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隣人は甘く囁く~透明な魂と祈りのうた~  作者: 奏 みくみ
『必然に決まっているでしょう』
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『必然に決まっているでしょう』6

 ***


「えー……マジか……」


 改札口を出たら外は雨。


(ファミレス出た時は星が見えてたのに……)


 朝にチェックした天気予報では、夜の降水確率は三十パーセントだった。


 いつもなら「念の為!」と持っていく癖に、今日に限って「ま、大丈夫でしょ」と楽観的だった自分が恨めしい――。


 本降りじゃないのが救いだ。コンビニでわざわざビニール傘を買わなくても帰れる程度だと……思う。


 そう、私の足が速ければ。家まで疾走出来る脚力があるならば。


 ――いや無理だな。


 諦めて買って行くのが無難っぽい。


「あーあ……カバン変えたのも失敗だった……。折りたたみ……」

「こんばんは、花音さん。雨ですね」

「はいっ!? あっ!」


 突然現れた声にバッと振り返れば、私の叫びに驚く結城さんがそこに。お互い数秒間固まってしまう。


「……驚きました」

「こっちの台詞です!」

「あぁ……すみません。ここでお会い出来ると思わなかったので、つい」


 苦笑しながら、結城さんは腕時計を見た。


「シフトに変更でもあったのですか?」

「? ないですよ?」


 さすが結城さんだ。私のバイトスケジュールは相変わらず把握されてるらしい……。


「朋絵と田所さんとご飯食べに行ってたんです。あ、田所さんって人は大学とバイト先の先輩! 大学では全く会わない変な先輩で、いつもバイトばっかしてて、でも今日は珍しく時間があったらしく初めてみんなでご飯食べましたっ!」


 早口で説明したら、なんか言い訳してるみたいな気分になってきた……。


 聞かれてもいないのに田所さんの紹介までしちゃって。これ、田所さんが女性だったら、息切れしてまで話したりしてないと思う。


「フフッ……田所さん、両手に花とは羨ましいですね」


 結城さんは焦る私を見てこちらの心情を察したのか、クスクスと笑う。


「花音さん。宜しければあちらでお茶でも飲みませんか? 雨が止むまでもう少しかかるでしょうし」

「はい!」


 この時間に結城さんと駅でバッタリ会えるとは思わなかったので、二つ返事で誘いに応じた。


 ――足止めを食らったのは、結果オーライということで。


 失敗もたまには幸運を運んで来るんだなぁ……。


 歩き始めた結城さんの背中を見ながら、私はちょっとだけ浮かれてしまった。



 店内は同じく雨宿りの人で混んでいるかと思っていたけれど、案外そうでもなかった。二軒先にもコーヒーショップがあるので、上手いこと分散された様だ。


 私達はちょうど空いた窓際のカウンター席に座って、一息ついた。


「雨降って、少し気温下がりましたよね? あったかいのにして良かった~」

「確かに。足先から冷えるようになった気がします。風邪に気をつけねば……ね? 花音さん」


 お腹出して寝たら駄目ですよ、と笑顔で言われ、危うくロイヤルミルクティーが変な所に入りそうになる。


「子供じゃないのでそこはちゃんとします。ちゃんと出来なかったのは昨日ですよ。あれはもう……大変お騒がせしました」

「光稀はクセが強いので相手をするのも大変だったでしょう。本当にアレは昔から困ったもので……」


 はぁ、と横で溜息。窓には頭を抱える結城さんが映っていた。


 二人が長い付き合いだと聞いた時は驚いたけど、あのミツキさんとこの結城さん、なんだかんだ言いつつ仲良く付き合いが続いているのが、ちょっとだけだけ分かったような気がする。――あくまで、ちょっとだけだけど。


 朋絵と田所さんの相性の良さに似たものを、なんとなく感じるんだよね。


(女同士とはまた違うんだろうな。私は異性の友達なんて今までいなかったから、全然分かんないや)


「合鍵持ってる上に、冷蔵庫漁り始めた時は言葉を失いました」

「黙って作ったり家捜しするんですよ、あの人は。何度抗議しても全く聞く耳持たないし、いい迷惑です! 私から合鍵を渡した訳じゃないですからね!? 光稀が勝手に作ったんです! 勝手に!」

「あはは……」


(二回言った……!)


 普段は冷静な結城さんが焦ってる様に見えた。これは意外な表情だ。


 カフェオレを飲む伏目がちな横顔。


 自惚れていいのだろうか? と、考える私。


 すると、もう一人の自分が囁いた。


 ――うん。良いと思うよ……。


 私はちゃんと想われているって。

 

 最後の一口を飲み終えると、まるでそれが合図だったかのように雨が止んだ。


 目の前を通り過ぎていく傘が、徐々に姿を消していく。気が付けば、窓に映っていた明るい店内の様子も変わっていた。お喋りに興じていた人達はほとんど居なくなっていて、パソコンや本を相手にしている人が目立つ。


 もう少しこうしていたかったけど、私は結城さんに「そろそろ帰りましょうか」と言った。


「そうですね。花音さん、明日は丸一日大学ですものね」

「えっ」


 だから何でそう色々知ってるの!?


「あの~……結城さん」

「? どうかされましたか?」

「……」


 知られてる事で問題が発生してる訳じゃないから、別にいいんですが……。


「いえ。……呼んでみたくなった、なんて……変なこと言ってますね! 私!」


 聞くのは止めた。


 彼を信じると決めたら、割とどうでもいいことかもしれない――。


 そう思い至った私に、朋絵は「恋は盲目!」と笑うだろうか。逆に目をキラキラさせて「分かる!」とウンウン頷いたり?


 ミツキさんなら何て言うのかな? また変なテンションになっちゃったらどうしよう――。


 一人で吹き出しそうになってる私に、結城さんは渋い表情を見せた。


「まさか、光稀が余計な事を喋って、花音さんを不安にさせているのでは……」


 急におかしな発言したりニヤニヤしだしたものだから、結城さんは私が精神的に弱ってると思ったらしい。


(誤魔化すにしても、もう少し言葉を選べば良かった……。呼んでみたかった、とか漫画じゃないんだから)


 これは、違う意味でミツキさんに影響されてるな――。

 

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