『必然に決まっているでしょう』1
閉めたカーテンの隙間から一筋の光が、ベッドを二つに割るように差し込んでいる。
重だるい体にちょっとの頭痛。これが俗に言う二日酔いというものなのだろう……。
(うわぁ……やってしまった……)
ミツキさんと楽しくお喋りしていた前半戦は、しっかり覚えてる。でも、結城さんが帰って来てからの後半戦の記憶は曖昧だ。
なんか自分らしくない行動をした様な気もするけど……さっきまで見ていた夢の中での事なのか現実だったのか、正直よく分からない。
確かなのは、ナユタ君とセツナちゃんへのプレゼントを渡しそびれたのと、自分の足でちゃんと帰ってきたのと……零さんとの一件が結城さんにあっさりバレて……
「あっ……」
思い出した!!
ベッドから転げ落ちる勢いのまま、全身鏡にかぶりついた私。起きたばかりの癖に顔色がよく見えるのは、頬が熱いのと切れた下唇のせいだ。
断片的に蘇る記憶の中の私は、結城さんにまたもや「無防備過ぎです!」とお説教されていて、その後のほんのちょっとだけ乱暴なキスに、こっそり喜んでいた――。
朋絵の「お仕置きみたい」という言葉を思い出す。
ミツキさんが言った「独占欲」という単語も耳に響く。
我ながら呆れてしまうけど、鏡の中の自分はなんとも締まりのない顔をしていて。
(いや、怒られて喜ぶってどんだけよ、私……)
はぁ~っと溜息ついてみても、全っ然溜息に聞こえないとは。
「結城さん……まだ怒ってるかな……? でもあれ……」
初めて見た、焦り顔に自惚れてもいいのだろうか?
窓を開けるとひんやりとした弱い風が入ってきた。もうカーディガン一枚では寒い月になる――。
「寒っ! 換気終わり!」
結城さんと出会った日から半年も経っていないのに、私達の関係は一気に縮まり、自分の周りの人間関係も大きく広がっていた。
こんなにも短時間で、がらっと身辺や自分の気持ちが変わるのは、いつ振りだろう。
お世話になっていた児童養護施設が中学生の時に閉鎖になり、遠い親戚に引き取られる事になった――あれ以来かな?
高校生からこのマンションで独り暮らしを始めた時は、ぼんやりと、ただ大人達が決めた自然な流れに身を任せるだけだったから。
好奇心が芽生え、それが強くなっても冒険はしない……平穏が一番と考えていた私が少し能動的になったのは、結城さんやその周りにいる人達と知り合ってからかもしれない。
それともう一つ。……あのバス事故。
偶然と偶然が重なって人生が分かれた出来事は、私の中ではかなり衝撃的だった。
運命、偶然、必然。
零さんからの問題提起。
まだまだ疑問は多いけれど、でも、私はここで戸惑い立ち止まってはいけない。そんな気がする。
結城さんが現れたのは偶然か否か、それは彼がちゃんと教えてくれるはずだ。
(信じよう。結城さんを)
鏡の前で大きく伸びをしてからミネラルウォーターを一口。
ピリッと痛む下唇を舌でそっとなぞって……。
「……朋絵に突っ込まれたらどうしよう」
(まずはこのニヤけ顔をなんとかしなくちゃね)
朝の洗顔は、ぬるま湯じゃなく冷水に決定だ――。




