『告白したいのですが……』10
通りに飛び出した途端、わっと音の塊が耳に入ってくる。
裏通りの静けさとは真逆の中、私は音と人の波をかき分け前を急いだ。
すり抜けて。押し戻されて。
そんな事を繰り返しながら先を進んでも、一向に結城さん達に追い付く感じは無い。
私は、以前この通りを結城さんと歩いた時の事を思い出した。
スイスイと人混みを難無く進んでいた彼。まるで周りの人達が道をあけているかの様に、スムーズに……。
「あ! ごめんなさいね!」
「いえっ……すみません」
大きなショッピングバッグを持った女性と肩がぶつかり、私の足はそれをきっかけに止まった。
もう、追い付けない。
人混みでも目立つ長身も、跳ねる金色髪もどこにも見当たらなかった。
楽しげな人々の笑い声が虚しく聞こえる。
「花音っ……大丈夫? どうしたのー? 急に」
「朋絵」
息を切らして追い付いてきてくれた朋絵に振り返り、
「結城さんがいた気がしたの。でも、見間違いかもしれないや……」
私は笑った。「ごめんね、急に走らせて」と、肩を上下させている彼女に言う。
朋絵は大きく息を吐くと、何言ってるの! と明るい声を出した。
「花音が結城さんを見間違う訳ないじゃん! いや~足速いね結城さんは! コンパスの差かなぁ?」
まだ息切れしてる。運動苦手の朋絵は、それでもニコニコ笑ってた。彼女は、私の見間違いだとは端から思っていなかった。
ありがとう、と心の中で私は呟く。さり気ないことがすごく嬉しい。
「ところでさ。喉乾いちゃたんだけど……。どこかでお茶しない? とりあえず今日は別のとこで!」
「そうだね。それもごめん。案内するって言っときながら……」
「いいって! あのおじさんも言ってたじゃん? 迷うんだって。面白い経験したし、それはそれでラッキーだよ」
「朋絵は本当にポジティブだね。うん、ありがと。そう言ってくれると助かる」
「今度は結城さんに連れてってもらう? 私早く会ってみたいなぁ!」
「あ。その手もあったか。だったら絶対迷わないね」
「ナイスアイデア~」
笑ったところで横断歩道が青になった。
ちょうど私達がさっき渡った信号。抑揚のない電子メロディーに促され、歩行者が横断を始める。
私と朋絵は、渡らずにそのまま駅方面へ向かった。
『行きはよいよい 帰りは……』
頭の中で廻る童謡は、電子メロディーが途切れた所で一緒に止まる。
思わず振り返ってしまった私。
来た道を見れば、多くの人が忙しなく歩く街の大通り。
あの路地裏とはまるで別世界だ。
その別世界で最後に私に向かって挨拶してきたあの男性が、今更になってなんだかとても不思議な存在に思え……。
少しだけ怖い気がした。




