『貴女は透明』4
「紡、花音に意地悪しないで」
「そうですよマスター! 花音さんが泣いちゃいますっ」
「花音が居なくなっちゃったら、紡のこと怨む。喰べるかもしれない」
私の大声で駆けつけた二人が、結城さんに勢いよく縋りついて。
双子に取り囲まれた結城さんは「え、えっと……」と戸惑っている。
結城さんが子供相手に狼狽える姿が意外過ぎて、私の落ちかかっていた涙は驚きであっという間に引っ込んだ。
「あっ! 花音さんは絶対に喰べませんので安心してください!」
「え……たべ」
ついでにナユタ君の言葉にも驚いた。
「すみません。私の言い方が良くありませんでしたね……。花音さんを怒らせるつもりは無かったんです」
「……」
「ここまで追い詰めてしまうとも考えなかった」
「すみません」と、結城さんはまた謝る。
しゅんとする彼と不安げな双子に、私も激情に身を任せてしまった事を反省した――。
「私って……もしかして、本当は居ちゃいけないものなんですか?」
「えっ!?」
自分が死なないように人の魂を奪って利用するなんて、人間には出来ない。悪魔みたいだ。下手したら悪魔より酷いヤツかも。
死神に問い詰められるのも当然だ。
「それでも貴女は人間として生きている。この世に居てはならないという事はありません」
「……」
「ただ少し厄介な性質を持っているだけです」
「厄介……」
魂強奪を“少し厄介”で済ましていいものなのか、甚だ疑問なんですが……。
とりあえず落ち着こうと、四人でテーブルについた。
セツナちゃんは普段通りの表情で自分とナユタ君のお茶を淹れ始め、ナユタ君は満面の笑みでチョコタルトを頬張っている。もぐもぐしながら二個目に手を伸ばして、セツナちゃんに怒られた。
ぼんやりと、この二人のマイペースさは結城さん譲りなのだろうか? と思う――。
「貴女は透明なんですよ、花音さん」
絶対に私の想像は伝わっているはず。でも結城さんは、双子の事には触れずに先へ進む。
それよりまず貴女のハナシでしょう?
目が合うと、結城さんはゆっくりと息を吐いた。
「透明? 何が?」
「魂の色です。人間は青色が常識ですが、花音さんは透明」
「……透明……でも見えるんだ」
「当然。死神ですから、透明であろうがちゃんと視えます。問題なのは、貴女が他人の魂を持つ事です。抱え込まれると、他色は無色透明に隠されて、私達にも見えなくなる」
透明マントみたいだな、と思った。
でも、人の命を取るだけじゃ足らず死神をも欺くとなると、未来の秘密道具やファンタジー界の魔法道具とは比べ物にならないくらい悪どい。
(ますます人間として生きていていいのか……不思議になってきた……)
「花音は無自覚タイプの方なのね……」
「生きてて良かったです!」
と、セツナちゃんとナユタ君が言う。
ナユタ君のあっけらかんとした言い方は、今は逆に重く響いた。とてもじゃないけど素直に「うん」なんて言えない。
「透明者は、死に直面した時やそれに値する不安を感じた時に、生者の魂を奪ったり、一部分を搾取して、自分の死およびネガティブ感情を回避します」
「取っちゃう理由……ひとつじゃないんですか? それに、一部分って。そうしたらその人どうなるの……寿命が縮まるって意味ですか?」
「……。貴女達の様な方々は、短命の運命を持ち生まれます。だからでしょうか、生きたいという本能が他より圧倒的に強い」
「……」
「それが過ぎるせいで、必要以上に持とうとする。いわゆるストックですね。だから隠されるこちら側は困るのです。どこかで必ず数が合わない事態が発生してしまうので」
結城さんは、さっきの事を気にしているのか、とても穏やかな口調だ。
でも、いくらゆっくりと説明されても、私の頭は情報量の多さにどんどん混乱していく――。
ハッキリと分かっているのは、私は知らず内に、誰かの人生を奪う行為を繰り返してきた可能性が高い事。
今現在、自分の中に尊い炎がいくつ埋まっているか、分からない事。
これは、とても恐ろしく、無責任でしかない――。
(私、生きてる意味あるのかな……)
生きていく価値は、あるのだろうか?
感情が爆ぜた数分前。そっちの方がまだ楽な方だったのかも。
身体の中に、重い鉛球を一個また一個と詰め込まれていく苦しさ。
足を踏ん張っていないと、そのまま目の前の底なし沼に突き落とされ、じわじわ沈まされていく様な予感。……怖い。




