第3話 王命
終始、技能の重要性をマルスは口にする事はなかった。
これは王からの命令だ。
ステータスに於いて、数値が重要であると言うことにすれば疑問も小さくなる。だから取り上げて技能の存在に触れることはしなかった。
「ギャリッド……この結果は陛下に伝えに行く。今はレクリエーションでもしておけ」
マルスが部下のギャリッドに伝えれば、彼は頷きを返す。
技能の重要性。
破格の能力補正や成長補正が得られる事。また技能の開花により、更なる成長が期待できるということ。
しかし、だ。
技能を持たない者が、これから技能を獲得していくことは一朝一夕ではなく、人類は技能の獲得を待てるほど余裕があると言う訳ではない。
「4人、か。多すぎても困るが……」
先程の部屋の扉を開き王の前に傅く。
「マルスよ……ステータスは出たのだな?」
「はっ」
「では答えよ」
技能を持たぬ者を。
グリムはひどく冷たい目をしていた。感情が見当たらない。機械の様に、情状酌量など与えずに彼は答えを出すだろう。
「技能無しは4名。平泉金丸、護仲晋、栗田莉緒、峯崎香穂でございます」
名前と技能無しである事だけが分かれば良い。それだけで答えは下せる。
「……召喚された者は30を超えていたな?」
「はい」
「ではその4人をダンジョン地下10階層へ連れて行け」
「……承知いたしました」
ダンジョン地下10階層以降は不明領域である。存在自体は確認できるが、魔素濃度の濃さから通常人類の生存が不可能である為に、アリスデア王国も探索を断念した世界。
アリスデア・ダンジョン地下9階層にポッカリと開いた大穴こそが10階層への入り口である。
近寄るだけで魔力酔いを起こしかねないほどの空間に転移者4人を連れて行き、最終的には突き落とす。
「口減らしは一先ずその4人でいいだろう。くれぐれも、我々が仕向けた事であると他の転移者共には悟られるな」
協力体制は維持する。
だが、資金面において役立たず、未来の開花にすら希望が見えない様な存在に投資する必要がない。
投資をする上で能力値以上に技能が求められるのは当然と言えた。
「おーい、ギャリッド。戻ったぞ」
ギャリッドの手元に見えた鳥が空へと羽ばたいていく。直ぐに居住いを直し、ギャリッドはマルスへと向き直る。
「んじゃ、魔法使い組と近接組に分ける」
技能に魔法関連の物が有れば魔法使いに分類される事になる。この時点で魔法使い技能とそれを持たない者に分類されると言うだけで技能無しに対して不自然さを抱かれることは無い。
「魔法使いの方は一旦、ギャリッドについて行ってくれ。コイツが案内する」
さて。
マルスは転移者を一瞥する。
技能無しの4人には細心の注意を払う必要がある。とは言え、彼らをダンジョン地下10階層に突き落とすまでは、だが。
そうなってしまえばい不慮の事故を取り繕えば良い。まずはこの4人を集団の中から取り出す必要があるが、マルスが見る限りでは周囲との関係も深いと言う訳ではないようだ。
「魔法使いは────」
点呼した者たちがギャリッドの方へと集まる。
「残りは俺の方だ。今日は取り敢えず適当に身体を動かすだけだ」
実行に移すにしても言い訳の仕方が問題になるわけだが、幸いな事にダンジョンを知っているのはアリスデア王国の国民であり、異世界からの転移者ではない。
ならば、あの大穴を突如の崩落としてしまえば不慮の事故であると考えられる。誰一人として、転移者である彼らには真実を知る事は出来ない。
技能にもその様な類がない事は確認済みであり、この計画に問題は無いことは確かだ。
「なら、鬼ごっことかどうすか?」
春紀の提案にマルスは「ま、いいんじゃないか?」と返せば、誰が鬼をやるかという話になっていく。
ステータスを報告に来た際、マルスは技能無しの顔を覚えた。彼らを観察する様に自然と目を向けるがどうにも鬼ごっこに積極的では無い様に見える。
「…………」
それにしても鬼が決まらない。
余りにも遅い為に段々とマルスも腹が立ってくる。いい加減にしろと言いたくなったところで漸く鬼が決まったらしい。
「額田と……安村か」
ルールは単純な鬼ごっこ。
捕まれば鬼になり、最終的に鬼だった者の負けとなる。
「はい、スタート」
マルスの合図によって始まり、春紀は当然の様に光太郎へと向かっていき、開始10秒も経たずに鬼が代わる。
「ほら、来いよ」
春紀が陰湿に笑う。
光太郎は走り始めるが、やはり遅い。今、目の前にいる春紀を捕まえることができなければ基本的に誰も捕まえる事はできない筈だ。
「…………」
周囲を見回して、どうでも良さげに金丸は本を読み始める。智に肩を右手で触れられるが気にした素振りがない。
「……鬼が1人になったな」
結局、鬼ごっこは春紀による光太郎への虐めであり、見せしめ以外の何物でもなくつまらない物となってしまった。
別に晋は楽しみたいと思っていた訳でもないが、見るに堪えない物だと呆れた様にため息を吐いた。
「俺も本とかあったらな……」
晋がチラリと鬼になった金丸を見るが、先程と何ら変わらずに同じ姿勢のまま平然と本を読んでいる。
彼のポーズに変化があるとすればページを捲るために指を動かす時だけだ。
誰一人として鬼ごっこが継続されていると思っていない。晋は周囲を見回してから地面に座り込む。
煽る春紀に対しムキになって腕を振り回す光太郎の姿は惨めさを感じさせた。
何も隠さない。




