『告白したいのですが……』8
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「……あ……れ?」
違和感に、私はすぐ足を止めた。
いつもの様に通りを一本入ってすぐの小路。見なれた景色が同じ様で……違う。
「あ。やっぱこっちでいいんじゃーん」
一歩後ろで言ってる朋絵に私は振り返った。
「とすると、この五差路で入るトコ間違えたかー」
「……」
違う。違うよ、朋絵。
この小路は五差路じゃなくて三差路じゃなかった? 確かその筈なんだけど……どうして?
ふたつ道が増えて……る……?
「どしたの? 花音。顔が怖いよ」
「だって道が……」
五差路を指差す私に、朋絵は笑う。
「別れ道はそのまま真っ直ぐって言ってたじゃん? 結構素直に真っ直ぐ進んだつもりなんだけどね~。どっかでズレてたかなぁ。てかさ、初めから目印聞いときゃ良かったよ」
言葉を失ってる私は、朋絵には呆れてるようにも見えたのかも知れない。
私のすぐ後ろに建っているレトロな物件に視線を送り、その店? と聞いてきた。全然私の様子を可笑しく思ってる感じも無くだ。
「そこの古本屋のトコ入ってけばいいの?」
「……あ、いや……」
振り返れば古本屋。いかにも昔から此処に建ってますというそれは、入口の引き戸を思い切り開放している為、所狭しと本を積んでいるのが通りからでも見て分かる。
歴史を感じる木造のダークブラウン。
何かのテレビ番組で見た“昭和レトロ”ってやつだ。
だけど。
「ここ……」
私が知ってるのと、やっぱりちょっと違う。
そこはいつも古本屋。それは変わり無い。
でも私が知ってるいつもの店は、ダークブラウンではなくライトブラウンで。
引き戸の昭和チックじゃなく、曇りガラスの洋風アンティークドア。
ついでにいうなら、ドアは前を通る度キチンと閉まっていた。小さな白いワゴンに“SALE”と書かれた札と一緒に本が積んであるので、それで辛うじて私はここが古本屋だと知る事が出来た。
似てはいるけど、全く違う。
――でも、何故……?
一体何が起こってるの?
「コッチの小路かぁっ! ヤダ、私間違ってたかも!? 着かないわけだ―」
「なんか……違うんだよ……」
「え? あー、まぁ確かに違うよね。表通りとは雰囲気が。異国情緒、なんて花音言うからさ。入る通り自体間違えちゃったかと思ったよ。昭和な感じって言えばいいのに、花音てば紛らわしいんだから~」
朋絵は私の独り言を勘違いして、サッと小路に進んでいく。私は慌てて後を追って……、
「ちがっ……! 待って朋絵!」
ずんずん進む友の背を止めようとした。
ところが。
「あ、このお店可愛くない?」
「えっ……あれ!?」
「花音ってば、何その反応。いつも通ってるんでしょ? こういう所、大好物じゃないの」
小路を入ってすぐの所で朋絵が見つけたお店。
足が止まって、釘付けになった。
「……開いてる」
「何? 開いてるの珍しいの?」
真っ白な壁。煉瓦のアクセント。出窓が二つ。その間に入口のドア。
このお店はいつも見ている店となんら変わらなかった。一つ違うと言えば、いつもは出窓にはカーテンが引かれていて、入口のドアプレートが“CLOSED”だった事。
――私は、今までこの店が開いているのを見た事が無い。
(え!? でもこのお店があるってことは、さっきの分かれ道とか古本屋って……!?)
ど、どうなってんの……?
「じゃ、初来店一件目~」
朋絵の声とウィンドウチャイムの音に、一瞬の考え事から我に返った。
見ればもうそこに朋絵の姿は無くって。
ゆっくり閉まったドアが、ちょうどパタンと音を立てたところだった。
「もう! 朋絵ってば! マイペース過ぎっ」
さすが好奇心旺盛少女。彼女の行動力に溜息が出るのは、本日二度目だ。
やれやれと肩を落とし、ふと目に入った出窓へ視線を向ける。
出窓も飾り棚として利用しているらしい。
可愛らしいガラス細工がとてもセンス良く飾られていた。窓辺に吊り下げられたガーランドも、光に反射してキラキラ輝いている。
窓越しに目が合った朋絵も「見て見て!」とガラス細工のガーランドを指さしご満悦顔だ。
うんうん、と頷きながらも、だけど私は店に入る気にはなれなかった。
それよりなにより、目の前の謎が気になって仕方ないんだもの。
振り向けば歩いてきた道。
知ってるはずなのに知らない、変な感覚がちょっと気持ち悪い。
朋絵じゃないけど、道を間違えたのかと思った。お喋りに夢中になってて、うっかり違う通りに迷い込んだのか……と。
でも、目の前の店は確かに知ってるし、いつもと変わらずここに在る。
しかも、そこからさらに奥へと細く続く道は、見覚えある石畳の小路なのだ。
キョロキョロ辺りを見渡して、私は軽くパニックを起こしかけた。
分かれ道が増えてたり店の様子が変わっていたり、絶対何かがおかしいはず。
それなのに、考えれば考える程、以前のこの辺りの風景が脳内でぼやけていく。
もしかしたら、本当はこうだったのかもしれない。いつも独りで歩いている時の方が、よっぽどぼんやりしていて、憧れ混じりの空想もプラスされていた……?
(初めて結城さんとここに来た時、本当に異国に来ちゃったみたいって思ってたしなぁ……)
妄想好き空想好きも、こうなると少し厄介な特技ってところだろうか。
緩やかにカーブする石畳の小路を見つめ、私は未だに変な感覚を胸に抱えていた。
今だったら不思議の国に迷い込んだアリスの気持ち、十分理解できるかもしれない。果たしてアリス程の適応能力が自分にあるかは謎だけど。
「花音、見なくていいの? いつも閉ってるとこなんでしょ?」
ドアから朋絵が出て来た。彼女なら、アリスに匹敵する好奇心を持っていると断言できる。
「あっ、うん。大丈夫……」
「なんか不思議な店だよ。商品に値札も無いし、店員もいないの。ご自由にご覧くださいって書いてあるだけで」
「もしかして、ギャラリーみたいな感じなのかな?」
「そっか! そういうのもアリか! 気に入ったら交渉次第で売ってくれるとか、そんなもん?」
納得した様子の朋絵は、ついさっきまでの私みたいにキョロキョロと周りを見た。
しかしさぁ、と呟く。
「なんか、花音が異国情緒とか言ってた意味、ちょっと分かった気がするかも」
「え? そうなの?」
「うーん。まぁね、私は異国情緒とも少し違うかなって思うけど……。この辺、全体的になんか違うじゃん? 街の雰囲気っての? 大通りには無いよ、このカンジ」
「そうだよね。人通りも全然だし」
「時代が……、時がごちゃまぜ? 向こうは昭和っぽいのに、ここは今風だし。あ! そういえばこの石畳の道とか周りの壁の白っぽさとかは、花音が言うみたいに異国感出てるね!」
例の店はこの石畳の道の奥なのだと教えると、目をキラキラさせた朋絵が何度も頷いた。
「こんな奥に素敵なカフェがあるとは思わないでしょ?」
「絶対穴場じゃない! さっすがイケメン紳士は素敵な店を知ってるんだねぇ」
再び歩き始めた私達。足取り軽く先を急いだ。
お店まではあと数分といったところ。
ここまで来れば迷う事も無い。だって一本道だもの。




