『貴女は透明』1
「そろそろ本題に入りましょうか」
噴水が止まり、清かな水音が消えた。風も無く葉擦れの音も聞こえない。
お膳立てされたかのように、庭に静寂が訪れる。
何を聞いても驚くまいと、私は背筋を伸ばして頷いた。
「死神の仕事は死んだ者の魂を回収する……それはご存知でしょう。私も改めて説明を加えるつもりはありません」
「ミツキさんも死神なんですか?」
「いいえ。光稀はまた別者。人間から見たら獏みたいなモノですかね」
「悪夢を食べてくれるっていう?」
「それだけとは限りませんよ。光稀の趣味は私にも分からない。今度聞いてみては?」
結城さんは小さく笑う。あまりオススメしませんが、と言われて、ひょっこり頭を出そうとしていた私の好奇心は、すぐに引っ込んだ。そうだ、また唇を舐められたら困る。君子危うきに近寄らず――。
「死神の構成員は二種類。能力を買われ一員となった元人間の“選ばれた者”と、神がそれであれと生み出した“造られた者”。私は後者です」
「え!? 人間も死神になることがあるんですか!? なんでっ」
「どうしてでしょうねぇ……。私もよく分かりません。全ては“神のみぞ知る”」
「……なんと……」
シンプルで万能な常套句が出てきた……。
パフェスプーンでブルーベリーを食べながら思う。これは、納得も何も、そう言われたら受け入れるしかない状況だ。
ここから先も、結城さんが語る事を素直に飲み込んでいかなくちゃいけない……らしい。
私、どこまで順応出来るんだろうか。ちょっと不安になってきた――。
(結城さんが首傾げちゃう位じゃ、人間なんかもっと分からないじゃん。能力を買われって……その元人間の人、どんな力持ってるのかな?)
やっぱり、霊能者だったとか、そっち系の人なのか?
「紅茶のおかわり、持って越させましょうか?」
クスクス笑いながら、結城さんは私のグラスを指差す。
ハッと我に返った。気付けば苺もブルーベリーも食べきっていて、私は、ただただスプーンで氷をザクザクかき混ぜていたのだ。
「うっ……。お、お願いします」
「甘い物もあると良いですね」
結城さんが指を鳴らす。と、それに重なる鈴の音。
今のでナユタ君達に通じてしまうらしい。その仕組み? も後で教えてくれるの?
今日で全部を知るのは難しそうなんだけど……。
お茶が届くまで、結城さんは自分――死神の事を教えてくれた。
神様に“造られた者”は少なく、それ故に“選ばれた者”を、監督指導する側になる時もある。
選ばれたとはいえ、元人間。
情に流され回収が遅れると、悪行働く悪魔に魂をかすめ取られるからだそうだ。
意外に思ったのは、死神と悪魔の関係は敵対だけでなくシステム化され、うまいこと関係を保っているという事だった。
死神は、輪廻転生出来る魂とそうでないものの選別をするらしいが、転生不可となった魂を悪魔側へ譲り、結果、現世で生きる人間の全体数を調整している……と。
工場のバイトの経験ある私の脳内には、ライン作業が浮かんだ。ベルトコンベアーを流れる魂……時にベルトから抜け落ちる魂……。
なにこれ、無情。私の想像酷くない?
「それでも、人間相手だとイレギュラーなケースは必ず起こります。それは神の作った“あそび”なのかもしれない。ですが、こちらも仕事ですからね、何かと理由を付けたりして辻褄合わせをしないとならない時があります。面倒な仕事ですよ……」
結城さんは溜息。
生きてる人間としてはちょっと複雑だ。
それから少し経って、今度はセツナちゃんがお茶を持ってきてくれた。
結城さんはブレンド。私にはレモンティー。一口サイズのチョコタルトがテーブルに並ぶ。
「ちっちゃいのにデコレーション凄い! 可愛い! さすがだね、セツナちゃん。セツナちゃんのスイーツは友達全員に食べさせたい~」
「……ありがとう」
「良かったですね」
結城さんに頭を撫でられセツナちゃんの表情がほっと緩んだ。
親子? 叔父と姪? 結城さんと双子の関係はまだ聞けていない。カフェのオーナーと店員……それだけとは思えないし……。でも、こっちから聞くのも躊躇われる――。
「素晴らしいものですね。人間嫌いなセツナが懐くはずです」
「へ?」
「藤本さんもですが、貴女達の言葉の音は、とても柔らかで心地よいですから」
「そう……ですか?」
こくん、とセツナちゃんが頷く。藤本さんなら頷けるけど、そこに私を並べて良いものか……。頬を掻いて苦笑。
「“造られた者”は、魂の取り扱いをある程度、許されている身です。だからでしょうか、“選ばれた者”達に羨ましがられたりする時がありましてね。彼らに無い力を私は持っている。……ですが、逆もまた然り」
カップの縁をなぞる結城さんの指が、一周したところで止まった。
「私には人間の機微を察する力がありません」
自嘲的に微笑む結城さんと視線が合う。
「それらしく振る舞う事は出来ますが……所詮は真似事。人間には遠く及ばない」
「……」
「花音さん。“夢枕に立つ”……この言葉は勿論ご存知でしょう?」
「はい」
故人が夢の中に現れて、生きてる人にメッセージを送ってくる。スピリチュアルな現象。
私は体験した事ないけど……。




