『貴女は透明』2
「“選ばれた”彼らは、それを作り出せるのです。選別した内の極限った優秀な魂に、僅かな自由時間を与える事が出来る。人の機微に触れられる元人間だからこそ、与えるべき魂を選別出来るのでしょうね」
「人なら誰でもって訳じゃないと思います。もしかして、機微に聡い人だったから選ばれるのかな……?」
「さぁ……どうなのか……。大変興味深いですが、今の私では、理解も選別も不可能に近い。……残念です」
角砂糖を一つ。紅茶に入れてかきまぜれば、あっという間に溶けていく。くるくる回るレモンが落ち着くまで、ぼんやりとそれを見つめた。
「結城さんは……。“選ばれた人”達みたいに、死者に時間をあげたいって思ってるんですか?」
(出来ないのが寂しいと考えてる?)
結城さんの様な、何でもこなす能力のある人にも、指摘されなければ分からない小さな綻びがあって、自分自身がそれに気付いたからどうにかしたいと思っている……みたいな。
私が聞くと、結城さんは「えっ」と、ちょっと驚いた反応をした。
「そうなんですか?」
「こっちが聞いてるんですよ……」
「花音さんはどうなんです?」
「へっ!?」
今度は私が驚く番だ。聞いたら聞き返されてしまった。
「そりゃあ……やっぱり……。そういう力があったら……とは思いますけど……?」
いま現在生きてる身だけに、死神の事情を想像しても、いまいちピンとこない。
死神になっていいですよ、と言われて「ありがとうございます!」「やったね!」となるのかも疑問なのに――。
「へぇ……」
頬杖をついていた結城さんが意味深に言うので、また心の中を覗かれたのかと焦る。
でも結城さんは何も言わない。
静かな時間。間を埋める様に私達はカップを傾けた。
「ここまでの話を聞いて、花音さんは思ったでしょう? 『私は選ばれる資格があるのかもしれない』」
「ッ!?」
思わずむせてしまった。
「この店にこうして居るのも、私や光稀の様な人外と交流出来るのも、自分が他人と違う力を持っているからだろう。そんな風に考えましたね?」
「それは……」
断定的に言われ、返す言葉が無い。
やっぱり。結城さんには隠せないのか――。
幽霊、死神、悪魔に神様。
空想の世界の話だったものが、いま目の前にある。急に現れて、しかもご丁寧に死神さんの解説付きで。
何故私が結城さんと出会ったか、ここ最近の不思議な現象はどこに繋がっていくのか、少しづつ聞けば聞くほど、困惑より期待の方が増していく。
私は、とうの昔に特異な世界に足を踏み入れていた。ならば、自分も普通の人と何かが違うのだ。
霊能者なんかよりもっと別な……。
「まぁ、そうなりますよね。私は、花音さんは“選ばれた人間”である、という前提で話をしていますから」
「!」
結城さんの笑い方に背筋が冷えた。
冷たくも美しい彼のそれを見るのは、久し振りだった。




