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隣人は甘く囁く~透明な魂と祈りのうた~  作者: 奏 みくみ
『告白したいのですが……』
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『告白したいのですが……』5


 ***


「ふ、おぉおおおお」


 目を大きく見開いて、朋絵は可笑しな声を出した。


 コミックス数冊を抱え、その場で足踏み。


 人目が多い所だったら、確実に「なんなの? あの人?」の痛い視線に囲まれるところだ。


 しかし幸いにも、ここはバイト先の書店のバックヤード。朋絵のこの奇行は、私だけにさらされている。


「イケメンドSの独占欲キターッ!」

「なにそれ」

「結城さんに決まってるでしょっ。もうもう! 花音ったら、なーんにも教えてくれないからぁ! いつの間にそこまで進んでたなんてさー!」

「いつの間にっていうか……。告白されたのはつい昨日だもん……」

「で、で? お付き合いすることになったワケね?」

「うん……」

「おめでとーっ! いや、もう羨ましいわホント! 花音はイイ子だからさ、いつか素敵な人と結ばれるはずって、ずっと思ってたよ!」


 未だに昨日の事が夢なんじゃないかと思ってる私より、朋絵の方がいち早く現実として受け止めて、しかも私よりはるかに高いテンションで喜んでいる。


 整理中のコミックスは手放さず、その場で社交ダンスみたいなターンを決めている朋絵に私は思わず苦笑した。


「これで結城さんが眼鏡男子だったら、メガネスーツ、ドSで溺愛主義なんていうフルコースだったのにねぇ……。職業は教師か執事で!」

「こらこら。妄想が暴走してるよ、朋絵」

「結城さんのお友達にそういう人いないかなぁ? 紹介してもらいたいっ」

「……いないと思うよ。きっと。それに」


(そもそも、結城さんがドSだとか溺愛主義だとか……どこでそんな決定事項になったのやら……)


 なんていうこちらの思いを私の溜息一つで察知した朋絵は「ちょっと、花音たら!」と前のめり気味に言う。


 その迫力に圧倒され、私は若干身体を引いた。


「他の男と喋ったくらいで態度急変なんて、嫉妬以外の何物でもないでしょうが! 少しは愛されてる自覚持ちなよっ」

「えっ……愛されてるとか……そんな」

「イマドキの男なんて、愛情表現足りなさすぎなんだから、ちょっと強引ちょっとヤンデレ位が丁度いいの!」

「ヤンデレ?……ちなみに聞きたいんだけど。朋絵の中での結城さんて、一体どんな人物なのよ?」


 あまり大きな声は、いくらここが売り場の裏とはいえよろしくない。時々店長にオーバーな報告をするオバサンパート店員もいるのだ。


 見つかったら、すごく後が面倒になる。


 人差し指で「シーッ!」と合図を送りながら、興奮する朋絵をなだめた。


「あ。ごめんごめん」


 朋絵もようやく周りが見えたらしい。


 私たち以外に人がいないのを確認した後、本を整理する作業の“フリ”をしつつ、私との距離を更に縮めてきた。そして小声で、


「でもさ、花音。やっぱり結城さんは、愛する彼女をとことん愛しちゃう……愛し過ぎちゃうタイプなのよ! じゃなかったら、キスの最中に……」

「……」


 朋絵はごにょごにょと言葉を濁した。独り言を言いながら赤面してる。


 そんな朋絵につられて私も顔が熱くなってきてしまった。


 ついつい舞い上がり過ぎて、正直に全部話しちゃったのは失敗だったかな?


 いつもの事ながら、好奇心の塊みたいな朋絵のペースに巻き込まれちゃったんだよね。


 ――下唇を指で触れて、私はまた一人で赤面。


『それってお仕置きみたいじゃん』


 最初に話した時の朋絵のストレートな感想が頭によみがえる。


 頭の中で乙女モード全開の妄想をするのが趣味な朋絵の感想とはいえ、実はどこか否定しきれない感が……というのもあったりして。それで私自身もちょっと戸惑っていたり。


「そ、それはまぁちょっと別として。結城さん、ホントに素敵な人なのよ……」

「分かってるって。実際私はまだ見た事無いけどー。花音の話聞いてると、いい人なんだろうなってのは良く理解できてマス」


 ひょい、と肩を上げ、朋絵は私にウインクして見せた。


「花音の選んだ人だよ? 絶対間違いないって私にはわかる」

「……ふふっ。ありがと」


 そっか。朋絵はまだ結城さんに会っていないんだった。零さんとはニアミスがあったけど、彼とはそれすら無かったんだ。


「あのさ、朋絵」

「ねぇねぇ、花音」


 私達の声が重なった時、お店で流れている有線の音楽が一際大きく聞こえてきた。誰かが、売り場とを区切るドアを開けた証拠だ。


 朋絵が慌ててコミックスを抱え直した。私も口を結び入ってきた人物を探る。


「朋絵っちー? いるー?」


 のほほんとした声は田所さんだった。


 緊張が一気に緩んだ瞬間。


 朋絵は「人騒がせなっ」と小声でむくれた後、


「はいはい、こっちですー。コミックス在庫ー」


 持っていたコミックスをゆっくりおろした。


 棚と棚の間から「いたいた」と出て来た田所さんは、ゆるキャラのエプロン姿。


 朋絵はその姿を見て、わざとらしく右肩を落としずっこけたフリをする。


「ちょっとナニそれ。キャラかぶり過ぎでしょ」

「えっ!? マジで!」

「いや。褒めてないですから別に」


 すぐさま否定されて、田所さんはとても残念そうな顔をした。


「ま、いいけどね。この姿を褒めてくれるのは、児童書売り場の子供たちだけさ」


 冗談なのか本気なのか、重い溜息を吐いて。息を吐き切った後は、項垂れてた頭を勢いよく上げる。今日の田所さんはいつもより落ち着きがない様に見えた。


「そんな事より、ちょっと教えてくれよ。写真集関係って売り場移った?」

「ナニ系ですか? アイドル系?」

「普通の、芸術系。ほら、鳴篠圭吾とか風景撮る人達の……」

「花音知ってる?」

「知ってる! 二階ですよ。階段奥の棚。この間の売り場整理でそこに移ったんです。案内ですか? それなら私行きますよ」


 幸いにも、その整理で私が担当していたのがまさにその辺だった。大体の本の位置なら、まだ頭の中に残ってる。


「いや! いいよ! 俺が行くから!」


 田所さんの少し慌てた大きな声に、私も朋絵も、ん? と首を傾げる。明らかにいつもと違っておかしい……。


「田所さん、何か隠してないですか?」

「分かった! お客さんすごい美人なんでしょ? だから自分で案内したいんだー。うわぁ、あからさまぁ」


 朋絵が目を細くして田所さんの顔を覗き込むように言った。すると、田所さんはそれにこそ慌てて、


「違っ! 違うよ、朋絵っち! その逆――」

「逆? それって……イケメンってこと!?」


 田所さんの口が「あ」と大きく開いたまま固まる。朋絵はそれを見て目を輝かせた。


 ついさっきまでの私達の話が話だっただけに、今、朋絵の前でイケメン出現の情報はあまりにもタイムリーな訳で。


 朋絵の喰い付きに、田所さんは顔を強張らせてしまった。


 

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