『貴女は透明』12
添付画像は集合写真だった。
ギターを持ってピースしている女性を中心に大勢の人がいて、各々が笑顔、変顔やポーズを決めている。
場所は小さなライブハウスらしい。上部にライト、両端にスピーカーらしき黒い箱。人の隙間からドラムセットが見えた。
「ギター持ってるのが探してるコ」
「えっ? すごく若く見えるんですけど。この人がお母さんなの?」
「ね~。若いよねぇ」
零さんは話しながらスマホをいじっている。
こんなに興味なさそうな顔で人探しだなんて、本気で見つけたいと思っているのか、はたまた協力者に任せ――丸投げしようとしているのか……。
私は真剣だ。今度こそ、あの男の子の為に頑張ってみたい。
改めて写真に写る女性を見た。
ショートカットで溌剌とした雰囲気。
――やっぱり若い。私よりも若く見える。
彼女自ら言わなければ、誰も、子持ちだなんて思わないだろう……。
「谷口 優海。二十歳。十六の時に出産、息子は優音、四歳」
「十六!? 本当!?」
ビックリして聞き返した私に、零さんは、その反応を待っていたと言わんばかりに右の口角を上げた。人を小馬鹿にした様な笑いだった。
「人間ってさ、多数決で価値観固めるトコあるよね。別に悪い事してないのに、ちょっと世間様とズレてるだけで白い目で見てさ」
「私は別に、そんなつもりじゃ……」
「ネットはもっと怖いわ~。悪意で正義を語っちゃう奴等とか? 便乗して笑ってる奴等とか? いやぁ、世の中って結構ギスギスしてんね~」
刺々しい言い方をしているのに、彼の瞳が悲しそうに曇る。
でも、その色はすぐに、眼鏡の位置を直す手で隠されてしまって。
過去に何かあったのかな? という疑問だけが残った――。
「谷口さんを見付けたら零さんはどうするんですか? 優音くん、いないですよ?」
「アイツに聞けば分かんだろ?」
「え……」
ナユタ君は、零さんの投げやりな答えに眉を顰めた。
分かる……分かるよナユタ君。
自分は結城さんに「余計なこと言うな」って言った癖に、いざとなったら結城さんを頼るのかよ! って思うよね!
「とにかくさ、彼女見つけなきゃ始まらないでしょ。あとコレ、一番重要な情報だから」
スマホが再び震えた。
「――えっ!? ちょっと待って嘘……」
「まぁ……そうですよねぇ」
私のスマホを覗き見するナユタ君は、うんうんと頷く。やっぱり、どこかの少年探偵さんみたい。
今までのやり取りだけで、全てお見通しだったというわけか。すごい。
――画像は、ニュース番組を携帯のカメラで写したものだった。画面に男女二人の顔。右上の『美咲が丘バス事故 死亡者増える』のテロップ。尋ね人はそこに――。
谷口 優海さんは、もうこの世にいない。
(この間亡くなった、バンドの女性ボーカルって彼女だったんだ……)
ショートカット。頬に二つのほくろ。
カフェで優音君が描いていたお母さんの絵と同じだ。よく似ていると思う。
優音君は何が起きているか分からず、そばにいない母親を探しに外へ出て、そして迷子になってしまった。そういうこと?
周りに大人もいただろうに、小さな子供が勝手に出て行ってしまった事を誰も気付かなかったなんてあるのだろうか……。
ああ……でも、付き添いの病院でバタバタしていた状況下なら、ちょっと目を離した隙に――も、あるかもしれない。
「つまるところ……優海さんの幽霊を探すって事ですよね? だけど私、霊感無いし……ちょっと厳しいんじゃ」
「死神と付き合ってるコが何言ってんの」
「結城さん達が人間の世界に馴染み過ぎてるんでしょ!」
「花音ちゃんの適応能力がスゲーんだよ」
「よく考えたら、私の周り異世界人ばかりだよ……最近出会った人みんな……。そうだ、藤本さん! 藤本さんは何者ですか!? やっぱりそっち側なの!?」
結城さんのお店は、路地裏――“隣の世界”にある。
そこに出入りしている人がみんな人間じゃないなら、藤本さんだけじゃなく、優音君までも幽霊という話に……なるの?
なったらどうすればいいっ!?
「花音ちゃん生きてるけど、店出入りしてんじゃん」
「それは私が“普通じゃない”からでは……」
「そのとおり。あの辺うろうろしてる奴は全員、生きてようが死んでようがマトモじゃねぇよ。安心しな」
「え」
「じゃ、そういうことで。他の情報は、あとで送るよ」
「は? 待って零さんっ、まだ聞きたい事が!」
「またね、花音ちゃん」
零さんは伝票を鷲掴み、そそくさと逃げる様に店を出て行った――。
「何なの急に! 本っ当こっちの話聞かないな、あの人!」
「――路地裏界隈でお店を経営してる“生きた人間”もいますよ? 行き場を失った妖怪や人間が住んでるシェアハウスがあったり……。あそこは、異端者が集う異端者の為の町みたいな所ですしねぇ」
零さんの代わりにナユタ君が、私が気になっていた点を十分過ぎる補足と共に教えてくれた。
――補足が謎に直結しちゃってるけど。
「妖怪と人間がシェアハウス!? そんなのまであるの……」
「だから、自治会長は大変です」
「そ、そうだよね」
確かに。そうなると見廻りも大変だろう。
――魑魅魍魎の万国博覧会
いつ百鬼夜行が始まってもおかしくない。
(あのオジサン、一見、競馬場か競輪場に日がな一日いそうな風貌だけど、やってる仕事凄いんだな……)
本人に聞かれたら、怒られること間違い無しな感想である。




