『必然に決まっているでしょう』16
「なるほど。当たらずも遠からず……といったところでしょうか」
「もしかして、私が考えてる以上に凄いこと出来ちゃうとか? あの時もそういう感じで……。そう! だからあそこに居た! 的な」
「そうですねぇ……」
結城さんは口元に手をあてて、首を傾げた。
「花音さんの考える“霊能者”が、誰かを救ったり導いたりする善行者というならば、私は似て非なる者でしょうね」
「え?」
「私は基本、救う側ではありません。どちらかと言えば見捨てる側。案内はしますが、導こうとは思いませんよ」
「見捨てるって……」
「でも、生者と死者、どちらとも交流出来る点は“霊能者”みたいですね」
「それじゃ……結城さんって何……」
私の反応に結城さんが微笑を浮かべる。
『聡い貴女なら、ここまで言えば想像つくでしょう?』
「なっ!?」
耳元で囁く声が聞こえた。結城さんは口を開いていない。席を立ってもいないのに。
幽体離脱でもして私の隣にいるの? それともテレパシー?
――いや、そんなのどうでもいい。
彼ならどちらも容易く出来るのだろう。
だって、
「あなたは人間じゃ、ない?」
「ええ」
「悪魔……?」
「あんなモノと一緒にされては困る」
「救わないなら天使じゃない……。死神……? だから、死にかけだった時に私は結城さんに会えたの?」
「ご名答」
「……」
(ここでその爽やかな笑みを出すのはどうなんだ……)
正体を明かせて嬉しい、って顔じゃないか。
「にわかには信じがたいのですが」
「私だって花音さんに初めて会った時は驚きましたよ」
「死にかけの人間なんて見慣れてるんでしょう? 死神なんですから」
「ただの死にかけじゃなかったから驚いたんです」
「あー……なるほ……ハァッ!? それどういう意味ですかっ!?」
思わず立ち上がってしまった。腕が当たり派手にテーブルを揺らしたせいで、グラスがひっくり返りそうになる。
慌ててグラスを掴んだ。
危なかった――。ホッと溜息を吐いて椅子に座る。
放り出される難を逃れた苺とブルーベリーが、小粒の泡をまとってソーダ水と遊んでる。浮いている苺をストローで突いてから、ティーソーダを二口飲んだ。
「結城さんが……死神……」
好きになった人が実は死神で、初対面時、私は死にかけ。それも死神を驚かせる様な半死人だったらしい。なんっつー出会いなんだ全く。
(完璧紳士な私の恋人が死神だった件……)
ちょっと考えたら、ライトノベルのタイトルっぽくなるし。
これなら、サンタクロースが恋人の人も世界のどこかに一人位いるかもしれない――。
「おや。順応性が高いですね。もう少し混乱するかと思っていました」
「ですよねぇ……。自分でもそう思います……」
存外自分は、人為らざる者と怪異に対する理解があったのだなと思う。
小さな青い炎を掴んだ事や、結城さんと一緒にいた女性の霊を見た事を思い出したから余計に。あ……路地裏の不思議もだ。
「その様子なら、一気にお話しても大丈夫そうですね」
「た、多分? ……それは情報量にもよるかな。でもその前に、あと一個聞いていいですか?」
「どうぞ」
深呼吸を一回。膝の上で重ねた手が緊張で汗ばんでくる。
私の頭の中には、前に聞いた零さんの言葉が浮かんでいた。
――運命は、偶然か、必然か。
「ほお……」
ティーカップのハンドルを持ちかけた結城さんの動きが、止まる。
“そういう性質”の人、恐るべし――。
「それは主観の違いで色々と変わってくると思いますが?」
「私達の出会いはどっちなのかな……」
「必然に決まっているでしょう、と言いたいですね。少なくとも、二度目の出会いは私が作ったものですし」
「で、嬉々として乗り込んで来たわけですか……。デパ地下の高級菓子持って」
「お隣の売り場にあったケーキと迷ったんですよねぇ……。美味しかったですか?」
「えっ……あ、はい。もちろん美味しかったけど……」
「それは良かった」
運命の話をしていたはずなのに、余計な事を言ったせいで私の高級菓子との出会い話になってしまった――。
「誰に何を言われたか考えずとも分かります。花音さん、惑わされないでくださいね。それを言い始めたらキリがない。いつまでも揺れていると足元を崩される」
「……」
「零は昔から諦めの悪い男でしてね。困ったものです」
結城さんは重い溜息を吐くと、苦笑した。




