っているみたいだった。なんか怖い……。
「花音さん。明日から一緒に行動しませんか? 私も谷口優海を探しているので」
「結城さんも?」
「えぇ。……まだ間に合うかもしれないですし……」
「?」
(間に合う? 何にだろう?)
聞いてみたかったが、不意の北風に阻まれ聞くタイミングを失ってしまった――。




