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隣人は甘く囁く~透明な魂と祈りのうた~  作者: 奏 みくみ
『告白したいのですが……』
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『告白したいのですが……』8


 ***


「……あ……れ?」


 違和感に、私はすぐ足を止めた。


 いつもの様に通りを一本入ってすぐの小路。見なれた景色が同じ様で……違う。


「あ。やっぱこっちでいいんじゃーん」


 一歩後ろで言ってる朋絵に私は振り返った。


「とすると、この五差路で入るトコ間違えたかー」

「……」


 違う。違うよ、朋絵。


 この小路は五差路じゃなくて三差路じゃなかった? 確かその筈なんだけど……どうして?


 ふたつ道が増えて……る……?


「どしたの? 花音。顔が怖いよ」

「だって道が……」


 五差路を指差す私に、朋絵は笑う。


「別れ道はそのまま真っ直ぐって言ってたじゃん? 結構素直に真っ直ぐ進んだつもりなんだけどね~。どっかでズレてたかなぁ。てかさ、初めから目印聞いときゃ良かったよ」


 言葉を失ってる私は、朋絵には呆れてるようにも見えたのかも知れない。


 私のすぐ後ろに建っているレトロな物件に視線を送り、その店? と聞いてきた。全然私の様子を可笑しく思ってる感じも無くだ。


「そこの古本屋のトコ入ってけばいいの?」

「……あ、いや……」


 振り返れば古本屋。いかにも昔から此処に建ってますというそれは、入口の引き戸を思い切り開放している為、所狭しと本を積んでいるのが通りからでも見て分かる。


 歴史を感じる木造のダークブラウン。


 何かのテレビ番組で見た“昭和レトロ”ってやつだ。


 だけど。


「ここ……」


 私が知ってるのと、やっぱりちょっと違う。


 そこはいつも古本屋。それは変わり無い。


 でも私が知ってるいつもの店は、ダークブラウンではなくライトブラウンで。


 引き戸の昭和チックじゃなく、曇りガラスの洋風アンティークドア。


 ついでにいうなら、ドアは前を通る度キチンと閉まっていた。小さな白いワゴンに“SALE”と書かれた札と一緒に本が積んであるので、それで辛うじて私はここが古本屋だと知る事が出来た。


 似てはいるけど、全く違う。


 ――でも、何故……?


 一体何が起こってるの?


「コッチの小路かぁっ! ヤダ、私間違ってたかも!? 着かないわけだ―」

「なんか……違うんだよ……」

「え? あー、まぁ確かに違うよね。表通りとは雰囲気が。異国情緒、なんて花音言うからさ。入る通り自体間違えちゃったかと思ったよ。昭和な感じって言えばいいのに、花音てば紛らわしいんだから~」


 朋絵は私の独り言を勘違いして、サッと小路に進んでいく。私は慌てて後を追って……、


「ちがっ……! 待って朋絵!」


 ずんずん進む友の背を止めようとした。


 ところが。


「あ、このお店可愛くない?」

「えっ……あれ!?」

「花音ってば、何その反応。いつも通ってるんでしょ? こういう所、大好物じゃないの」


 小路を入ってすぐの所で朋絵が見つけたお店。


 足が止まって、釘付けになった。


「……開いてる」

「何? 開いてるの珍しいの?」


 真っ白な壁。煉瓦のアクセント。出窓が二つ。その間に入口のドア。


 このお店はいつも見ている店となんら変わらなかった。一つ違うと言えば、いつもは出窓にはカーテンが引かれていて、入口のドアプレートが“CLOSED”だった事。


 ――私は、今までこの店が開いているのを見た事が無い。


(え!? でもこのお店があるってことは、さっきの分かれ道とか古本屋って……!?)


 ど、どうなってんの……?


