↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
77/147

『貴女は透明』6



 ――長い一日だったな。


 実際は、数時間飛ばされているので時間的には短い。でも、体感でいうと倍くらい動いた気がする、主に精神が。


 自分の家に戻った事で気が緩んだのか、玄関の僅かな段差につまづき、転びかけた。


 勢いでローヒールの靴とスニーカーが散らばったけど、置き直す気力はどこにも無く、そのままフラフラとリビングに。


 リビング以外にも、洗面所とキッチンの電気、普段は使わない廊下の間接照明まで点けた。……朝の怖い体験を忘れたかったから。なるべく明るい部屋にいたい。


 緑茶のティーパックをマグカップに用意して、らしくもなく鼻歌なんか歌いながら、努めて“普段通り”を演じる。「緑茶って、ぬるめで淹れるんだっけ?」


 ――演劇部だったくせに、酷いものだ。


 濃い目の緑茶が出来上がる頃には、「白々しい演技だな」とガッカリした。


 三年間頑張っても、脇役しか貰えなかったわけだ。


 演劇サークル――今年、高校の先輩が旗揚げした小劇団に入らなくて良かった……。


 多分……いや、きっと、あの勧誘は役者としてではなく小道具係の勧誘だったのだ。先輩には、脇役の演技より手先の器用さを褒められる方が多かったもの。


 自負するほど、他人には、認められても求められてもいないのだなと、三年間の部活動で知った。入部してすぐ、準主人公に選ばれた後輩がキラキラして見えた。羨ましかった……。


 それでも、三年間の部活動は楽しく、その為に学校に行っていたと言っても過言ではない。脇役も、道具係も、演劇部には必要だ。


 緞帳が上がる時の緊張感、ラストの台詞後に湧き上がる拍手を聞いた時の達成感。


 一度味わったら、忘れられない感動――。


 だけど、私は続けられなかった。


 終演後の感動よりも、演りたい役を貰えなかった悔しさと、ずるずると引きずってしまう嫉妬心を、これ以上思い知りたくなかったから……。


 なんで、私にはあの後輩の様な才能がなかったんだろう。努力は沢山したけど、彼女には遠く及ばなかった――。


 熱湯で入れたお茶を、ちびちびと飲む。


 ふぅ……と一息ついて目を閉じ、「やっぱり、入団は断って正解だったな」と思った。


 自分の“性質”を聞いて、良かった点を無理矢理上げるならば、それしかない。


『キラキラした舞台の袖で唇を噛み、心《しん》に立つ輝きを消さずに済んだ』


 そう。これで良かったんだ……。


 テーブルの上で倒れているシロップの瓶を、もとに戻した。


(これ……どこに飾ろうかな)


 ――見渡しても、良い場所が無い。


 雑貨でごった返しているこの部屋では、瓶の魅力が埋もれてしまう。シンプルな場所にこれだけを置く。その方が、上品さと可愛らしさの両方が引き立つ気がした。


(我が家でシンプルなトコといえば、玄関の鍵置き場くらいか……)


 ――と、言うくらい私の部屋には雑貨が溢れている。


 お店で一目惚れしたものは、一期一会! と思って買ってしまう。


 これあそこに飾ったら……とか、並べて置いてみたら……など考え始めたらテンションが上がり、衝動買いしちゃう事も。


 大きな物や高価な物は買わないけど、塵も積もれば山となる。


 いつの間にか私の部屋は、それなりには統一性があるものの、棚の上・窓際・壁――雑多な小物でいっぱいになった。


 朋絵はよく「数百円の商品を一つ二つ買うだけでも、かなりストレス解消になるよね~」と言う。私はそれに毎回頷いていた。


 例えば、百均の商品三つ。五百円の品を一つ買うより、あまり罪悪感が無く、得した気分になる――気がする。 


 そんなこんなで、罪悪感無く欲求を満たしてくれる雑貨屋巡りは、私の一番のストレス解消法だ。

 でも今は……。


 何気なくそうして過ごして来た事が、少し怖い。


(雑貨を買う様に誰かの魂を集めていたら、どうしよう)


「…………」


 いや、と、頭を振って考えを飛ばした。


 ネガティブ思考の迷路は危険。


 ――花音さんは、良くも悪くも振り幅が大きいので……私は心配ですよ。


 脳内で結城さんの声が再生された。


「あ~もう……。言われたそばからコレだもんな」


 ――一分でも早く貴女を眠らせてあげたかったのでしょう。

 ――その“誰か”は、花音さんに無茶はさせたくないようですね。


 目を瞑り、天を仰ぐ。


 疲労困憊の夜。


 死神さんと“誰か”さんに、こうも言われているのだ。


『かみさまのいうとおり』


 今日はもう、寝たほうが良い……。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。