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隣人は甘く囁く~透明な魂と祈りのうた~  作者: 奏 みくみ
『必然に決まっているでしょう』
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『必然に決まっているでしょう』11



美咲が丘駅に着いて私が真っ直ぐ向かったのは、カフェではなく駅前の家電量販店だった。


 早速新しいドライヤーを買って……といきたいところだけど、まずは下見をしなければ。臨時出費の予算は限られている。ここと、あともう一軒、近所のホームセンターも覗くつもりだ。


(乾かせれば何でもいいやって思ってたけど……これはなかなか)


 なんだ? このナノとかスカルプモードとかって。――えっ? こんなツヤッツヤになるの? ドライヤーで?


 上を見ればキリがないと分かっていても、見てるとどれも欲しくなる。家電量販店の甘い罠だ。ズラリと並んだ商品が「ほら、持ってみなよ。いいだろ~?」と誘ってくる。どうしよう。全部良くて一つに絞れない……。


「ご案内しましょうか」

「だ……大丈夫です!」


 店員の声で現実に戻った(戻れた)私は、そそくさと場を離れた。


 ホームセンターも種類豊富だったら非常に困る……。優柔不断は、家電一つ買おうとするだけで、こんなにも体力と精神力を削られるのか。雑貨選びと大違いだ――。


『……――ご遺族の方に話を伺ってみました』


 テレビ売り場の前。店内で流れるCMソングに混じってきた声に、思わず足が止まった。


 様々なサイズの画面に映る、同じワイドショー番組。私の斜め前にもテレビを見てるおじさんが一人いた。


『結婚式まであと一ヶ月だったんです……。あの日も打ち合わせがあるって、嬉しそうに出掛けたのに……こんな……事』


 中年夫婦が取材を受けていた。


 ハンカチで涙を拭い声を詰まらせる女性の横で、顔色の悪い男性がポツポツと話始める。


『これが娘の運命だっていうならね、私らは受け入れるしか無いと思うんですよ……。みんな同じでしょう? 怪我した人も亡くなった人も。

 あん時のこと思い出すのは辛いけど、やっぱり何があったか、知りたい人も多いんです。原因も分かってないのに、もう献花台片付けるとか……何考えてるんだか……』


 私はワイドショーが嫌いだ。


 問題提起もそこそこに、政治や芸能人のスキャンダル、憶測でしかない話で盛り上がる。


 こうして事故や事件があれば、度を超えた取材で誰かを悲しませる。


 二時間もそれを観るならば、夕方のニュース後半、十分ほどの枠で“行列の出来るラーメン店!”とか観てる方が有意義な気がした。


「即死か……。俺んとこにも同じくらいの娘がいるからなぁ。他人事じゃねぇよ。辛ぇもんだ」


 娘さんの祭壇と、事故の日に着ていた服が映った。


 おじさんは私に話しかけたのだろうか? そう言ってから去っていく。


 分からないので答えられなかった。


 ……いや、それよりも。


 写真の中で笑う女性と、ビニール袋に入った汚れたままの薄桃色のワンピース。


 何か……既視感みたいな……。


「あ……れ……?」


 ――薄いピンクの生地に赤い水玉のワンピース。ストレートのロング、色白の綺麗な横顔。


 私、見たことが……ある……?


 ――薄いピンクの生地に赤い水玉のワンピース。ストレートのロング、色白の綺麗な横顔。悲しそうな顔。


 まさか。ありえない。


 結城さんは彼女に語っていた。彼女が小さく頷くと、結城さんも頷いて。笑っていた。


 優しい微笑み。


 彼女のさらさらとしたストレート髪を撫でる手。


(だってあの日は事故の日だよ? 駅ビルで結城さんと会ってるなんて)


 そんな馬鹿な。


 見間違い? ううん、覚えてる……。あの時はとてもショックを受けて、彼女に嫉妬した。


 結城さんが好きなんだ、と気付いたキッカケを作った人。


「嘘でしょ……」


 でもこれが本当なら、結城さんは幽霊と喋っていたという事になる。


 しかも、会話するだけじゃない。触れる。じゃなきゃ、髪を撫でるなんて出来ないもの。


(女性が着ていたワンピースの赤い水玉は血痕だったのかな……。遠目だったから模様に見えたっていう……)


 店を出てカフェへと急ぐ。


 結城さんがいるかもしれない――。



 心臓の拍動に合わせて歩けば、自然と速足になった。


 自分でも信じられないくらいヒョイヒョイと人を避ける事が出来て、カフェまでの道のりが短く感じる。


 さすがに、事故現場の前を通る時はスピードが落ちた。昨日テレビで観た通り、献花台は無くなっていた。


 が、ここ最近見かけていたより献花している人が多い。缶コーヒーが増え、寄せ書きだろう色紙も何枚もある。


 私と同い年位の女性がグループでいた。彼女達は、亡くなったバンドボーカルのファンなのだろう……。泣いている子を見てしまって、私は視線をずらした。


 しゃがんで手を合わせている人達の姿は、昨日の騒ぎと対象的だ。でも、どんな形であれ、みんなの故人を偲ぶ気持ちは変わらないと思う。


 花を手向ける勇気の無い私は、心の中で合掌して通り過ぎる事しか出来なかった……。


 どうかこの気持ちが、少しでも伝わりますように――。


「結城さんは、なに話してたのかな……」


 彷徨っていた、あの人と。


 女性が自分の見間違いだとしたら? 似た特徴の人を勝手に幽霊だと決めつけていたら?


 もちろんそれも考えた。


 でも何故だろう、結城さんは霊が視えるという方が、しっくりくる。


 ――とてもミステリアスな人だからだ。


 ここではない別世界を知っていたとしても、何らおかしく無い感じ。


(もしかして結城さん……霊能者? なの?)


 仕事内容が言い辛いって、つまりはそういうこと?


 確かに「依頼を受けて浄霊などしています」なんて突然打ち明けられたら、


 この人……大丈夫かな?


 って思うけど……。



 カフェへ着く頃には私の考えはすっかりまとまっていた。


 結論――結城さんは霊能者である可能性大。


 無理矢理こじつけた感は否めないけど、それ以外もう浮かばないのでしょうがない。あとは本人に突撃するのみだ――。早く聞きたい。結城さんに早く会いたい。


 

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