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『貴女は透明』11


奥まった席だから、他のお客が入って来たことに全く気付かなかったのだ。


 しかも、こんな渋い店に子供が一人で! 考えもつかなかった。


「オイ……またかよ、ナユタ」

「いらっしゃい」

「クリームソーダくださいっ。アイス二個で!」


 美人のお姉さんは、元気よく注文するナユタ君に「はい。いつものね」とクスクス笑う。


 ――いつもって……。まさかの常連なの!?


「コイツ、いっつも俺の仕事の邪魔しに来るんだよね」

「邪魔じゃないですよ。僕はマスターのお使いで来てます!」

「零さんを監視しなさい、とか?」

「花音ちゃん……」

「はいっ」


 ナユタ君が大きく頷く。


 そわそわとクリームソーダを待つ姿が、とても可愛い。


(セツナちゃんと一緒に、ショッピングモールのフードコートとか色々連れて行ってあげたくなる……)


 タピオカドリンク喜びそう。


「俺の営業ノウハウを勉強したいってんなら、考えてやってもいいぜ。授業料高ぇけどな」

「零さんのやり方は『同業他社でも真似したいと思わないでしょう』ってマスターが言ってました。なので、『必要ありませんのでお断りします』」


 結城さんに教えこまれたに違いない。ナユタ君は、しつこい勧誘電話などを追い払う決め台詞を、子供らしからぬ笑顔で言った。


 結城さんの冷笑にそっくり。変な迫力がある。


「……くそっ……あのエリート野郎」


 零さんは、心底悔しそうに舌打ちした。対抗心むき出し。


 二人が、互いに良い感情を抱いていないのは知っている。


 なぜそこまで? と思ってはいたけど、零さんのこの様子……。営業というワードも出てきたし、仕事上の関係で云々、というやつなのかな。


 ん? でも待って。死神の営業活動って?


 聞きたい様な、聞きたくない様な……。


 ――頼んだクリームソーダはすぐに来た。


 ナユタ君が店に入って来た時点で作り始めたのだろう。さすが常連だ。『いつもの』で通じる凄さ!


「結城さんのお使い役は、だいたいナユタ君なの?」

「はいっ。コッチの世界に馴染みやすいのは僕なので。セツナは人間嫌いだし、お店の方が安全です」

「安全?」

「あ、えっと……。セツナはたくさん可愛いので、変な人に連れてかれちゃったら大変っ」

「そっかぁ。それは困るよね」


 双子なのだから、ナユタ君も十分注意が必要だと思うけどな。私、初対面で女の子だと勘違いしたし……。


 私達の話に、零さんは「よく言うよ」と肩を竦めた。


「暴走したら困るからだろ。セツナちゃんはキレるとマジでヤバいもんな」

「おとなしい子が本気で怒ったら怖いって、よくある話だと思いますよ」

「ハハッ。花音ちゃんも怖そうだよねぇ。一度ガチギレさせてみたいわ」

「……」


 零さん相手なら、その内本当にキレる時が来るかもしれない――。


「いや、それはさておきね。俺が聞きたかった話その二なんだけど」

「まだあったんですか……」

「むしろコッチが本題だったり」

「前置きが長い」

「なんかどんどん冷たくなってない!?」


 クリームソーダを飲み終わったナユタ君に、余りで良ければミルフィーユ食べる? と聞いてみた。


「いえ。それは花音さんが召し上がってください」


 さくらんぼの種を紙ナプキンに包み、もう一枚のナプキンで口の回りを吹くナユタ君は、ニッコリと笑う。


「僕はお土産で買って帰るので」

「? あ……セツナちゃんにもか」

「はい」

「ね~ぇ~、俺の話始めてもいいかなぁ?」


 むくれた調子の零さんに、ナユタ君は「どうぞ」と一言返す。


 クリームソーダに満足したのか、すっかり落ち着いた様子でソファーに深く座り直していた。


「それで? 零さんの本題って?」

「前、アイツの店に子供いたじゃん? 迷子の。あのガキどうなった?」

「あっ……」


 ――零さん、覚えてたんだ。


 あの時は、色々言うだけ言って、すぐに居なくなったくせに。


「私も詳しくは……。でも結城さんが、その日はお母さんが見つからなかったから、他に預けたって……」

「ふーん……。じゃ、あの店にはもういねぇんだ。藤本のじーさんが面倒見てんのかと思ってた」

「いやその前に! 零さん、あの子のお母さん知ってるって言ってたじゃないですか! お母さん連れて来てあげるとか、結城さんに教えるとかしなかったの!?」

「結城に教える義理は無ぇもん」

「ねぇもん、って……。だったらお母さんを」

「花音ちゃんは? 探した? 人に任せっきりで終わってたんじゃねーの」

「……」


 ぐうの音も出ない。


 全くその通りだった。私は話を聞いただけで、何もしていない――。


「お母様は、今どちらに?」


 ナユタ君が首を傾げた。すると、零さんも首を傾げて「さぁな」と言う。


「分かんねーんだよね、俺も。今までいた所から消えちまってさ」

「消えた……」

「で、お願いなんだけど。探すの協力してくれない?」

「します!」


 かぶせ気味に私は答えた。


 やれる事はやりたい。今の自分が出来る事を――。


 身を乗り出して伝えたら、零さんは微笑む。


「サンキュー。助かるよ」

「早く見付かれば良いな……。ね? ナユタ君?」

「…………」

「ナユタ君……?」


 ナユタ君は、拳を口にあて静かに思案していた。


(なんだか、見た目は子供、頭脳は――の某少年探偵みたいだな~。でも何だろ……ナユタ君の雰囲気、急に変わった?)


 あれ? まさか……ね。


「花音さん! 探すにはまず情報です!」

「おい、ナユタ。アイツに余計なコト言うんじゃねぇぞ」

「零さんもマスターの邪魔しないでくださいね」

「ハッ……そんなの知らねーよ。何がアイツの邪魔になるのか俺にはサッパリだ。関係ねぇ」


 ドヤ顔で言う零さんに、私とナユタ君は溜息を吐く。


 少しは考えた方がいいと思いますよ……と、こぼすナユタ君。激しく同意である。


 ――零さんは意に介さずだけど。


「彼女の情報いま送るね」

「え? 送るって?」


 間髪入れずに、テーブルに置いていたスマホが振動した。零さんに番号を教えた覚えは無い。は? この人いつの間に!?


「勝手に人のスマホいじらないでくださいよ!」

「駄目だよ、花音ちゃん。今時スライドロックもかけてないなんて、危ないよ? せめてパスワード入力くらいにはしておかないと。落とした時に悪用されちゃうじゃん!」

「……」


 あなたがそれを言うのか!


 少し納得がいかない私。言いたい事は沢山あったけど、ナユタ君にスカートを引っ張られて「落ち着いてください」と目で訴えられる。


 くぅっ……仕方ない……ここはひとまず……。


 

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