『必然に決まっているでしょう』12
店のドアを開けると鈴の音がいつもより大きく二重に響く。
仰ぎ見たら、銀色のそれがぶつかり合い、外の光に反射しキラキラと輝いていた。
あれ? いつの間に。鈴が一個増えてる。
「花音さん!」
「あら~花音ちゃん!」
「花音」
ちょっとそれ! “花音”の三段活用ですか!?
「午後の授業はどうしたの? フフッ、もしかして~。サ・ボ・リ?」
「休講です。ミツキさん、午後もあるって知ってた風な言い方するんですね……」
ミツキさんの口元が色っぽく弧を描く。
「そう? 学生さんだから言ってみただけよ」
「……結城さんみたい」
「花音?」
セツナちゃんに袖をクイッと引っ張られた。オッドアイが不安気に、私を見上げている。
いけない。今の言い方はちょっと嫌味っぽかったかも。私は笑って誤魔化した。
「てな訳で、セツナちゃん。お昼まだなんだ。ランチメニューってあるのかな?」
「ん」
「ハイ! 僕が作りますっ、超特急で!」
勢い良く両手を上げて、ナユタ君はぴょんぴょん跳ねた。
冷蔵庫から手際よく材料を取り出しながらコンロに火をつけ、野菜を洗い始めたかと思うともう包丁をリズミカルに動かし始めて。
料理人もビックリの素早さだ。そういえば、料理はナユタ君が担当だと零さんが言ってたっけ……。
ナユタ君、ミツキさん、結城さん。揃いも揃って料理上手ときた。セツナちゃんのスイーツもとても凝っていて美味しいし……。
どうにも虚しくなってくる。
もうちょっと台所に立つ努力しような、私よ。
「そういえば、今日は藤本さん居ないんだね」
「今日は大学の日」
「あ! 教授だから授業か」
「違う。オムライスを食べに行く日」
「そっち!? なんだ……じゃあ学食行ってたら会えたかも」
「誠心は、まだオムライスにこだわってるの? 相変わらずの一途サンねぇ」
ミツキさんがクスクス笑った。
「藤本さんと知り合いなんですか?」
「お互いココの常連だしね。付き合い長いわよ。意外だった?」
「えっ」
「そんなカオしてる。ま、分からないでもないわ。私と彼、タイプが全然違うもの。……銀座のクラブのママと、たかられる金持ちの客みたいだって、零にからかわれた時もあったっけ」
「はは……。すごい例えですね」
そんな事を言うとは。だから零さん、みんなから嫌われてるのでは――?
「花音さん、お待たせしました~! ナポリタンですっ」
「ありがとう」
あっという間に出来上がったナポリタンは、昔ながらの喫茶店にありそうな、シンプルで懐かしさを感じるものだった。ケチャップの匂いが忘れかけてた食欲をくすぐってくる。
「いただきます。……美味しいっ! えっ、すご……おいしい」
私の残念過ぎる食リポに、ミツキさんはまたクスクスと笑い始める。
「オイシイものが食べれるって、幸せよねぇ」
「ですよねぇ」
「僕も嬉しいですっ。 褒められると、やったーっ! てなります。ね? セツナ?」
頷くセツナちゃんの頬が、赤くなった。
ミツキさんが「ん~! 可愛い可愛い」と頭を撫でると、恥ずかしそうに俯いてしまう。
(いいなぁ。こんな可愛い妹と弟がいれば、私も……)
ズキッと胸が痛んだ。夢で見た記憶が頭をよぎる。
私は一人っ子。両親も鬼籍の人だ。身近な家族なんて、もうどこにも……いない。
「花音ちゃん? どうしたの、ボーッとして」
「歳の離れた弟妹っていいな、とか思っちゃって」
「やっぱり一人っ子は寂しい?」
「ええ、まぁ……えっ!? なんで一人だって分かったんですか?」
「じゃあ、紡との子供は二人以上にしてあげなきゃねぇ……フフフッ」
「は!? えええっ!?」
二重の驚きに、飲んでいた水が変なところに入った。咳が止まらなくて涙が出てくる。
子供っ、結城さんとの子供って!
「それ以前の問題です!」
「え? なんで?」
なんでって言われても……。
「花音さんとマス……オーナーは、番になるんですか」
「ナユタ。その言い方は駄目」
「つ、つがい」
ああもうっ! 藤本さんがいないから、収集つかなくなってきた!




