『告白したいのですが……』6
「どんな? どんな人?」
「……いや、背が高くって眼鏡の」
「眼鏡男子っ!」
「お、落ち着けよ、朋絵っち! いいか? この世の中には良いイケメンと悪いイケメンがいてだな! 俺が見るにアイツは悪いイケメンなんだっ! だから会ってはいかんっ」
「イケメンに良いも悪いも無いっ。端正なお顔を拝見して、なおかつお知り合いになれるこのチャンス……! 邪魔しないで田所さん!」
「ちょっとちょっと……二人とも!」
あからさまにも程があるでしょうがっ!
放っておいたら二人で口論しながら、我先にと売り場に出て行ってしまいそうだ。
ひとまず間に入って、一呼吸ふたりに入れさせる。
と、田所さんと朋絵が同時に私を見た。双方のすがる様な視線にちょっと嫌な予感がする。
「花音! 花音なら分かってくれるよね? 私のこのキモチ! 新たな出会いに飢えている私に、今千載一遇のチャンスが巡ってきたのっ!」
「花音ちゃん! なんて言っても、俺らは今はバイトの時間だっ。現在時点での己の持ち場を大切にするべきだよなっ? なっ?」
「……。いや、二人の気持ちはもっともだけど……」
答えに困る。ていうか、なんでこんな事でここまで揉めてるんだろうか? この二人……。
(朋絵には行ってほしくないならそう言えばいいのに……)
今まで全然気付かなかったけど、この慌てようと必死さを目の当たりにしたら、何となく勘も働くってもの。
(田所さんってば、もしかして朋絵の事を……?)
チラリと田所さんを見上げたら、ギクッとあからさまに肩を揺らして動揺している。
(あ。目が泳いだ……)
ただね、田所さん。残念な事に。
乙女妄想モード中の朋絵は、いつもより三割増し位で行動力がアップする。
それを考慮すると、田所さんの現状はちょっと不利だろう……。と、思うんですよ。
――しょうがない。ここは私が協力してあげるか。
「揉めるのもなんだしさ。ここはとりあえず私が行ってくるよ? ほら、この間整理したばっかで色々把握してるし」
「ずるいよー花音っ。カッコイイ彼氏が出来たんだから、目の保養は必要ないでしょ? 今のその花音の恋愛大吉運、私にちょっとだけでいいからあやからせてーっ! おねがーいっ」
「えっ!? ちょ、朋絵! まった……!」
好機逸すべからず。朋絵は、まさにその言葉通りの行動で。
しまった! 三割増しの行動力を侮っていた……!
「……朋絵っち……!」
店内のBGMが一瞬大きく聞こえ……そして、ゆっくりと遠ざかっていった――。
「ごめんね、田所さん。朋絵のイケメンセンサーを馬鹿にしてたわ私……」
止める間もなく、売り場へ飛び出してった朋絵を見送る羽目になった私と田所さんは、力無くその場で立ち尽くすしかなかった。
「いや……。別に、朋絵っちを邪魔する気は無いんだけどねぇ、俺は」
たはは、と情けない笑いを零した後に「だけどなぁ」と呟く田所さん。
「どうもこう、俺的に嫌っていうか……」
「そんなに朋絵の事好きだったんですか?」
「えっ!? いや! 違ッ! そういう意味じゃなくてさ」
ブンブン頭を振る田所さんだったけど、耳だけすっかり赤くなってるのを、私は見逃さなかった。
イケメン、ねぇ……。
背が高くて眼鏡、という特徴を聞く前、もしかして結城さんが? とか思ってしまった事は内緒だ。
(だってほら、前にバイト先に行くみたいな事言ってた時あったから……。って! 別に期待して待ってた訳じゃ……ないんだから!)
田所さんだけじゃなく自分まで焦ってくるわ。
ほわっ、と目の下あたりにささやかな熱を感じ、バレないように静かに顔を逸らす私。
妙な間が生まれてしまう。
「ていうかさ、花音ちゃん。彼氏出来たんだ?」
田所さんがそれを埋めてくれ、
「は、はぁ。まぁ。そんな感じです」
恥ずかしい質問だけど、とにかく沈黙よりはマシ……と返事をした。
「え。ならやっぱさ、この間コンビニで会った時ってもう」
「いえっ! あの時はホント! まだそんなんじゃ……!」
「そうなんだ……? 彼氏、イケメンさんなんだね。朋絵っちのあの言い振りじゃ」
「……うっ。そ、そうで……すね」
「ちなみにさ。良いイケメン? 悪いイケメン?」
「は」
なんちゅー質問だっ!
――この話題に乗った事を、ちょっと後悔したい……。
「それは……良い人だって信じたいですよ。と、当事者としては……」
「はははっ! そうだよねーっ!」
爽やかに流し笑ってる田所さんと、のほほん顔のゆるキャラエプロン。ダブルの笑顔が虚しさと更なる恥ずかしさを誘う。
これはちょっとした羞恥プレイでは……っ!?
「花音ちゃん? どうした?」
「いえ別に」
「唇、どうかした?」
「えっ?」
突然、田所さんの質問が思わぬところへ飛んだ。
指で口元を指し示されて、私はそこでようやく気付いた。無意識に下唇をなぞっていた事を……。
「何でもっ……! これは、ちょっと昨日切っちゃったもんだから!」
「あー、分かる。唇切るとしばらく違和感残るよなぁ。んで、無意識にやっちゃうんだよな」
「?」
「違和感気になって舌でなぞったりさぁ。アレ、“舐めときゃ治る”を本能的に実行してんのかね?」
「っ!?」
――痛かったでしょう?花音さん
刹那に思い出す、耳奥に響いた低い声。
昨夜の秘密。
――でも大丈夫ですよ。全部消してあげますから……。痛みも、傷も
彼は嘘を言わなかった。
本当に全部消えてしまった。
鉄の味する血も、じりじりする痛みも、みんな綺麗に流されてしまったのだ。
そう。熱い吐息と甘い舌で。
(……でもそれは!)
「な、ななな何言ってんですかっ! 田所さん、おかしいんじゃないですかーーーっ!?」
「え!? 何? なんか俺、ヤバい事言った……!?」
(絶っ対に、誰にも言えない秘密なの!)
翻弄されて酔いすぎて、キスで気を失いかけたとか……普通じゃないじゃんっ!!
私どんだけ結城さん好きなのよ!?
知らなかった自分の一面、貪欲さに呆れてしまう。
――乙女妄想モード、なんて朋絵の事言ってる場合じゃない。こんなの、よっぽど自分の方が……!
ああもう! 恥ずかしさに叫びたい気分だ!