「じゃ、初来店一件目~」


 朋絵の声とウィンドウチャイムの音に、一瞬の考え事から我に返った。


 見ればもうそこに朋絵の姿は無くって。


 ゆっくり閉まったドアが、ちょうどパタンと音を立てたところだった。


「もう! 朋絵ってば! マイペース過ぎっ」


 さすが好奇心旺盛少女。彼女の行動力に溜息が出るのは、本日二度目だ。


 やれやれと肩を落とし、ふと目に入った出窓へ視線を向ける。


 出窓も飾り棚として利用しているらしい。


 可愛らしいガラス細工がとてもセンス良く飾られていた。窓辺に吊り下げられたガーランドも、光に反射してキラキラ輝いている。


 窓越しに目が合った朋絵も「見て見て!」とガラス細工のガーランドを指さしご満悦顔だ。


 うんうん、と頷きながらも、だけど私は店に入る気にはなれなかった。


 それよりなにより、目の前の謎が気になって仕方ないんだもの。


 振り向けば歩いてきた道。


 知ってるはずなのに知らない、変な感覚がちょっと気持ち悪い。


 朋絵じゃないけど、道を間違えたのかと思った。お喋りに夢中になってて、うっかり違う通りに迷い込んだのか……と。


 でも、目の前の店は確かに知ってるし、いつもと変わらずここに在る。


 しかも、そこからさらに奥へと細く続く道は、見覚えある石畳の小路なのだ。


 キョロキョロ辺りを見渡して、私は軽くパニックを起こしかけた。


 分かれ道が増えてたり店の様子が変わっていたり、絶対何かがおかしいはず。


 それなのに、考えれば考える程、以前のこの辺りの風景が脳内でぼやけていく。


 もしかしたら、本当はこうだったのかもしれない。いつも独りで歩いている時の方が、よっぽどぼんやりしていて、憧れ混じりの空想もプラスされていた……?


(初めて結城さんとここに来た時、本当に異国に来ちゃったみたいって思ってたしなぁ……)


 妄想好き空想好きも、こうなると少し厄介な特技ってところだろうか。


 緩やかにカーブする石畳の小路を見つめ、私は未だに変な感覚を胸に抱えていた。


 今だったら不思議の国に迷い込んだアリスの気持ち、十分理解できるかもしれない。果たしてアリス程の適応能力が自分にあるかは謎だけど。


「花音、見なくていいの? いつも閉ってるとこなんでしょ?」


 ドアから朋絵が出て来た。彼女なら、アリスに匹敵する好奇心を持っていると断言できる。


「あっ、うん。大丈夫……」

「なんか不思議な店だよ。商品に値札も無いし、店員もいないの。ご自由にご覧くださいって書いてあるだけで」

「もしかして、ギャラリーみたいな感じなのかな?」

「そっか! そういうのもアリか! 気に入ったら交渉次第で売ってくれるとか、そんなもん?」


 納得した様子の朋絵は、ついさっきまでの私みたいにキョロキョロと周りを見た。


 しかしさぁ、と呟く。


「なんか、花音が異国情緒とか言ってた意味、ちょっと分かった気がするかも」

「え? そうなの?」

「うーん。まぁね、私は異国情緒とも少し違うかなって思うけど……。この辺、全体的になんか違うじゃん? 街の雰囲気っての? 大通りには無いよ、このカンジ」

「そうだよね。人通りも全然だし」

「時代が……、時がごちゃまぜ? 向こうは昭和っぽいのに、ここは今風だし。あ! そういえばこの石畳の道とか周りの壁の白っぽさとかは、花音が言うみたいに異国感出てるね!」


 例の店はこの石畳の道の奥なのだと教えると、目をキラキラさせた朋絵が何度も頷いた。


「こんな奥に素敵なカフェがあるとは思わないでしょ?」

「絶対穴場じゃない! さっすがイケメン紳士は素敵な店を知ってるんだねぇ」


 再び歩き始めた私達。足取り軽く先を急いだ。


 お店まではあと数分といったところ。


 ここまで来れば迷う事も無い。だって一本道だもの。


 

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