↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣人は甘く囁く~透明な魂と祈りのうた~  作者: 奏 みくみ
『必然に決まっているでしょう』
PR
65/147

『必然に決まっているでしょう』10

 ***


「ッッ!?」


 息が詰まり、飛び起きた。


 ギュッと握っているものが草ではなくシーツなのを確認して、長く息を吐く。


 額と背中を伝う汗の感触が気持ち悪い。


「ここは山の中じゃない、私の部屋だ……部屋……」


 とにかく言葉にして、現実を取り戻そうと思った。


 ――夢だった。悪夢を見た。とても鮮明で、リアルな……夢、だったはず。


 だから、微かに聞こえるサイレンは、きっと遠くを走っている救急車のものだ。夢の中で聞いたのとは別物。そう考えた方がいい。


(水……飲んで落ち着こう)


 キッチンで一杯の水を一気飲みして、そのまま洗面台に直行。冷水でバシャバシャ顔を洗い、タオルを探りながら顔を上げる。


 ……目を開け絶句した。


 鏡の中の自分に重なっている、血だらけのお父さんの顔と青い炎。


 やめなさい! というお母さんの声もハッキリ聞こえて。


「!!」


 悲鳴が出る前に足がもつれ、尻もちをついた。


 心臓が早鐘を打つ。


 水を飲んだばかりなのに喉がカラカラだ。


 見るもの全部、歪んで見えた。頭がおかしくなりそう。


(なに……今の)


 夢と現実の区別がつかない――。


『大丈夫ですよ』


 そんな私を現実に戻してくれたのは、結城さんの声だった。


 優しく微笑む彼の顔が頭に浮かぶと、悪夢の波があっという間に引いていく。


 大丈夫……?


 恐る恐る覗いた鏡の中には、私しかいなかった。


「幻聴じゃなくて本人居てよ……」


 緊張がほぐれた体を自分で抱きしめて、思わず言ってしまう。


 一緒に寝てたら悪夢なんて見なかったかもしれないでしょ! と、大胆な事を考えて……すぐに頭を抱えた。


 おい! こんな時に何言ってんだ私は! 


 とはいえ、セルフ突っ込みが出来るのはパニックから脱した証拠でもある。


 熱いコーヒーを飲んで一息つくと完全に目が覚めて、冷静に夢を分析出来た。


 ――違う。


 夢じゃない。あれは勝手に作り出された悪夢ではなく、過去だ。私は喪失してた記憶を追体験したんだ。


(あれ?……じゃあ、あの男の子は?)


 ナユタ君みたいな格好で突然現れ、結城さんに似た口調、場違いな笑み。救助される直前まで居たあの子も、実際に存在していたってこと? 極限状態で見た幻?


 夢と記憶が、ごちゃまぜになっている可能性もある。


 私は彼を、否定も肯定も出来なかった。



 ✽✽✽



 午前中の授業は、ボーッとしてる間に終わってしまった。


 集中? 無理に決まってるでしょ。


 リアルな追体験はもうしたくない。


 サイレンが聞こえてきそうで怖いから、両親の姿と現場の風景を思い出さないよう、白紙のノートをただただ見つめて時間をやり過ごした――。


「花音どうしたの? 今日はずっとうわの空だね」

「あー……。ちょっとヤバい夢を見ちゃってね。サダコが出て来そうな感じの」

「マジか」


 朋絵は真顔になった。


「それは怖い」

「今日はボロボロだよ。夢見は悪いし、ドライヤーは壊れるし、教科書二冊も忘れるし」

「星座占いランキングも最下位ときた」

「そうそう」

「でも、午後が休講になったのはラッキーだね! ハイこれ。ノート全然取ってなかったでしょ?」


 差し出された朋絵のノートを「ありがたや!」と受け取る。


 カバンにしまう時、内ポケットに小さなプレゼントを見付けて、そういえば二人に渡せてないなぁ……と思い出した。


「お昼、学食?」

「うーん……朋絵は?」

「ミス研の子達と例のパン屋に行きます!」

「えっ!」

「えっ?」


 田所さん……今日は出勤だったりするのか――!?


「な、何を見ても驚いちゃ駄目だからね!?」

「なにそれ怖いんだけど」


(怖くはないけど、死ぬほど驚く可能性はあります)


 朋絵は笑い、コーディガンを羽織った。ミス研の子が迎えに来たようだ。


「私は双子店長のカフェに行こっかな。渡すものもあるし」

「うわ、タイミングがっ! 私も麗しの兄妹を早く拝みたいよっ」

「……そうでした! あ、次は田所さんも誘ってみる? 昨日必死だったし」

「じゃあ、給料日聞いとく~」

「お休みの日を聞いてあげなさい」


 のんびりした口調の朋絵に笑ってしまった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。