『貴女は透明』9
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週末のバイトは、余程の事がない限り一日だけと決めていた。
土曜に出たら日曜日は休み。
両日出た方が収入は増えるけど、そこまで入れたら、いつか綻びが出る。
――身体を壊せば生活も壊れる。
学業との両立が出来なくなった時は家に戻ること――独り暮らしをするにあたって、叔父と叔母にきつく約束させられた。
散々お世話になった人達に、これ以上迷惑をかけたくない。戻ってまた従姉妹と気まずく暮らすのも辛いだろう。
だから、給料日前にお財布事情が大変になるのは分かっていても、週末は必ず一日休む。
朝から入って午後二時上がり。
朋絵のピンチヒッターの田所さんと入れ替わりで退勤した私は、珍しく寄り道せず帰るつもりだった。
四時から、地元、思川駅前のスーパーでタイムセールがあるからだ。
卵Mサイズ、税込み九十八円。おひとりさま二点限り。
スパゲッティとマヨネーズも底値で、逃す訳にはいかない。チラシをチェックしたら、買い置きしたい物が結構あった。
なので、今日は駅まで自転車。帰りの荷物対策はバッチリ!
余裕をもって駅に着き、この前結城さんと寄ったカフェで時間を潰す――そこまで計画済みである。
「よっ! 花音チャン」
美咲が丘駅の花時計前で声をかけられた。
振り返れば、さも待ち合わせしていたかの様に零さんが手を振っている。
出た! 問題児――!
「バイトお疲れ」
「お疲れ様でした。では」
「ちょっとちょっと! せっかく待ちぶせしてたのに」
改札機にパスケースを押し付け早足で構内へ。逃げる!
とはいえ、零さんも隣の改札を素早くくぐり、真横のポジションを維持してくる。逃げてる筈なのに、ふたり仲良く歩いているみたいだ。
「ねぇねぇ~花音ちゃん。どっかでお茶しようよ」
(今日はまた一段とチャラい……)
「遠慮します」
「なーんでー。奢るよ? あ。まだ前のこと怒ってるカンジ?」
「……」
当たり前でしょう!
無視して進もうとしたら、手首を掴まれた。
前に回り込んできた零さんに阻まれ、私は足を止めるしかなかった。
「行きませんよ。用事があるので」
「俺がいたら、タマゴ四パック買えるじゃん。どうせ時間潰すんでしょ?」
「そんなにいらないです」
零さんがどうして私の予定を知っているか、聞かなくても、もう分かる。
だってこの人は隣りの世界の人だから。
「結城とお茶してイチャついたり、大学では田所とかいう男と楽しそうに昼メシ食うのに、俺だけ無視って酷くね!?」
人混みの中で目立って聞こえる、だけど飛び抜けて注目を浴びる程でもない、嫌味な口調とボリュームで零さんは言った。
「アイツは自分の正体をやっとバラしたんだろ? シニガミだってさ。ナユタ達の事もか? 全部?」
「ちょっ……零さん。それここで……」
「まだまだあるだろうなぁ。な、俺のハナシは興味ねぇ?」
零さんは止まらない。
どこからか「何あれ、ガチ?」「修羅場?」と聞こえてきた。
私達をチラ見していくオジサンも数人いた。
「美味いケーキ出す店、知ってんだ」
「……。長居はしませんからね」
あざとい笑みに負けたんじゃない。
私には、周りの目はどうでもいいと線引きしてこの場に立っていられる強さが、無かった。




