『必然に決まっているでしょう』10
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「ッッ!?」
息が詰まり、飛び起きた。
ギュッと握っているものが草ではなくシーツなのを確認して、長く息を吐く。
額と背中を伝う汗の感触が気持ち悪い。
「ここは山の中じゃない、私の部屋だ……部屋……」
とにかく言葉にして、現実を取り戻そうと思った。
――夢だった。悪夢を見た。とても鮮明で、リアルな……夢、だったはず。
だから、微かに聞こえるサイレンは、きっと遠くを走っている救急車のものだ。夢の中で聞いたのとは別物。そう考えた方がいい。
(水……飲んで落ち着こう)
キッチンで一杯の水を一気飲みして、そのまま洗面台に直行。冷水でバシャバシャ顔を洗い、タオルを探りながら顔を上げる。
……目を開け絶句した。
鏡の中の自分に重なっている、血だらけのお父さんの顔と青い炎。
やめなさい! というお母さんの声もハッキリ聞こえて。
「!!」
悲鳴が出る前に足がもつれ、尻もちをついた。
心臓が早鐘を打つ。
水を飲んだばかりなのに喉がカラカラだ。
見るもの全部、歪んで見えた。頭がおかしくなりそう。
(なに……今の)
夢と現実の区別がつかない――。
『大丈夫ですよ』
そんな私を現実に戻してくれたのは、結城さんの声だった。
優しく微笑む彼の顔が頭に浮かぶと、悪夢の波があっという間に引いていく。
大丈夫……?
恐る恐る覗いた鏡の中には、私しかいなかった。
「幻聴じゃなくて本人居てよ……」
緊張がほぐれた体を自分で抱きしめて、思わず言ってしまう。
一緒に寝てたら悪夢なんて見なかったかもしれないでしょ! と、大胆な事を考えて……すぐに頭を抱えた。
おい! こんな時に何言ってんだ私は!
とはいえ、セルフ突っ込みが出来るのはパニックから脱した証拠でもある。
熱いコーヒーを飲んで一息つくと完全に目が覚めて、冷静に夢を分析出来た。
――違う。
夢じゃない。あれは勝手に作り出された悪夢ではなく、過去だ。私は喪失してた記憶を追体験したんだ。
(あれ?……じゃあ、あの男の子は?)
ナユタ君みたいな格好で突然現れ、結城さんに似た口調、場違いな笑み。救助される直前まで居たあの子も、実際に存在していたってこと? 極限状態で見た幻?
夢と記憶が、ごちゃまぜになっている可能性もある。
私は彼を、否定も肯定も出来なかった。
✽✽✽
午前中の授業は、ボーッとしてる間に終わってしまった。
集中? 無理に決まってるでしょ。
リアルな追体験はもうしたくない。
サイレンが聞こえてきそうで怖いから、両親の姿と現場の風景を思い出さないよう、白紙のノートをただただ見つめて時間をやり過ごした――。
「花音どうしたの? 今日はずっとうわの空だね」
「あー……。ちょっとヤバい夢を見ちゃってね。サダコが出て来そうな感じの」
「マジか」
朋絵は真顔になった。
「それは怖い」
「今日はボロボロだよ。夢見は悪いし、ドライヤーは壊れるし、教科書二冊も忘れるし」
「星座占いランキングも最下位ときた」
「そうそう」
「でも、午後が休講になったのはラッキーだね! ハイこれ。ノート全然取ってなかったでしょ?」
差し出された朋絵のノートを「ありがたや!」と受け取る。
カバンにしまう時、内ポケットに小さなプレゼントを見付けて、そういえば二人に渡せてないなぁ……と思い出した。
「お昼、学食?」
「うーん……朋絵は?」
「ミス研の子達と例のパン屋に行きます!」
「えっ!」
「えっ?」
田所さん……今日は出勤だったりするのか――!?
「な、何を見ても驚いちゃ駄目だからね!?」
「なにそれ怖いんだけど」
(怖くはないけど、死ぬほど驚く可能性はあります)
朋絵は笑い、コーディガンを羽織った。ミス研の子が迎えに来たようだ。
「私は双子店長のカフェに行こっかな。渡すものもあるし」
「うわ、タイミングがっ! 私も麗しの兄妹を早く拝みたいよっ」
「……そうでした! あ、次は田所さんも誘ってみる? 昨日必死だったし」
「じゃあ、給料日聞いとく~」
「お休みの日を聞いてあげなさい」
のんびりした口調の朋絵に笑ってしまった。




