『油断しないで』21
「ミツキさんって、美人だし、恋愛経験豊富かと思ってたんですけど……。三角関係とかは経験無いんですか? 漫画参考とか、かなりビックリしちゃった」
「……ワタシ?」
「モテる人って、それだけで必然と集まってくるじゃないですか……性別問わずに人が」
「ん~。まぁ、ねぇぇ」
なんとも煮え切らない声を出し、ミツキさんは首を傾げた。
自分も並べられたお料理を食べ始め、そして私を見る。
「ワタシは、モテるっていうのとは違うわよー?」
「えぇ? ミツキさんがそれ言っちゃ……」
「だってワタシは、人を惹きつける側じゃなくて……寄っていく側だしねぇ……」
「……?」
彼女が哀しそうに微笑んだのは気のせい?
言葉の最後の方は小声だったからよく聞こえず、私は彼女を覗き込むようにして表情を見ようとした。
さりげなくミツキさんが顔を逸らす。
「残念ながら、ワタシは花音ちゃんが思う様なモンじゃないし……。加えて、まともな恋だって出来ないわ」
「まともな恋……ですか?」
「そうそう。残念なオンナなのよ。実のところはね」
再びグラスを傾けて。二本目のワインは、やっぱり速いペースで無くなっていく。
でも、ミツキさんは少し前の“ミツキさん”に戻っていて、あの高いテンションは嘘だったみたいに消えていた。
彼女のあの時の沸点が何だったのか見当もつかないけど、結局あの興奮状態は一時的なものだったようだ。
裏付ける様に、目の前の女性はただ静かに美しく、ワインを嗜んでいた。
「花音ちゃんの話を聞いてるとこだったのに、とんだ脱線しちゃったわ」
「ミツキさん」
「ん?」
「誰かに恋する気持ちは、まともだとかそうじゃないとか、そういうのとは違うんじゃないでしょうか?」
「えっ?」
「確かに、後ろ指を指されるような不道徳な恋愛も中にはあるかもしれないけど……。でもそれは行き先間違えた結果であって。誰かを想う気持ち自体には、良いも悪いも無いんじゃないかなぁ……? うーん……。あれ?」
必死に話している内に、何を言いたいか分からなくなってきた。
でもとにかく、私は彼女に伝えたかったのだ。
「まともな恋は出来ない」なんていう彼女が、とても寂しそうに見えたのが切なかったから。
それは、自分が今している恋に寂しさや苦しさを感じているからこそで……。
しどろもどろになる私に、ミツキさんは「そっかそっか」と嬉しそうに笑う。
「花音ちゃん、イイ子ね。ワタシを慰めようとしてくれてるんだ!」
「慰める、ってのとはまた違う様な気もしますけど……」
「ううん。ちゃんと花音ちゃんのキモチ受け取ったわよ? ありがとっ」
「……とにかくっ。ミツキさんも、そのまま正直な想いで恋するべきです! 自分に自信持ってください!」
「あ、うん……。そうね、そうよね!」
今度はちょっとだけ、私の方が熱くなっていたかもしれない。
握り拳を作り、無意識のうちに早口に。
すっかり前のめりになり彼女に話していた。
ミツキさんは、それに引く事も無くニコニコ受け止める。
「花音ちゃん。一回、落ち着こうか。ホラ、これ飲んで?」
――あ。またブーメランの如く戻ってきた! 「落ち着こう」っていう言葉。
手渡されたグラスの重みと、ふと我に返る思考のおかげで、湯気が出かかっていた頭が鎮静してきた。
「でもでも。なんだか二人で話してたら、少しは解決してきたんじゃない~?」
「初めの話が……ですか?」
「そー! つまりはぁ、恋ってのは勢いに身を任せるしかないって事で? 自分の想いに正直にいれば、おのずと道は開けるってやつよ」
「なんか結局、うやむやというか……」
「あら! そんな事する必要無いんじゃない? 男二人が自分の気持ち押し付けてきてんだもの、花音ちゃんも負けじと押し付けてやりゃイイの!」
「うぅ……。意外に肉弾戦的なハードさを感じます……」
「花音ちゃんはホント、純情ねぇ~」
ミツキさんの笑い方は、嫌味が全く無くて好き。
朋絵と話している時の感じにとても似ている。
もう一人親しい友人が出来た気がして、私は自然と笑っていた。やっぱり、気の通う友人と恋の話が出来るというのは楽しいものなのだ。
改めてそう思う。
「さー! ここの家主が帰ってくるまで、存分に女子力を高めて愉しむわよーっ! ワタシ、一度で良いから女子会ってやってみたかったの!」
「あ」
「花音ちゃんも遠慮しないで、どんどん飲んじゃって! ワインが苦手なら甘い系のカクテル位、ワタシが華麗にシェイキングしてあげるからね!」
「う……っ」
キラッキラな笑顔を向けられて、その眩しさに私は言いかけた言葉を飲み込もうかと思った。
このタイミングで言うのは……どうなんだろう。なんか凄く楽しそうだし、ミツキさん。
けれども……仕方がない。
こればっかりは、私の力ではどうにも出来ないのだから。うん……。
「あのー、ミツキさん。ごめんなさい。私、まだ二十歳じゃないので……お酒飲めないんです」
「……」
こちらの告白に、ミツキさんは一瞬真顔になった。
ごめんなさいと、もう一度私。
「……え?」
私が持っているグラスのワインが行き場を失った事を知った彼女は、
「そんなぁ……! ワイン片手のお洒落女子会がーッ!」
気の毒なくらい悲痛な声を上げたのだった。




