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隣人は甘く囁く~透明な魂と祈りのうた~  作者: 奏 みくみ
『必然に決まっているでしょう』
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『必然に決まっているでしょう』8


 もっとドキドキする展開があるのかと期待したけれど、それ以上のことは起きなかった。挨拶してアッサリ解散。


 密かに待っていた自分が恥ずかしい。


 帰ってからしばらく「私ってヤツはぁぁぁ!」と、意味も無く床でゴロゴロ転がった。テーブルに足をぶつけて我にかえるまで。


 落ち着け自分。妄想は誰にもバレない。恥ずかしい内容でも大丈夫。……大丈夫ってなにが!


 つい一人で盛り上がってしまい、冷静になるまで結城さんの話と小瓶の事を忘れていた。


 ニュースが始まる前に放送される、五分位の番組を観て思い出した。日本の伝統色を紹介しているやつだ。


 赤みを含んだ淡い紅色――桜色


 貰ったシロップの色みたい。


 改めて瓶を見つめる。外国で売っていそうなデザイン……こだわりが詰まったアンティーク調。


(取り寄せたって……外国からなのかな?)


 高そう。


 お取り寄せって聞くだけでもう高そう。


 紅茶に入れて飲むのは楽しみだけど、量的に一回分だ。すぐに味わってしまうのは、もったいない気もする。シロップならすぐに賞味期限切れとはならない……よね?


(でも、次に結城さんと会った時に感想伝えたいしなぁ)


 とりあえず、スマホで色んな角度から撮った。


 後で朋絵に見せよう。自慢したい。


 瓶を開けると、ふわっとリンゴの様な香りが舞った。


 リンゴ? 桃にも似てる? いちごっぽい気も……。


 ブレンドしてあるのか、それとも私が知らない外国の果物なのか。よく分からないけど、とにかく好みの香りだ。


 その香りに誘われて紅茶を淹れた。


 混ぜる前にシロップをペロッと味見してみれば、甘みより香りの方が強い。


 シロップの様なもの、と結城さんが言っていたのはそういうことか。これは香り付け用で甘いのはオマケ。


 案の定、さほど甘くならずに香り引き立つ果実紅茶に仕上がった。


「うわ、すごい……おいしい」


 安いティーパックのお茶が驚きの大変身。ケチらずに全部入れて良かったよ……。貧乏性一時さよなら、万歳三唱。


 と、パジャマで優雅なティータイムを気取ってる内に、番組はニュースに変わっていた。


 アナウンサーが、政治家が飲食店でトラブルを起こし書類送検、辞職願が提出されたという内容を淡々と喋っている。


 正直、またか……という印象だ。


 あそこから腐ったものをひとつ排除して何がどのくらい良くなるんだろう? と思ってしまう。


 選挙にあまり興味が無い私が言うのも、無責任な話なんだけどね。


 半分聞き流し紅茶を啜ったところで、話題が変わった。


『美咲が丘バス事故 献花台撤去で一時騒然』


 というテロップが画面下に現れる。


 ピタリと手が止まった。


 アナウンサーはやはり淡々と伝える。内容はこうだ。


 数日前、重症だった運転手とインディーズバンドのボーカル女性が立て続けに亡くなった。


 事故の原因は未だ調査中であり、世間の関心度も高い。


 このタイミングで献花台が撤去されるのは時期尚早、非常識だと被害者側が白紙撤回を求め、撤去作業中の社員らに猛抗議。現場は一時騒然となった――。


 テレビには、沢山の人が言い合いしている姿が映っていた。


 やり切れない思いでいっぱいになって、自然と涙が溢れてくる。


 私が被害者だったら、この光景をどう見るんだろう。


 もっと胸が締め付けられたり、怒りが込み上げてくるんじゃないか。現場にいる社員の人は何も悪くないのに、その人達に強い恨みを感じたりしてしまうかもしれない。


 私は免れた人間だ。


 だから、出てくる涙は画面の中で泣きながら訴える女性のものより、ずっとずっと軽い。


 何を言っても彼女側にはなれない――。


 映像が、アナウンサーとコメンテーターが話しているスタジオに戻る。


『バス会社の不誠実さに怒りを覚えますね』


 仏頂面でコメンテーターが言った。


 アナウンサーは軽く同調してから、このニュースを締めた。


 サラリと流し過ぎでは……? とは思ったけれど、だからといって特に言いたい事は無くて。


 頭の隅で、“こういうものだから”と割り切れているからだと思う。


 薄情な私。


 涙を拭って溜息を吐いた――。

 

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