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『油断しないで』3


 お喋りに華が咲く店内に、「あっ!」という声が混ざった。


 見れば奥の方、あの、私と一緒にお店に入った二人組の女の子達だ。彼女らは私の方へ視線を送りながら何かを話している。


 何だろう? 私、変なコトしてたかな?色々考えてた事が顔に出てニヤニヤでもしてた?


「あれ、ひとり?」


 コト、と置かれたグラス。


 一般的な「お待たせしました」な言葉じゃないうえ、聞き覚えのある声に、私はカフェオレよりもまず相手を見上げた。


「朋絵っちと一緒じゃないんだ。珍しいな」

「田所さん……! ここでもバイトしてたんですかっ……?」

「働きもんだろ、俺」


 二カッと笑顔を向けた田所さんは、グラスを運んできたトレーを片手で上下させ胸を張っていた。


 どうやらギャルソン風を装いポーズを決めているらしい……。


「働きもんっていうか……あちこちに増殖してるクローン人間みたいです」


 一体、彼のスケジュール管理はどうなってるんだろう。学生じゃなくフリーターなんじゃないのか? 本当は。


「少しは褒めてよ」

「褒める前に、心配したくなりますよ。そんなに働いてばっかで大丈夫なんですか?」

「やっさしいなぁ、花音ちゃんは。大丈夫だよ。俺、丈夫だから!」

「留年して、同級生になれるかも」

「え。そっちの方?」


 がしがし頭を掻く田所さん。まあそっちもそこそこにね、と苦笑を重ねる。


 その時だ。店のカウンターの方から「田所くーん」と彼を呼ぶ声がした。


「もう上がっていいよー。ピーク過ぎたし、せっかく彼女が来てくれたんだから、そこで一緒にお昼しちゃいなさいな」


 可愛い女性の声だった。


 カウンターから真っ白な帽子をかぶった人がニコニコ笑って手を振っている。


 店内に居たお客さんは一斉にその女性を見た。そして、今度は一斉に私に視線を向けてきた。最後に、すがる様な視線が田所さんへ飛ぶ。


「えっ!? ちょ、違いますよ! この子は大学の後輩でバイトの後輩っす!」

「そうなの? また~っ! 誤魔化さなくてもいいじゃない」

「いや本当だから! もー勘弁してくださいよ。この間も似たような事言ってましたよね?」


 片掌を顔の前に立て私へ謝る仕草をした田所さんが、慌ててカウンターへ戻っていった。


 「ちょっと待ってて」と放り出された言葉に頷くしかない私。何やら微妙な空気になってしまった場へ残されてしまう。


 後輩か。後輩じゃん。


 なんて囁き声が耳に入ってきて……。


 聞こえないフリをしつつ私はカフェオレを飲む。


 トレーの上、食されるのを待ってる生ハムとクリームチーズのベーグルサンドに「なんだなんだ」と心の中で話しかけたり。


(田所さん、人気な店員さんなんじゃん。朋絵のイケメンセンサー、どうしたんだ?)

(もしかして)


 彼女のイケメンセンサーは、一般的なイケメンというよりむしろ……


(メンクイセンサーだったのか……?)


 少し前、田所さんへの厳しい評価を下していた朋絵の様子を思い出しながら、私はそんな納得いく着陸点を見つけた。


(それなら分かる気がする)


 とはいえ、考えれば、朋絵も私も田所さんへなんて失礼な物言いなんだろうか。


 ……ごめん。田所さん。

 


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